「洋食屋」の看板とともに気になる一言……
高円寺駅前のにぎやかさが減り、のんびりムードの中に「オムライスが美味しいお店です」の看板が。文字どおり、この店の看板商品は、ハヤシソースがかかったオムライス。洋食のシェフとして長い経験を持つ、店主の長谷川さん自慢の一皿に期待が高まる。
高い技術と、たっぷり食材。そして「とろとろ」にかける情熱
この日にオーダーしたのは、とろとろオムバーグ1100円。ハヤシソースがかかった「とろとろオムライス」の上にハンバーグがのった、お得でボリューム満点なメニューだ。
オーダーして、長谷川さんが最初に手を付けたのはハンバーグ。パンパンパンと両手を使って軽く空気を抜き、フライパンに入れたそのとき、「むむ、大きいな…」と思った。それもそのはず、肉の重さはなんと160g。これだけで通常ならばメインになる量だ。
お次は、ベーコンと玉ねぎが入ったケチャップライス。こちらも具がたっぷりで、フライパンを振るごとに、ご飯とケチャップと具が混じり合っていく。手際よくスピーディーに仕上がっていく様子は、見ていて気持ちよくなるほど。
さて、いよいよ卵の登場だ。一皿のオムライスに使用するのは、なんと3Lサイズの卵が3個という贅沢さ!
鉄のフライパンに卵液を流すと、じゅうっという音。フライパンを傾けて卵を寄せていく作業で、あっという間にきれいなオムレツが仕上がった。
こだわりの卵と、3日間かけて作るソース。抜群のマッチング
注文からわずか数分という早さでオムライスが目の前に。玉子のつやつやした濃い黄色とハヤシソースのとろりと濃厚な茶色、そしてケチャップの赤が鮮やかだ。
ハンバーグにスプーンを入れてみるととてもやわらかい。ひと口食べると、表面はぷるぷるで中はとろとろのオムレツと旨味たっぷりのハヤシソース、そしてふんわりとしたハンバーグが一体となり、ふくよかな旨味と甘みが広がった。
適度な弾力がある卵は、青森県の卵専門の農家から仕入れている。鮮度がよいため、半生に近いとろとろ状で仕上げるのは、絶妙な火加減で調理できるのだという。
また、ソースの旨味は牛すじのものだ。牛すじや牛バラ、玉ねぎ、人参を、3日間かけて煮込んで作るデミグラスソースをベースに、牛すじや野菜をさらに加えて煮て作るハヤシソースは、まったりとした濃厚なコクがたまらない。こちらも玉子に負けず劣らぬとろとろさだ。
ハンバーグは豚肉7、牛肉3の合い挽きを使用。噛むたびにほろりと崩れるやわらかさで、適度に感じる肉々しさがパンチを加えている。
最後に、ケチャップライスの存在を忘れてはならない。玉子とソースが甘さのある旨味ならば、こちらはケチャップのさわやかな酸味が魅力だ。炒めたベーコンと玉ねぎの旨味が自家製のケチャップにより引き立てられ、オムライス全体をいいバランスでまとめあげていた。最初はボリュームに圧倒されたけれど、結局ぺろりと完食してしまったのは、この味のバランスの良さにほかならない。
質の高い素材をふんだんに使い、丁寧に作り込まれたオムライスに、誰もが大好きな“みんなが求める洋食の味”を見たように思った。
海を見ながらほっとするような店に
「海を見てるだけで満足」と話す長谷川さん。店内のそこかしこに、海の写真や貝殻がインテリアに溶け込んでいる。「自分が大好きな海を眺めながら、お客さんにもほっとしてもらいたい」という気持ちの現れだ。
地元である高円寺のこの場所で店をオープンしたのが2010年。これからも、おいしくてボリュームのある洋食を提供し続けたいと語った。
取材・⽂・撮影=ミヤウチマサコ