おい、編集部。

山手線の乗降客数とかでなにかと話題になること多い鶯谷駅。

駅出てすぐラブホ。
いーね!!!
なんだか今日いけそうな気がする〜。なんつって。

 

お、来たぞ来たぞ。
「お待たせー。」
今日もやつは楽しげに歩いてきた。

明るい時間のラブホ街。なんか新鮮。

今回も、オレのバイブル『東京散歩地図』のコース通りに行く。まず最初は、俳人・正岡子規の旧家である子規庵だ。

のだが。

おい、散歩の達人編集部。ほんとにここ通って行ったのかよ。
ルート通りだとがっつりラブホ街じゃん。
オレの鼓動が速くなっている。
落ち着けオレ。
こんなときは得意の宅建知識だ。

「エ、エルボー」動揺して声が裏返る。
「どうしたの?」

エルボーはラブホ街でも動じない。

「普通のホテルとラブホの違いって知ってる?」
「うーん、なんとなくしかわかんないなぁ。うちの地元とか、区別のつかないホテルいっぱいあるよ」
「じつは色々と決まりがあるんだよ」
「へー。そうなんだ。」

【宅建ワンポイント】 ふつうのホテルとラブホテルの違いって何よ

まずはふつうのホテル(という言い方もなんですが笑)は旅館業法の適用を受ける。ホテルをやろうと思ったら都道府県知事の許可が必要になる。

そして建築基準法という法律で、ここにはホテルを建てないで、という規制もある。わかりやすく言うと「閑静な住宅街」と「大規模な工場街」でのホテル営業はご遠慮くださいという程度。宅建的に言うと、「閑静な住宅街」は第一種・第二種低層住居専用地域、第一種・第二種中高層住居専用地域、田園住居地域。「大規模な工場街」は工業地域と工業専用地域だ。こういうエリアを避けさえすれば、あとはどこにでもホテルを建築できる。

対してラブホテルは、風営法で規制されていて、公安委員会(警察組織)に届出書を提出しなければ営業できない。そして建築基準法でも、先ほどのふつうのホテルとは違って、ほとんどの地域で建築禁止だ。

唯一、商業地域で建築できる。

ただし商業地域であっても官公庁施設、学校、図書館、児童福祉施設などの近くはダメだし、都道府県の条例で立地禁止地域も定められちゃう。なんだかんだ結局、商業地域であっても建築禁止となっている場合がとても多い。となると事実上、新しく風営法上のラブホテルを建築(営業)することはむずかしい。ラブホには結構制限があるのだ。

そもそもラブホってなんなの?

では次に、風営法での「ラブホテル」はどのようなものか。お待たせしました。では定義を見て笑いましょう。条文を少し簡単にしてあります。

【風営法によるラブホテル営業の定義】
専ら異性を同伴する客の宿泊(休憩を含む)の用に供する政令で定める施設(政令で定める設備を有する個室を設けるものに限る。)を設け、当該施設を当該宿泊に利用させる営業。

まず用途としては「専ら異性を同伴」しての「宿泊」のためであって、この「宿泊」には「休憩」が含まれます。

……よく作ったなー、この条文。笑えます。ナイスですねー(全裸〇督)。

 

んで、(1)「専ら異性を同伴」しての「宿泊」という用途に供する
(2)「政令で定める施設」で、さらに、
(3)「政令で定める設備を有する個室を設けるもの」といっている。
数式で表すと、(1) + (2)+ (3)= ラブホテル。

順々に見ていきましょう。
(1)「そういった用途」は今説明した通りなので(2)「政令で定める施設」から。

(2) 「政令で定める施設」とはどんな建物か

それは、以下のような建物。

①ホテルと称しているがレストランやロビーがない(あっても小さい)ホテル。
②建物の外周(外壁)などに、「休憩2時間◯◯円」というような看板がある。
③ホテルの出入り口に目隠し的なものがある。
④フロントにカーテンなどが取り付けられていて、直接、顔をあわせない。
⑤機械その他の設備の操作で鍵の交付を受けることができ、そのまま個室に入ることができる。

ここで早合点してもらっては困る。上記のようなホテルであったとしても、それでラブホテルかというと、そうではない。

 

もう一度、ここで数式を復習しておこう。

(1) + (2)+ (3)= ラブホテル。

 

いまは(2)を見てきた。

では、(2)のようなホテルであったとしても、その個室(つまり部屋)に、次の(3)「政令で定める設備」が設置されているかどうか。

(3)「政令で定める設備」とは

その設備とは、この2つ。部屋にこのどっちかがあれば、風営法上のラブホテルとなる。

《設備:その1》動力により振動し又は回転するベッド、横臥(おうが)している人の姿態を映すために設けられた鏡(「特定用途鏡」という。)で面積が1㎡以上のもの、又は2つ以上合わせてそれらの合計が1㎡以上のもの(天井、壁、仕切り、ついたてその他これらに類するもの又はベッドに取り付けてあるものに限る)。その他専ら異性を同伴する客の性的好奇心に応ずるため設けられた設備。

《設備:その2》政令で定める物品(アダ〇トグッズ)を提供する自動販売機その他の設備。

要は、いかにもラブホテルだという建物であっても、部屋に
・回転ベッドがない
・1㎡以上の特定用途鏡(←ネーミングが秀逸。笑)が取り付けられていない
・アダルトグ〇ズの自販機がない

ということだと、なんと風営法上のラブホテルにはならないのだ。

 

特定用途鏡に関しては、「鏡台はどうだ」「いや、あれは特定用途鏡には入らない」みたいな議論まであったらしい。そんなことを秀才たちが真剣に考えていたことを想像するとなんだか笑えるね。

 

それに、今どきラブホで回転ベッド見ねーし。
そんなわけで「これってラブホテルじゃん」と思えるホテルでも、いま現在ほとんどは旅館業法上の“普通の”ホテルとなっているようだ。

ちなみに鶯谷がラブホ街になったわけは、オレも気になって色々と本を読んでみたが、はっきりとしたところはよくわかっていないようだ。まぁ、謎が多いからより一層魅力的に感じるのかもしれない。

ラブホの隣に普通のホテル。

【宅建ワンポイント】ついつい気になる耐震基準について

木造平屋建て。見た感じからして「旧耐震基準」だ。

次は『子規庵』。エルボーはこのタイプの建物が好きそうなので行ってみた。

でもオレ、あんまり興味ないんだけどなー。
オレが行きたいのは。
興味があるのは。
とにかく、ここじゃない。

 

でも、焦っちゃダメ。

 

まずエルボーをいい気分にさせなければ。よし、入ってみよう。

だがしかし。

コロナの影響でやってなかった。

「新耐震基準」と「旧耐震基準」

『子規庵』の佇まいを見てふと耐震基準に思いを馳せるオレ。

 

そうそう、中古の戸建てやマンションを買おう、なんていうときに注意してほしいことはいくつもあるけど、まずは「建物の耐震性」かな。

日本は地震大国だしね。聞いたことあると思うけど「新耐震基準」と「旧耐震基準」があって、もちろん新耐震基準に基づいている建物のほうがいい。

 

んで、その建物が新耐震基準なのか旧耐震基準なのかは、いつ建てられたのかによる。

昭和56年(1981年)5月31日以前に着工された建物だったら旧耐震基準で、6月1日以降だったら新耐震基準だ。

ちなみに旧耐震基準とは、昭和25年(1950年)から昭和56年5月31日までに適用された耐震基準。なんで昭和25年からなのかというと、この年に建築基準法が施行されたから。そして新耐震基準となったきっかけは、昭和58年(1978年)に発生した宮城県沖地震。マグニチュード7.4で震度5。家屋倒壊の被害が甚大で、死者28名、建物の全半壊は7400戸にも上った。

 

そういうこともあって、より厳しい新耐震基準となったわけです。

 

でね、新耐震基準といっても「巨大地震でも建物はだいじょうぶ」ということではなく「震度5強程度の中規模地震では軽微な損傷、震度6強から7に達する程度の大規模地震でも倒壊は免れる」という程度です。つまり、巨大地震の後に「建物」を今までどおり使えるかどうか。それはまた別の話みたい。震度7くらいの地震だったら倒壊しない(はず)だよー。ということ。

子規庵越しにラブホと気持ちのいい青空。

「建物の中、見たかったなー。ほかにあるかなー。」
「え、どういうのが見たいの?」
「和風っぽいの。」

そうだ。この街のことだから、もしかしたら古い和風の「連れ込み旅館」があるかもしれない。
さらにさらに、そうだ、部屋に回転ベッドが残存しているかもしれんっ!!!!
オレはそれを確かめねばならない!

ぐはははははははぁー!!!
勝った。
ついに、勝った。

【宅建ワンポイント】用途地域と建築制限~どんなとこなら住めるのか

オレは子規庵の前で悶絶しそうになった。エルボーは子規庵の前の路地を、さらに奥に進んでいく。

 

いいぞいいぞー。もっともっと、奥に行こう。

ラブホの前が住宅。日常と非日常が混在する街。

「ここは確か商業地域だ。」
「ん? ここ住宅もあるじゃん。」
「商業地域は住宅もオッケーなんだ。」
「なんか“商業地域”って言葉だけ聞くと、新宿駅前みたいな繫華街のイメージだけど。」

 

……なるほど、エルボーの言いたいことが分かった。

用途地域での建築制限と、よくある勘違い

まず、都市計画法っていうので用途地域というのが決められている。それぞれの地域に応じて、建ててよい建物の用途が決められているのだ。

用途地域は全13種で、住居系が8つ、商業系が2つ、工業系が3つだ。

住居系(8つ)
①第一種低層住居専用地域
②第二種低層住居専用地域
③第一種中高層住居専用地域
④第二種中高層住居専用地域
⑤第一種住居地域
⑥第二種住居地域
⑦準住居地域
⑧田園住居地域

商業系(2つ)
⑨近隣商業地域
⑩商業地域

工業系(3つ)
⑪準工業地域
⑫工業地域
⑬工業専用地域

ざっくりいうと、住居系の用途地域だったら住居メインとなり、巨大な商業ビルや危険な工場などは建築できない。

 

そしてここで初心者にありがちな勘違いを。

住居系だと住宅メイン。
商業系だと店舗メイン。
工業系だと工場メイン。

住居系の用途地域だったら住居メインとなり、巨大な商業ビルや危険な工場などは建築できない。ここまではいい。

……ならば逆に、商業系や工業系には、居住用マンションなどの住宅は建てられないのでは?

 

と思っちゃう人も多いみたい。

でもね。じつはそうじゃなくて居住用マンションなどは、商業系用途地域や工業系用途地域にも建てられる。正確にいうと、工業系の「工業専用地域」には建築できないけど残りの12の用地地域であれば住宅OKだ。だからこの上野界隈のバリバリの商業地域であっても住宅が建っている。

商業地域の路地からみた風景。商業施設も住居も入り混じる。

ただ街によっては「ここには居住用マンションを建てないでくれ」と規制をしているところもあったりする。

たとえば大規模な工場が海外に移転して、まぁまぁな規模の空き地が出たとしよう。その空き地を手に入れた開発業者が、そこにタワーマンションを建てた。似たような空き地があって、別の業者がタワーマンションを建てた。

そういうことが続いて、タワーマンションが林立する街ができあがった。

でもね、もともと工業系用地だったから、そこの街には生活関連施設が整っていなかったりする。大きなトラックが行き交うことができる産業道路みたいな施設は充実しているけどね。そこに多くの人が住み始めたとなると「あれ? 小学校が足りなくね?」とか「郵便局なくね?」とかそんな事態も起こり得る。だから規制をする、という流れだ。

はい、やっと神社です。

神社を巡ると言いつつ、ラブホしか堪能してないオレたちは散歩コースに立ち戻り『小野照崎神社』に行ってみた。

国指定有形民族文化財の富士塚。
なんだかセクシー。

……ってしていたらまたエルボーがいない!!

今日もおじさんか?

猫だった。

さあ、もうそろそろおやつの時間だ。『Iriya plus café』でパンケーキを食う。

最近エルボーのために甘いものを調べるが、なんかオレの方が完全にハマっている。甘党になっている。

甘いものを食べるとエルボーは機嫌がいいようで、そんでもって最近慣れてきたのか、けっこう話せるようになった。

「あのさ、エルボーさ。前から気になってたんだけど、なんでいつもスニーカーなの?」
「散歩好きだから。」
「でも、初デートくらいはもうちょっとこうさ、ヒールとかでさ。」
「男の子と出かけるときにヒールはいてめかしこんで自分じゃない自分になるのは、20代で卒業したの。」

うん、まあそれもそうだよな。素でいくのが一番だ。いろんな意味でいい感じに満たされたので、散歩ついでに鷲神社方面まで歩く。「オレ、酉の市って行ったことないんだよね」と言うと「ほら」とスマホを見せてくれた。盛り上がっている酉の市の様子。エルボーはカフェでバイトを始めてから毎年行っているそうだ。

この活気がいいよね。

そんな話をしていながら、一刻も早く鶯谷方面に戻りたいオレは『飛不動尊』あたりはショートカットして『千束稲荷神社』へ向かった。

昔近くに樋口一葉が住んでいて、有名な「たけくらべ」にも出てくる神社らしい。だがオレはそれよりもアレが気になってしまった。エルボーに話したい。

「ねえ、気にならない? あの斜めのマンション。」

【宅建ワンポイント】斜線制限、たまには見上げてくれたまえ

「斜め屋敷」の謎。

街を歩いていると、こうした「斜め」を見つけることができる。たまには見上げてみてくれたまえ。とりわけここの斜めはかなり見やすいのではないか。

「斜め」をアップしてみた!!!

建物の上のほうが「斜め」になっているでしょ。なかには「かっこよくするためのデザインなのかな」と思う人がいるかもしれないが、そうではない。

建物の上のほうを、傾斜にして「高さ」を制限をしているのだ。これを「斜線制限」という。なんでこんなことをしているかというと、隣の敷地の日照確保。斜線で高さ制限をすれば、隣地の日照を確保することができる。

 

……と、言葉で説明するのもむずかしいから、写真を見てくれたまえ。オレのおやつで説明する。

オートミールの袋がまっすぐだと、バナナが暗い。

日照を阻害しているオートミールの袋。
ほらね、袋を「斜め」にすると、日照確保!!
illust_2.svg

さて。千束稲荷神社でパワーチャージしたしいい感じだぞ。

 

いよいよだ。

 

宅建知識もたくさん披露したことだし、鶯谷に戻るためにオレの頭はぐるぐる回転している。回転ベッドのあたりからオレの頭は回転しっぱなしだ。

3回目のデートコースがこのあたりなんて、ナイスだぞ。我ながら自分のチョイスに酔いしれている。

人生って、すばらしいですよね。ね、樋口さん。
樋口さんの代表作、たけくらべの出だしも「まわれば」ですよね。

廻れば大門の見返り柳いと長けれど。

よし。廻ろう、鶯谷へ。
帰ろう、聖地たる性地に。

エルボー、オレは君と出会えてよかった。
オレの人生も、うまく回りはじめた。

 

まさに、回転ベッドだっ!!!!

 

「ねぇ、エルボー。」
まさに誘おうとしたとき。

「いい時間だし帰るねー」
エルボーはくるっと回転した。

 

あれ?
そっちに回転するなー!!!

オレの絶叫は、まるで一枚の葉っぱのようにくるくる回転して落ちたのだった。

取材・文・撮影=大澤茂雄(宅建ダイナマイト)

大澤茂雄
1964年生まれ。東京・新宿生まれ。生業は宅建講師。宅建ダイナマイト合格スクールを主宰。平成元年に某大手専門学校でデビューして以来、かれこれ30年以上もこんなことをやっている。持論は「不動産なんて街があっての話だ」。街を歩くのが受験勉強だと強弁し、街角の風景を取り入れたエンタメ系講義を得意とする。相棒は「さんたつ好き」の檜木萌。待ってましたとばかり、今回の企画の原案・モデル・ロケハン・撮影などをやっている。
スタート:JR山手線・京浜東北線鶯谷駅ー(6分/0.4㎞)→子規庵ー(2分/0.1㎞)→ねぎし三平堂ー(15分/1.0㎞)→小野照崎神社ー(6分/0.4㎞)→入谷鬼子母神 ー(15分/1.0㎞)→鷲神社ー(4分/0.3㎞)→飛不動尊 ー(2分/0.2㎞)→一葉記念館ー(5分/0.4㎞)→千束稲荷神社ー(5分/0.3㎞)→ゴール:地下鉄日比谷線三ノ輪駅今回のコース◆約4.1㎞/約1時間/約5500歩
下町の殿堂・浅草寺から遊女の悲話が残る吉原弁財天、酉の市で知られる鷲神社、空の旅の御利益がある飛不動尊、小塚原刑場を伝える延命寺と回向院など、個性的な寺社を巡る下町さんぽ。あしたのジョーや樋口一葉ゆかりの地もあり、散策の興味は尽きない。