「丸の内一帯」は特例容積率適用地区である

待ち合わせは東京駅。お、なんか今日はオシャレしてきたじゃん。

「意外とこういうブーツも長時間歩くのに良いんだよね。冬は足首周りも冷えなくていいし。それに今日は丸ノ内あたりって聞いたから。」

なんだかんだ言ってるけど、やっぱりオレのためにオシャレしてきてるんじゃないのー!!!
1人でテンションが上がっているがそれはバレないようにしなくては。

まずはオレのおすすめのKITTE JPタワーだ。KITTEガーデン(屋上庭園)からの眺望はバツグン。

JPタワー。旧東京中央郵便局舎の再開発。商業施設の名称は「KITTE」。
JPタワー。旧東京中央郵便局舎の再開発。商業施設の名称は「KITTE」。
KITTEから一望する丸の内。まさに「東京」という感じだ。
KITTEから一望する丸の内。まさに「東京」という感じだ。

「私、景色のいい屋上っぽいところ好きなんだよね」

よしきた。やはりそっか、景色のいいところか。オレも「眺望」できるところは好きだ。街を上から見ると、とたんに宅建試験の受験勉強が楽しくなる。なんてったって街並みがわかりやすいからね。

そしたら次はここ。新丸ビル7階のテラス。新丸ビルのお店で蕎麦を食ったり酒を飲んだことはあったけど、明るい時間のテラスは初めてだ。

ここからの東京駅もなかなかいいな。

新丸ビル7階のテラスからも、まさに「東京」という風景を堪能できる。
新丸ビル7階のテラスからも、まさに「東京」という風景を堪能できる。

「東京駅だけ背が低くておもちゃみたいでかわいいね」

よしきた!!!ここで宅建知識の出番だ!!!

容積率を売れる地域、特例容積率適用地区

いまエルボーが見下ろしている東京駅の丸の内駅舎は、平成24年にリニューアルオープン。平成19年から5年以上続いた復元工事で、100年前の創建当時の姿で蘇ったのだ。で、じつはこの丸の内界隈(約117ヘクタール)は、日本で唯一、自分の敷地で使っていない容積率(余った容積率)を、他の敷地に移転(売買)できるという「特例容積率適用地区」エリアなのです。

容積率を移転してもらったほうは、合法的に、本来であれば容積率オーバーとなる超高層ビルを建築することができるようになる。その制度のおかげで、こうしてオレたちは「高層ビルの展望」を楽しめるというわけだ。

具体的にいうと、まず東京駅の駅舎を見てもらいたいんだが、本来であれば、この敷地には「9階建て」まで建築可能(容積率900%)。でもね、ごらんのとおり赤レンガの駅舎は3階までしか建っていない。つまり上空の「6階分」が余っているわけだ。

駅舎の「上空部分」が余っている。
駅舎の「上空部分」が余っている。

JR側は、その未利用の容積率(余っている床面積)のうち、たとえばここ、いまオレたちがいる「新丸の内ビル」の敷地(三菱地所側)に一部を譲渡。

そのほか、余っている容積率(床面積)を新丸ビルやその周辺の敷地にも振り分けた。

余った容積率は周辺の再開発ビル4棟の高層化に使われている。
余った容積率は周辺の再開発ビル4棟の高層化に使われている。

なお、容積率の移転ができるのは「特例容積率適用地区」として指定されている界隈のみ(丸の内界隈のみ)なので、「丸の内」で余っている容積率を、「六本木」に移転するようなことはできません。

ちなみに東京駅の全長は335m。総重量はなんと7万トン。……「7万トン」なんていわれてもピンとこないけど(笑)

免震構造? 耐震構造? 東京駅で採用された工法は?

復元前の東京駅も巨大な建造物だったんだけど、かつての駅舎を支えていたのは、なんと松杭。

松ですよ松。木の「松」。松の杭。

聞くところによると、約1万本の松杭が、けなげに巨大建造物を支えていたそうです。まったく目立たない、まさに縁の下の力持ち。松杭くん、ありがとう(感涙)。で、駅舎復元にあたり、松杭くんたちをガバっと引き抜き、こんどは鉄柱を打ち込んだらしい。そんな鉄筋コンクリートの新たな土台を作り。なんどもいいますけど、このあたりの工程というか苦労というか努力というか、ほんとにまったく、文字どおり、日が当たりません。

いずれにしても難工事だったらしい。そしてその土台に、免震構造を組み込んだのでありました。なので、駅舎のまわりに、こんな表示が。

「免震工法を採用しています」
「免震工法を採用しています」

ご存知の方も多いと思いますが、巨大地震への対策としては、大きく分けてこの2つ。

耐震構造(建物自体を頑丈に作り、揺れと真っ向勝負を挑む)
免震構造(基礎と建物の間に揺れを吸収するゴムを入れ、揺れと戦わない)

これに加えて、一工夫された制振構造(敷地基礎のところではなく、建物の構造部分にダンパー《=サスペンションのようなもの》を入れ、揺れを吸収)というのもある。東京駅の丸の内舎はこんなに巨大なのに、なんと免震構造。巨大建築物の下に、免震ゴムが敷いてある。なので巨大地震が来たら、建造物ごと大きくスライドするのだ。

プレートにも「地震発生時に建物全体がゆっくり動くことがありますので、ご注意ください(最大30cm程度)」という注意書きみたいなのがある。

建造物が揺れてもいいように駅舎のまわりに隙間がある。
建造物が揺れてもいいように駅舎のまわりに隙間がある。

そんな駅舎を見上げていたら「そう言えば、韓国に東京駅に似てるのあったんだけどあれって何で似てるの?」とエルボー。

「なんだっけ、ソウル駅の旧駅舎かな?設計者が東京駅の辰野金吾さんの弟子とかじゃなかったかな。」
「へー。すごい似ててびっくりしたんだよね。韓国行ったとき。」

そっか。エルボーは海外も好きなのか。
いつか一緒に行ってみたいな。
あ、行ってみたいな、じゃない。一緒に行く、だ。
なぜならばエルボーはオレの彼女になるのだ。

あ、わかってますよ。

焦っちゃ、ダメ。

さて。丸の内に来たら仲通りに行きたいところだが、夕方からのイルミネーションを見せたいのでお楽しみはあと。自分が自分におあずけだ。よし、まずは昼メシに行こう。

街を「眺望」してみよう。用途地域のコントラストが見えてくる。

京橋方面へぶらぶらと歩いていくと「なにここ、警察博物館だって」。
エルボーが博物館に引き寄せられていく。

どんな博物館なんだろうか?
どんな博物館なんだろうか?

入ってみるとさっそくドドーンと展示されているホンダVFR。おー、いいねいいね。最近の白バイはCB1300だもんなー。最近はレアになってきたVFR800の白バイとか展示されている。他にも警察の歴史とか制服とか、1階から6階まで盛りだくさんで大人でも楽しめる。

そして進むと街の模型が。街好きのオレとしては、コレこのまま欲しい。

見事な都市計画。美しい街並みだ。
見事な都市計画。美しい街並みだ。

博物館の人たちはそんなこと考えてないのかもしれないけど、写真を見てのとおり、ちゃんと都市計画で作った感じの街になっている。ほらほら。「眺望」できると街がわかりやすくなるでしょ。

でね、この模型の写真の奥のほうに駅があるのがわかるかな。大通りをはさんで、ビルがいっぱい建っている。用途地域のイメージは、おそらく商業地域なんだろうね。建っているビルは4階建てか5階建てだから、容積率は400%というところか。では建蔽率はどうだろう。敷地めいっぱいに建築されているから、建蔽率は100%だ。となると、ここは「商業地域」で、さらに「防火地域」も指定されているということだな。※ちなみに容積率と建蔽率については「上野デート編」でしっかり説明している。

 

……と、博物館側(作成者のみなさんたち)は、そこまで考えてないとは思いますが(笑)。

 

こんどは手前の街区を見てみよう。
青とピンク、茶色の屋根がかわいらしい。真ん中の青い屋根の物件は、12世帯なのかな(大きめの部屋で6世帯かもしれない)。ブロック塀で囲まれている敷地に建っている。住宅っぽいっすね。2階建てだから、容積率のイメージは200%か。となると第一種住居地域か、第二種住居地域か。都内で考えると、ほとんど第二種住居地域はないから第一種住居地域かなー。ん、まてよ。まぁまぁ広い道路の沿道だから、準住居地域という可能性もある。

 

……と、まったくマニアックな話ですみません。

 

あ、そうそう。ちなみにこれは東京・世田谷の三軒茶屋、キャロットタワー(ちなみに高度利用地区に建っている高層ビルです)の遠望ルームから撮った写真なんだけど。

道路沿いにビルが建っている商業系の街と、戸建て住宅街のコントラストが見事でしょ。実際に街を「眺望」すると色々見えてくる。

こうやって街を見ると面白いんだよな〜。

……と楽しんでいたらあっという間に1時間くらい経っていた。日常生活と共にある「警察」だけど改めてみると非日常な世界でもある。そんなこんなで、いろんなことを感じて、かなり刺激になる博物館だった。

さてさて、待ちに待った腹ごしらえ。博物館から歩いてすぐの『Dobro』へ向かう。

日本で唯一クロアチア料理を食べられる店らしい。
日本で唯一クロアチア料理を食べられる店らしい。
エルボーもクロアチア料理は初めてのようで大喜び。土日のランチは予約しないと入れないくらいかなり混むみたい。
エルボーもクロアチア料理は初めてのようで大喜び。土日のランチは予約しないと入れないくらいかなり混むみたい。

オレもエルボーもかなり満足してお腹もいっぱいになったみたいだから、少し歩いてみる。

さあ、今日もいい天気だ。散歩の続きをしよう!!!

江戸の大火と現在の防火対策

次はぐるっと回って江戸城へ。江戸城はどこかというと、そりゃ今の皇居界隈。今日はエルボーと、江戸城と江戸時代に思いを寄せてみよう。

手荷物検査をすませて大手門から入る。

大手門。江戸と現代が混在するダイナミックな風景。オフィス街とはガラッと雰囲気が変わる。
大手門。江戸と現代が混在するダイナミックな風景。オフィス街とはガラッと雰囲気が変わる。

いわゆる江戸時代は、慶長8(1603)年、天下統一した徳川家康が、江戸に幕府を開いてから慶応3(1867)年に政治の実権を天皇に返還するまでをいうそうで、なんと260年あまりに渡ります。

明治から令和まで、まだ150年くらいだから、江戸時代って、けっこう長かったんですね。でも、そんな江戸時代の面影を偲ぶ「モノ」自体が、ほとんど現存していない。江戸時代の弱点、アキレス腱とでもいいましょうか、それは大火。

ご存知のとおり、こちらにあった江戸城本丸も天守閣も、なにもかも、火事でみんな焼けてしまったのであります。

江戸城本丸があったあたりを歩く。
江戸城本丸があったあたりを歩く。

果たして江戸の大火はどれくらいあったのか。一説によると200件以上だそうです。ボヤじゃないんですよ、大火です。大火。260年で200件の大火なんて、尋常じゃないっすよね。

過密都市といわれた江戸の町。時代劇とかでもそんな雰囲気がわかるけど、路地裏までびっしりと長屋で建て詰まっていたんでしょうね。その長屋は、まさに木と紙で作ってある建物。そりゃ火が出ればひとたまりもなかったのでありましょう。江戸の大火は1000戸単位で帯状にゴォーっと延焼していくパターンだったみたい。

ちなみに、江戸城の天守閣が燃え落ちたのは、いわゆる「振り袖火事」。明暦の大火でのことです。

「防火地域」と「準防火地域」

【明暦の大火】別名:振り袖火事
日時:明暦3(1657)年正月18日
状況:本郷丸山本妙寺から出火。江戸城をはじめ江戸の町の大半を焼き尽くす大火となった。若くしてなくなった娘さんの愛用していた振り袖を本妙寺で供養のため焼いたところ、その振り袖が舞い上がって大火になったといわれる。

そのほか、有名な(?)江戸の大火としては

【明和の大火】別名:行人坂火事
日時:明和9(1772)年2月29日
状況:目黒行人坂から出火。麻布、京橋、日本橋、神田、そして浅草などの下町一体を焼き尽くす。

【文化の大火】別名:芝車火事、あるいは丙寅火事
日時:文化3(1806)年3月4日
状況:芝車町から出火。これも京橋、日本橋、神田、そして浅草などの下町一体を焼き尽くす。

さてさて、ときは現在、火災を防ぐためのしくみとして、都市計画法による「防火地域」「準防火地域」という制度があります。定義(都市計画法)は「防火地域又は準防火地域は、市街地における火災の危険を防除するため定める地域とする。」

ということなので、繁華街(防火地域)は、ビル(耐火建築物)が建ち並ぶことになるわけだ。

1657年の明暦の大火以降再建されることのなかった天守閣はこんな感じ。現在のビルに直せば20階建てという高層建築物だったそうな。
1657年の明暦の大火以降再建されることのなかった天守閣はこんな感じ。現在のビルに直せば20階建てという高層建築物だったそうな。
現存するのは天守閣の台座部分だけ。
現存するのは天守閣の台座部分だけ。

そして告白タイムがやってきた!

皇居周辺はかなり見どころが多いので色々まわっているうちにだんだん暗くなってきた。お待ちかねのイルミネーションの時間だ。

東京散歩地図の4回目のコースがたまたまここらへんだったが、オレは仲通りの雰囲気が好きだ。そして、ここのイルミネーションが1番好きかもしれない。

この街並みとシャンパンゴールドのイルミネーションが最高だ。
この街並みとシャンパンゴールドのイルミネーションが最高だ。

街にはカップルがあふれている。オレは気持ちが抑えられない。

オレもいろいろあったが、今夜、これから、オレの天守閣が再建されるのだ。
いままで、再建されることがなかった天守閣。
エルボーと再建する天守閣から、オレたちはふたりで人生を「眺望」するのだ。

 

きっときっと、シアワセいっぱいの人生を。

よし。

気は熟した。

告白しよう。

オレの心象風景。シアワセ感満載。
オレの心象風景。シアワセ感満載。

「あのさ」
「ん?」
「つ・・・付き合ってくれない?」
「散歩に?」
「じゃなくて・・・オ」
「ごめん。」

食い気味にごめんってなんなんだよー!!!
くるりと後ろを向き猛ダッシュで走り去ってゆくエルボー。

お前は箱根駅伝の選手か!!!
なんだ?オレは振られたのか!?

 

高層ビルのように天高く建てられていたオレの天守閣は崩壊してしまったのだった。

取材・文・撮影=大澤茂雄(宅建ダイナマイト合格スクール)

大澤茂雄
1964年生まれ。東京・新宿生まれ。生業は宅建講師。宅建ダイナマイト合格スクールを主宰。平成元年に某大手専門学校でデビューして以来、かれこれ30年以上もこんなことをやっている。持論は「不動産なんて街があっての話だ」。街を歩くのが受験勉強だと強弁し、街角の風景を取り入れたエンタメ系講義を得意とする。相棒は「さんたつ好き」の檜木萌。待ってましたとばかり、今回の企画の原案・モデル・ロケハン・撮影などをやっている。