根岸・入谷・竜泉の基礎知識
根岸は、戦災を免れたため、今でも戦前から残る町家や長屋を見ることができる。近年はビル化も進むが、路地裏に立つ木造家屋の居酒屋『鍵屋』は、昔ながらの根岸を代表する景観ともいえる。落語家・8代目入船亭扇橋が詠んだとされる俳句に「梅が香や根岸の里の侘住まい」がある。風流な情景を思い浮かべるが、落語家・初代林家三平の住居『ねぎし三平堂』や正岡子規の住居跡である『子規庵』などのすぐ隣にラブホテルが林立、このアンバランスが面白い。「恐れ入谷の鬼子母神」という洒落で知られる入谷も戦災を免れた街。メインストリートの金美館通りには、古い商店や大正時代建築の小学校などが立ち、下町の風情が色濃く残る。
1 子規庵
子規の生きざまを知る木造家屋
俳人・歌人の正岡子規が明治27年(1894)から34歳で亡くなるまで住み、句会や歌会を開き、文人たちと文学談義をしたという。現在の建物は昭和25年(1950)の再建。
2 ねぎし三平堂
落語家・林家三平を知る記念館
昭和の爆笑王といわれた落語家・初代林家三平。展示された写真、衣装、台本、ネタ帳などから当時の活躍がしのばれる。館内の高座では毎月第3土曜17時30分から落語会を開催。
レストラン香味屋
東京の下町洋食を代表する店
一番人気はメンチカツ2200円。きめ細かなパン粉をまぶしたカツはフォークを入れるとサクリと切れ、肉汁がしみ出す。1週間かけて煮込んだデミグラソースも美味。ビーフシチュー3800円も絶品だ。
3 小野照崎神社
祭神は学問・芸能・仕事の神様
平安時代の歌人・小野篁を祀る。篁は学者としても優れ、国の要職も務めた才人。社殿は慶応2年(1866)の建築。文政11年(1828)建造の富士塚は国指定有形民俗文化財。
iriya plus café
手作りにこだわる古民家カフェ
毎日手作りするケーキは6種類ほど。この日のおすすめのモカバターケーキ500円は、エスプレッソを丁寧に練り込んだバタークリームが秀逸。パンケーキや食事メニューも豊富にそろう。
4 入谷鬼子母神
子育て・朝顔市・七福神の古刹
寺名は真源寺だが、鬼子母神を祀ることから「入谷鬼子母神」と呼ばれる。「恐れ入谷の鬼子母神」とは、江戸っ子が好んだ洒落。七夕前後に開催される朝顔市は夏の風物詩。
5 鷲神社
冬の風物詩・おとりさま発祥の地
「おとりさま」とも呼ばれる古社。各地で行われる酉の市はこの神社が起源で、もとは11月の例祭だった。江戸の風物詩として親しまれ、樋口一葉や正岡子規などの文学作品にも登場する。
6 飛不動尊
旅の安全を守る空飛ぶお不動様
旅人の守り本尊、航空安全のお不動様として信仰が篤い。通信が途絶えていた小惑星探査機「はやぶさ」の帰還を祈願したところ、無事帰還したことで有名になった。
7 一葉記念館
24年間の短い生涯に思いを馳せる
記念館が立つ東京都台東区竜泉(旧下谷龍泉寺町)は、樋口一葉が荒物・駄菓子店を営みながら、代表作『たけくらべ』の着想を得た地。館内では、直筆原稿や書簡、愛用品などを展示する。
8 千束稲荷神社
一葉も楽しんだ神社の祭礼
寛文年間(1661〜73)の創建と伝わり、龍泉寺村(現竜泉)の氏神様として崇敬されてきた。樋口一葉の名作『たけくらべ』には神社の祭礼の様子が描かれ、境内に文学碑が立つ。
【街探検】幕末から続く、老舗酒場『鍵屋』
昔の居酒屋文化がそのまま残っている大人の酒場
東京の老舗酒場といえば、筆頭に名があがるのが『鍵屋』。安政3年(1856)に酒屋として創業し、その後、店の一角で酒を飲ませるようになった。いわゆる角打ちだ。戦後間もなく居酒屋スタイルになり、昭和49年(1974)まで創業地で営業。
その後、大正元年(1912)建築の日本家屋を改装した現在の店舗に移転した。江戸時代から続いた旧店舗は、東京都小金井市にある『江戸東京たてもの園』に移築・展示されている。
店内は映画のセットを見るようなレトロな空間。突き出しの煮豆がここの名物。味噌おでんや煮奴、たたみいわしといった酒肴も昔ながらのもの。
この店には一つだけ決まりがあり、女性だけでの入店はできない。「先代の女将の遺言なんです」と笑って答える店主との会話も楽しみだ。
取材・⽂・撮影=アド・グリーン
『街がわかる 東京散歩地図』より