壁に残されたテープの跡が見事に顔に見えてしまうのは、上の2つの白いテープに黒目を思わせるくぼみがあるせいでしょう。さらに鼻と口の位置にちょうどいい長さのテープが配置されていますが、やや表情がかたいですね。もしこれが福笑いだったらもっとバラバラな失敗作のほうが周りの人を笑顔にしてくれる気もします。
三角に破けた跡の位置が絶妙に笑った口を思わせるおかげで、目がないのに笑顔にしか見えません。目を書き足す人が現れないか期待……いや、心配しながらこの看板を見守ることにしましょう(無言板とはいえ落書きはしてはいけません)。
それにしてもこうなるともう元に何が書いてあったかなんてまったく関係なくなってしまうあたりも含めて笑いが止まりません。
無言板の下にある消防用水の2つの送水口に鎖が弧を描くように垂れていてどうにも笑顔に見えてしまいます。鼻の位置に何かあるのも功を奏しています。
白くなったプレートには赤で消火用水と書かれていたに違いありませんが、日当たりの良い場所なので紫外線ですっかり消えてしまったのでしょう。防火管理者の方、これは張り替えをお願いします。
電気コンセントや車のヘッドライトなど工業製品に顔パレイドリアが多く見られるのはやはり人が作り出した形だからでしょうか。生物に模した形にすることで機能的になったり、ユーザーが愛着を抱きやすくなったりという利点もあるでしょうが、この写真のようにゴミ箱までもがなぜ笑顔でなくてはならないのかについてはわかりません。横長の一つ目は手塚治虫『火の鳥復活編』のロビタのようだなと近寄ってみたら、左右の端にあるネジ頭のつぶらな瞳と目が合って、いがらしみきお『ぼのぼの』に出てきそうな可愛い顔に吹き出しそうになりました。
街角で見つけた描き人知らずのアノニマス絵画です。左上部に女性の顔が見えませんか? 張り紙を留めていた両面テープの跡が偶然にも人の顔を思わせる顔パレイドリアですが、その憂いの表情は幻想的で遠目にもなかなか味わいがあります。
こちらはわずかな時間の偶然が生み出した顔。壁の真っ白い無言板に隣家の屋根の影が差し込んで、柳原良平が描いたサントリーのトリスウイスキーの宣伝キャラクター「アンクルトリス」のような三角の鼻を大きく描いてくれました(無言板のフレームの天辺と地辺がちょうど目と口にあたります)。
長方形のフレーム全体で切り取ると昔のアップルコンピューター(Mac OS 8から9の時代)の起動画面にあった四角い顔のマークのようにも見えます。
光と影のどちらを図と地と見るかでまた別のいろいろな見方ができそうです。さて、あなたの目にはどんな福を呼ぶ顔に見えますか?
文・写真=楠見清