庭が美しい昭和の古民家が温浴施設に大変身!
『前野原温泉 さやの湯処』が立つ場所は、昭和21年(1946)に建てられた精密金属材料メーカー創業者の邸宅跡。50年にわたって住まいとして使われてきたが、1996年に隣接する工場と事務所の移転に伴い、住居も移転した。以来、建物は空き家となり、取り壊されるのを待つのみとなった。
しかし、創業家は「この場所をどうにか残したい」という想いを抱き続け、何年もの間、新しい姿を模索し続けたという。そして、古民家再生の建築家と作庭家に巡り会い、2005年に『前野原温泉 さやの湯処』として生まれ変わった。
往時の建物を生かした唐破風の玄関が印象的な純日本建築。館内に足を踏み入れると窓の外に枯山水の苔庭が広がり、古民家をリノベーションした食事処もどこか懐かしい雰囲気を漂わせる。古きよき和の趣を感じさせる大人の空間になっている。
うぐいす色の源泉をかけ流しで楽しめる露天風呂
源泉は地下1500mから汲み上げているナトリウム塩化物強塩温泉。都内では珍しいうぐいす色のにごり湯だ。塩分濃度が高く、塩分が肌に付着し汗の蒸発を防ぐため、保温性に優れ、湯冷めしにくいことから「熱の湯」と呼ばれている。
この源泉が注がれるのが露天エリアにある源泉風呂。温度維持のために加温しているが、源泉をかけ流しにしている。隣接する露天風呂も温泉だが、こちらは温泉資源保護のため、源泉を加水・循環して使用。
露天エリアに一画にある小屋は薬草塩蒸風炉。漢方薬草の粉末を高温の蒸気で熱し、室内に充満させて薬効と香りを楽しむミストサウナだ。室内に用意された塩を体に擦り込むことで発汗を促し、デトックス効果と美肌効果が期待できるという。このほか露天エリアには、一人サイズの浴槽のつぼ湯や寝ころびの湯がある。
各種機能浴が楽しめる内湯。庭園には貸切風呂もある
内湯は井戸水を使用。高濃度炭酸泉、立ち湯、寝湯、座り湯、腰掛湯などがあり、ジェットやマッサージ、バイブラなどの機能が付いた浴槽もあるので、浴槽のハシゴも楽しそうだ。
内湯に併設する熱気風炉(ドライサウナ)は明るく広々とした階段状サウナで、室温は80〜90度。たっぷり汗をかいたら、水風呂でクールダウンしよう。
庭園内にある離れの湯「燈(あかり)」は、都内のスーパー銭湯では珍しい貸し切り風呂。都の条例によって、夫婦や家族であっても男女の混浴はできないが、ゆったり、プライベートな入浴を楽しみたいという人にはおすすめだ。1室1時間2100円。
4タイプの岩盤浴。火照った体は冬の部屋でクールダウン
2階は岩盤浴フロア。40〜50度に温められた天然岩盤の上に、タオルを敷いて着衣のまま寝て発汗を促す。岩盤から発せられる遠赤外線とマイナスイオンが、新陳代謝や基礎代謝を高め、疲労回復やリラックス効果、デトックス効果など、さまざまな効果が得られるという。
岩盤の種類や温度、趣の異なる春・夏・秋・冬の4つの部屋があり、時間制限や入れ替えがないので、1日中、自分に合ったペースで楽しめる。冬は冷気浴の部屋。温かい部屋と交互に利用すれば、毛細血管の伸縮を促し新陳代謝を高めるという。岩盤浴740円(岩盤浴着、岩盤用大判タオル付き)。
古民家をリノベーションした食事処の自慢は十割そば
食事処「柿天舎(してんしゃ)」は、かつてこの地に立っていた日本家屋を改装した店。国産そば粉を粗石臼で挽いた打ちたてそばや、常駐する管理栄養士がメニューを考えるという季節替わりの料理を味わうことができる。
旧邸宅の面影を残す奥座敷は、枯山水の苔庭を眺めながら食事ができる。グループや家族連れなら、料亭のような趣がある「桜の間」と「万年青の間」と名付けられた2つの個室を利用するといい。
『前野原温泉 さやの湯処』の一番の特徴は、古民家をリノベーションした建物であること。歴史を経た苔庭も美しく、日本旅館のような風情さえ感じる。
木々に包まれた露天風呂は、都内であることを忘れてしまいそうな風趣あふれる空間。珍しいうぐいす色の源泉に浸かり、庭を眺める食事処で名物の十割そばに舌鼓を打てば、小さな旅気分を楽しめる。大人の休日を過ごすにふさわしい趣のある日帰り温泉といえる。
取材・文=塙 広明、画像=前野原温泉 さやの湯処