予算1000円!旅とは
我が家の電子レンジが壊れたことにはじまる。旅行に行けるその日まで残そうと決めていたお金が最新家電になってしまった。そのショックと出かけられないストレスが沼の化身になって現れて、私を飲み込む。節約と旅を両立できる場所を求めて、行き着いた先がアンテナショップだった。
ここでアンテナショップを巡る1000円旅、略して「せんたび」のルールを説明したい。
・予算1000円
・予算内ならなにを買ってもOK
・オーバーしたら、自腹
1000円ポッキリでご当地を堪能する品を買う。これだけだ。
東京で山形愛を体感できる『おいしい山形プラザ』
山形県のアンテナショップ『おいしい山形プラザ』は、有楽町駅から歩いて5分ほど。交通会館や銀座・有楽町周辺のアンテナショップをはしごするのにもぴったりだ。
お店を案内してくれるのは副店長の斎藤さん。会うや否や聞いたのは、店内のBGMのことだった。「今流れているのはスポーツ県民歌『月山の雪』で、県民にはおなじみの曲です。BGMはこのほかにも、民謡など山形県ならではの曲を流しています。」と斎藤さん。
そもそも、私の地元にはスポーツ県民歌というものが浸透していないのだが……。調べてみると、昭和23年に「全日本陸上競技選手権大会」が山形県で開催を契機に作られた曲で、県内のスポーツ行事ではよく流れる曲らしい。アンテナショップには、BGMからも県の習慣や文化があらわれるのだなぁ。
お店をぐるりと一周。店名にある通り、新鮮な野菜にフルーツなど県産おいしいものが並ぶ。寒い地域特有の長期保存するための発酵食品が多く、おみ漬けに、青菜漬け、ぜんご漬けなど、お漬物の種類も豊富だ。
お酒の品揃えは、米どころであり、果物王国ならでは。有名すぎて説明不要の銘酒もあり、お酒好きはボトルを持って帰るための袋を用意するのをオススメする。
東北といえば、芋煮である。自治会の集まりや学校行事などでは大鍋で作り、豚汁感覚で配られるという郷土料理だ。牛肉を使った醤油味と豚肉を使った味噌味があり、地域や家庭によって異なるという。
斎藤さんのご実家がどちら派なのかをたずねてみたところ、苦笑いしながら「実家は牛肉を使った醤油味です。父は山形県の庄内出身で豚肉を使った味噌味派なのですが、味噌派を認めない醤油味派の母が作るので、味噌味は出ません」と語ってくれた。
家庭内でも派閥が分かれるとは。そこはかとなくお好み焼き論争に似た匂いがするが、これ以上はいけない。語るのはやめておこう。
お店には、県民に愛されるマルジュウのダシ醤油や芋煮のたれもあり、味噌味も並んでいる。野菜コーナーには簡単に芋煮が作れる下ごしらえ済みの野菜のパウチも売られていて、ここに来れば手軽に芋煮の材料が揃う。
「山形県といえば」で連想される料理はたくさんあるが、玉こんにゃくは欠かせない。酒のつまみになるからだ。玉こんにゃくは、つゆがシミシミになったものと香ばしくタレをから炒りにしたものがあり、こちらも好みが分かれるところ。
「オランダせんべいも人気ですよ」と斎藤さん。北海道のオランダせんべいとは別物で、薄くてパリパリのサラダ味。東北弁で自分を指す「オラ」から、「自分のところで作ったせんべい」という「オラだせんべい」が転じて、オランダせんべいと呼ばれるようになったのだとか。オランダ、全然関係ないのか。
商品ひとつずつ話を聞いていると、「山形県のこと全然知らなかったよ……」という気持ちとともに、「一回来るくらいじゃ、攻略しきれないな」と思えてくる。
ひとまず、今回は何を買おうか。
いつものごとく、悩みに悩んで選んだのに買いすぎた。
今回の1000円セットは…
私の山形県1000円セット
羽陽錦爛 242円
スモッち 133円
じんだん大福 108円
味付け玉こん350円
オランダせんべい 162円
しめて、995円!お手頃価格の品が多く揃っているおかげで5品も買えたぞ。
お皿に盛り付けるとこんな感じ。立派な酒とつまみのセットになった。しかも、ほとんどがお店の売れ行きベストテン!にランクインしている人気商品ばかり。
スモッちは編集部からの推しがあり購入したもので、殻ごと3日かけて燻製してあるのだそう。黄身がトロリとほどよく半熟。香りが良く、ほどよい塩味で酒にあうあう。
この連載の定番購入品になりつつあるカップ酒は、デザインが気に入った「錦爛」を。キレのある辛口で料理とも合わせやすく、すぐに飲み干してしまいそう。
玉こんにゃくは主役級。プリッとした弾力と心地いい歯切れ。よーく出汁が染みている。これと日本酒のためだけに、現地へ行きたくなってしまう。
じんだん大福は、不動の売上トップ。ここに来たらとりあえずコレ、というアイテムだ。だだちゃ豆を使用したずんだあんが詰まっていて、こっくりうまくて甘い。一口サイズでパクリ。素朴な和菓子のように見えるが、香りも味わいも華やかだ。
甘いものの合間にオランダせんべい。奇をてらわない、うま塩のサラダ味。軽い食感と香ばしさでパリパリ食べ進めてしまう。
充実のラインナップを1000円で購入でき、大満足だ。
1000円オーバー! はみ出し購入品
ネバネバの納豆とは一味違うと聞いて購入したのが、雪割納豆。納豆と米麹を混ぜてあり、納豆や麹の風味とコクある旨みが広がる。やや味噌っぽい味わいで、納豆汁にしてもうまいとのことで味噌汁に雑に投入してみた。いつもよりグンと深みが出て、体に良さそうな味がする。「飲んだ後にこれはいい」と言いながら、ついでに雪割納豆をチマチマなめて、日本酒を煽る。
ここで、さっぱりしたつまみを買っておいたのだったと思い出す。こちらも編集部からおすすめされて購入した、おみ漬けだ。シャキシャキした青菜の食感が楽しく、サラダ感覚で食べ進められる。チャーハンに入れてもいいらしいが思いのほか箸が進み、アレンジ料理をする暇なく食べきってしまった。
気張らない山形がおいしいのだ
取材中、斎藤さんが何度か県出身者の方と思しきお客さまに声をかけられ、離席。その接客風景がなんともホッとする空気を纏っていた。洗練されたショップもいいけれど、肩ひじ張らず、山形県をありのままが味わえる『おいしい山形プラザ』は、アンテナショップの鑑だった。