『とおるちゃん』のチャーシュー定食
地元の愛され酒場で、当連載では「テイクアウト」にかける熱い想いを聞かせてくれた『とおるちゃん』。最近はテイクアウトと合わせ、ランチ営業をする日も増えた。情報は、LINEのオフィシャルアカウントから常時発信中。
ランチの内容は、魚も肉もうまい店なので、刺身定食や海鮮バラチラシ、ミックスフライ定食など多彩。そのなかから僕が選んだのがチャーシュー定食だ。
さっき僕が、「食事として純粋に味わう大好きな店の料理たちが、驚くほどに美味しい」と書いたが、初めにそのことに気づかせてくれたのが、このチャーシュー定食だった。
そもそも僕は、『とおるちゃん』の人気おつまみ「イベリコ豚のとろとろチャーシュー」が大好きだ。いつもはそれをつまみに酒を飲んでいたわけで、ごはんと一緒に食べるという発想がなかった。が、こうしてノンアルコールで向き合ってみると、甘めの濃厚ダレの絡んだとろとろで香りの良いイベリコ豚と白米のハーモニーが、涙が出るくらい美味しい! そうか、僕はこんな絶品料理で酒を飲んでいたのか、と、けっこうな衝撃を受けた。
そもそもこのチャーシュー、おつまみ単品で950円と、お店のなかでは高級品の部類。ところがそこに、角切りの生ハムがゴロゴロとのったサラダ、小鉢2種、具沢山のあら汁に、ごはんがついて、1000円。お酒で利益を上げられるわけでもないこのご時世に、どう考えてもサービスが良すぎだろう。まぁ、だから地元民たちから愛されるんだけど。
チャーシュー定食を食べた日、隣のお客さんが頼んでいるのを見て、たまらず再訪して食べたカレー。これまた、僕は“アタマ”単品で頼んでつまみにすることが多い人気メニュー「牛タンカレー」に、肉汁あふれる巨大な揚げたてメンチがのり、サラダ、玉こん、あら汁。さらにどう考えてもやりすぎなのが、おかずはすでにじゅうぶんすぎるのに、すき煮風の牛肉までたっぷりついてくるところ!
やっぱり、酒場の底力はすごい。
『加賀山』のもつカレーライスランチ
わが街石神井に、絶品のもつ焼きと煮込みをもたらしてくれた名店『加賀山』。現在は一時的に完全営業休止中だが、最新情報はオフィシャルブログで常に発信中。
実は店主の加山さんとはFacebookでもつながっていて、日々新しい情報が入ってくる。その『加賀山』がランチを始め、さらにそのために開発した「もつカレーライス」が食べられると知り、たまらず足を運んだ。
さっそくもつカレーライスランチ800円を注文。それから、ノンアルドリンクとして提供中だった梅サワーのソトだけ300円も。
ちょっとおもしろいからと頼んでみたものの、ノンアルのサワーなんて寂しいな、と思いつつも飲んでみる。すると意外や意外、マカロニサラダと一緒に飲んでると、けっこうお酒気分が味わえるものだ。まぁ、ここにほんの1cmでもいいから、焼酎をたらしたいのが本音ではあるけど!
ご覧のとおり、なんとも独創的な見た目のカレーライス。この日は昼どきをちょっと過ぎていたため、客が僕ひとりだったこともあり、運良くこのカレーの誕生秘話を加山さんに聞かせてもらうことができた。
『加賀山』がランチの提供を始めたのは、東京都が「まん延防止等重点措置」から4度目の「緊急事態宣言」へと移行した2021年の7月12日から。その目玉メニューのひとつとして、テイクアウトメニュー用に仕入れていたシロモツの、普段は「シロ串」に使っている厚い部位を使ってカレーを作ってみようと思い立ったのだとか。
『加賀山』のシロ串といえば、初めて食べた時、「石神井でこんなシロが食べられる時代がくるなんて!」と大感動した一品。それをカレーに使ってしまうなんて、こんなに贅沢なことはない。実際、モツならではの深〜いうまみがたっぷり溶け出し、とろとろと濃厚、えも言われぬ未体験のカレーで、ひと口食べ、そのあまりの美味しさにしばらく黙りこんでしまった。
ちなみに、この独特の盛りつけスタイルについては、まずごはんは、店名である『加賀山』の「山」を意識してカップで成形。そこに、通常営業用に仕入れて在庫豊富だったあらびきウインナーをトッピングしようと、最初は鬼のツノのようにごはんに刺そうとした。が、なかなかうまくいかない。そこであきらめて上にのせてみたところ、偶然にもコロナの直前に夫婦旅行で訪れたシンガポールのホテル「マリーナベイ・サンズ」に見えなくもない。「だから、お客さんに聞かれたら、思い出のマリーナベイサンズホテルを意識して盛りつけたって答えるようにしてるんですよ」と笑う加山さん。あぁ、そんなおもしろい話、本来なら酒の肴にさせてもらいたかった!
『加賀山』では他にも、人気の煮込みを使った「にこみ定食」に「うどんにこみ定食」、「もつカレーうどん定食」、串焼きの肉をごはんにのせた「加賀山丼」など、豊富なメニューを提供中。
お話のなかで加山さんは「酒類の提供ができない営業をいつまで続けなきゃいけないのかと不安で、早く美味しい生ビールともつ焼がある生活を取り戻したいですよ。それと、定食屋やお弁当屋さんって、仕込みも時間がかかる割には単価が低いから、たくさん売らなければ成り立たない。やってみてわかりましたが、本当に大変だと思うし、尊敬します」とも語ってくれた。
それでも酒場の店主たちは、今できることを考え、自分の店の運命を背負って行動している。
今だけしか食べることのできない(そしてそう願いたい)、幻の居酒屋ランチ。そこには、確かに絶品でありながら、どこか切ない、酒場の人々の想いまでもが込められていた。
取材・撮影・文=パリッコ