ある時、逗子でそんな「お茶」を恭しく丁寧に淹れてくれるお店に出会った。
メニューには、全国の名だたる産地の選りすぐりのお茶がずらりと並ぶ。
店主が茶農家まで直接足を運んで契約しているお茶は、どれをとっても満足するものに違いない。

この店には、着物を着た店員も、畳の間もない。
ありがたいことに、一見さんお断りでもない。

客が選んだ茶葉から、ただ黙々と一杯のお茶を淹れてくれる店主がいるだけだ。

店主がお茶を淹れる様は、流れるような所作でマジックを思わせる。
一つ一つの動きに、一切無駄がない。

静かにお茶をすするご老人から、インスタ映えを狙った若い女子まで、この店の客層の幅は広い。
共通しているのは、ただお茶の極みを非日常空間で味わいたいという想い。

老若男女、見つめる先は店主の手で姿を変える茶葉の行方だ。

出来上がったお茶を口に含むと、まさにマジックで生み出されたものだと実感する。
「自分のために」、「丁寧に」、淹れてくれるお茶は、どこまでも沁みた。

海を見るために逗子を訪れる時代は、もう古い。
これからは、この究極の一杯を味わいに逗子へ来るだろう。

そういや、「お茶」が無料だなんて、誰が決めたんだ?