店に入れば一瞬で「あのころ」にタイムスリップ

「あのころ」とは、もう30年以上も前のはなし。
はじめて訪れたのは、とても寒い冬の夕方だったと記憶している。

当時は、中学校時代の同級生と遊ぶことが多かった。
クルマを持ってからも週末、奥多摩湖までよく走ったものだ。

ゴールは小河内ダム。周辺を散策して飽きたら帰路へ発つわけだが、
わたしが空腹を主張して「ウォールナット」へ寄ったのがはじめてだったと思う。

お互いにこの店を気に入ってしまい、奥多摩湖の帰りには
ウォールナットへ寄るのが定番になった。
懐かしい思い出である。

今回、青梅に用事があり久々に立ち寄ってみたのだが
30年以上も変わらず店は続いている。もう、感謝せずにはいられないのだ。

昔も今も変わらないまま。
そんな「喫茶店」の存在は本当にありがたい。しみじみ感じる。

入口から奥へ進むと左側にカウンター。
目に飛び込んでくるコーヒーサイフォンが美しく並んで、とても眩しい。
最近ではあまりお目にかかれないアイテムかもしれない。

案内された席に座って天井を見上げれば、山小屋にいる感覚になる。
吊るされたランプや、木材をふんだんに使った家具たちが気分を盛り上げてくれるからだ。

店内は静粛そのものだけど、かすかに聞こえるジャズがとても心地よい。
しばらくすると「カタンコトン…」。青梅線が店のすぐそばを走る。

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紳士なマスターがメニューを運んできてくれた。
さて、今日は何にしようかな。

ブレンドコーヒーとピザトーストは思い出の味そのものだ

ここに来ると、いつも同じものを注文してしまう…。
「あのころ」よくオーダーしたのは、ブレンドコーヒーとピザトースト。

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・ブレンドコーヒー
ウォールナットのブレンドは、最初一口を含むと酸味がいっぱいに広がったあと
コクと、うま味に変わる瞬間が味わえる。ほんとうにおいしいのだ。
飲んだ後、口の中が「酸っぱく」ならないのが、わたしの好みである。

もう一つ加えると、カップに触れたときの温度だ。
ほどよく温められている。
昔の喫茶店では、ごく当たり前の所作であるが
近年、紙コップでコーヒーをたしなむのは普通になってしまった。

忘れていた感覚が甦った嬉しさと、
環境の変化に慣れてしまった自分を思い出す。
紙コップに「プラキャップ」の付いたコーヒーを初めて出された時
抵抗を隠せなかったのも、今となっては懐かしい。


・ピザトースト
先に届いた「ブレンド」を飲みながら
カウンター奥の厨房では「トントントン…」。具材を切る音が小気味よく聞こえてくる。
客は、わたし一人だけ。ピザトーストは丁寧に作られていることを実感する。

いっしょに遊んだKちゃんと、Mちゃんとわたし。
彼らは高校を卒業して社会人だが、わたしだけ学生の身分。

わたしはいつも金欠だったけど、遊びには行きたくて仕方なかった…。
ポケットの小銭を探してピザトーストを注文したっけ。

真四角の厚切りピザは、几帳面に四等分されているから、分けるとき
1つのピースの大きさでケンカにはならない。しかし、3人で分け合うと1つ残る…。
そうすると、決まってじゃんけん大会になった。
3人でよく笑って、たくさん話して食べたなあ。

具がたくさんで「アツアツ」のピザは、控えめに言っても旨すぎる!おいしい!
今の時代、外食で手間と時間をかけて作られた料理は贅沢といわれるが
気軽でリーズナブルに楽しめるのは、老舗喫茶店の醍醐味だと感じる。

ブレンドコーヒー500円、ピザトースト600円は今の時代にはありがたい。

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。感謝!
この店、ウォールナットへは社会人になっても節目の時や、昔を思うときに必ず行く場所。
音楽にたとえると耳に入った瞬間、初めて聴いた時の「空気感」や「匂い」までも思い出すのと同じなのだ。

老舗の喫茶店が、どんどん減少しているこの時代、
昔から脈々と続いている喫茶店は、わたしにとって尊い存在なのだ。
これからも応援し続けたい。

青梅や奥多摩への散策、ドライブの時には、二俣尾「ウォールナット」へ寄ってみてほしい。
くつろぎの空間とコーヒーの香り、アツアツの料理がたのしめるはずだ。

あなたの原点へ帰る場所はどこでしょうか。ぜひ探してほしいと思う。

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Coffee cottage ウォールナット
営業時間… 12:00〜18:30
定休日… 木・金曜日(祝日除く)
住所… 東京都青梅市二俣尾4-965-5
電話… 0428-78-9922
※社会情勢により営業時間・定休日は変更となる可能性あり。

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撮影・執筆:おがちん