気仙沼の魚や地酒で和気あいあい『炭火家おだづもっこ』

おまかせ盛り合わせ三本450円。左から丸ハツ、もも、自家製つくね。
おまかせ盛り合わせ三本450円。左から丸ハツ、もも、自家製つくね。

高円寺駅北口から徒歩4分。芸術会館通りをまっすぐ進み、環七通りを渡ってすぐの『炭火家おだづもっこ』。2013年8月12日創業、宮城の地酒と気仙沼漁港直送の魚が自慢の居酒屋だ。“おだづもっこ”とは宮城の方言でひょうきん者という意味。宮城県気仙沼出身のおだづもっこなオーナーが、地元を盛り上げようと始めた店。

店のイチ押しは炭火で焼き上げる焼き鳥。生の国産鶏を使うので、鮮度のよさは折り紙付き。とくに、店長考案の自家製つくねは、串に刺さっているのが不思議なくらいふわっふわ! 創業から注ぎ足しの秘伝のタレもあっさりと、口の中でとろける食感だ。気仙沼漁港から届く塩辛を使った塩辛焼きそばは、創業から人気のオーナー考案メニュー。味付けは塩辛と生クリームのみととてもシンプルで、海鮮のクリームパスタ風の味わい。ご当地グルメ、気仙沼ホルモンも都内で食べられる店はなかなかない稀少な一品だ。

塩辛焼きそば720円。塩辛の旨味がほどよく後をひく味わい。
塩辛焼きそば720円。塩辛の旨味がほどよく後をひく味わい。
人との縁を大事にするオーナーこだわりのコの字カウンターが店の中心にドンと構える。
人との縁を大事にするオーナーこだわりのコの字カウンターが店の中心にドンと構える。

『炭火家おだづもっこ』店舗詳細

住所:東京都杉並区高円寺北1-3-2 ロングヒル高円寺ビル1F/営業時間:18:00~翌2:00/定休日:不定/アクセス:JR中央線高円寺駅から徒歩4分

日本酒50種類と旨い肴の大衆酒場『区民酒場 左利き』

日本酒は常に50種類。週替わりで新しいお酒も入ってくる。
日本酒は常に50種類。週替わりで新しいお酒も入ってくる。

2018年の開店以来、地元の人気店となっている『区民酒場 左利き』。その秘密は酒飲み心をくすぐる多彩な創作メニューと豊富な品ぞろえの日本酒だ。

店内に入ると、木製のがっしりしたテーブルがいくつも並び、カウンター越しには日本酒がぎっしり並んだ冷蔵庫が見える。日本酒は常時50種類をそろえ、沢山の種類を飲んでみたいという人には「1時間利き酒し放題」がおすすめ。どのお酒も一杯ずついただくことができる。

肴もとても充実しており壁や柱のいたるところに魅力のメニューが張り出されている。その日その日の良い素材を仕入れているので、グランドメニューはない。定番っぽいものも毎日何品か入れ替わるので、メニューは毎日プリントアウトされている。

人気メニューの無限ピーマンとタケノコとワカメの煮物。
人気メニューの無限ピーマンとタケノコとワカメの煮物。
利き酒し放題でも楽しめる日本酒の定番メニュー。
利き酒し放題でも楽しめる日本酒の定番メニュー。

『区民酒場 左利き』店舗詳細

住所:東京都杉並区高円寺北2-21-10 丸善ビル1F/営業時間:17:00~24:00(土・日・祝は16:00~。フード23:00LO、ドリンク23:30LO)/定休日:不定/アクセス: JR中央本線高円寺駅から徒歩2分

調味料まで山形産にこだわる『山形料理と地酒 まら』

看板メニューの芋煮。お碗440円、鉄鍋1100円。
看板メニューの芋煮。お碗440円、鉄鍋1100円。

中央線高円寺駅南口から徒歩3分。古着屋が並ぶ通りの並びに、ひときわ目立つ「芋煮」の看板が見える。2018年にオープンした『山形料理と地酒 まら』は、その名の通り調味料にまで地元産にこだわった山形の郷土料理と、常時20種以上揃う地酒が自慢。

店長の笹谷健悟さんは「山形には内陸と海側で微妙に食文化が違います。同じ地域の酒とペアリングすると最高にうまいですよ!」と語る。ちなみに看板メニューの「芋煮」は内陸出身の料理長によるもので、牛肉、里芋、ゴボウ、きのこなどが入ったカツオ出汁ベースの醤油味だ。3人前分が入った鉄鍋を注文すれば、地元の芋煮会さながらのシメのカレーうどん440円~も満喫できる。

地元出身者は懐かしい味に親しみ、山形に縁のない人でも地元の食材にまつわる話を聞きながら味わうのも楽しい。なかなか気軽に旅に出かけられなくなった昨今。ちょい旅気分で、山形の大地の幸に舌鼓を打とう。

キュウリ、ナス、ミョウガなどを塩と醤油で味つけた“だし”をnoせただし豆富550円。
キュウリ、ナス、ミョウガなどを塩と醤油で味つけた“だし”をnoせただし豆富550円。
山形の各地から取り寄せる地酒。山形の焼酎(米・そば)、ワインも豊富。
山形の各地から取り寄せる地酒。山形の焼酎(米・そば)、ワインも豊富。

『山形料理と地酒 まら』店舗詳細

本好きにはたまらない古書店酒場『コクテイル書房』

中原中也サワー650円、文学カレー「漱石」500円、青い山脈ポテサラ650円。
中原中也サワー650円、文学カレー「漱石」500円、青い山脈ポテサラ650円。

『コクテイル書房』は古本屋でありながら酒場でもあるとてもユニークなお店。一歩店内に足を踏み入れると、本棚はもちろん、鴨居の上などにも棚が設置され、カウンターの目の前にもぎっしりと文庫本が並べられている。

本はもちろんすべて購入が可能。本のラインナップは文学を始め、哲学やカルチャーまで幅広い。もちろん目の前の本を読みながら飲むこともできる。飲みながら読んだ読みかけの本となれば、それは買っていくだろうな、とその購入の情景まで浮かぶ。

本棚のある自分の部屋で酒を飲みながら読書。そんな幸せな時間をお店で味わえる。しかも頼めばおいしい料理が出てくる。その文学にちなんだ“文士料理”も絶品で、まさに本好きにとっての理想の空間。その落ち着いた空間は、時に流れを忘れさえ忘れてしまいそうだ。

大正から昭和初期のころに建てられた木造の建物。一見何屋さんかわからない。
大正から昭和初期のころに建てられた木造の建物。一見何屋さんかわからない。
小説から美術、カルチャーまで多彩なジャンルがそろっている。
小説から美術、カルチャーまで多彩なジャンルがそろっている。

『コクテイル書房』店舗詳細

住所:東京都杉並区高円寺北3-8-13/営業時間:18:00~21:00/定休日:火/アクセス:JR中央線高円寺駅から5分

兵庫県のローカルフードを味わいながら日本酒で一献『播州酒場 うぶ』

淡路島産の“蜜玉”を使ったたまねぎのまんま焼きと、播州のローカルフードひねぽん。
淡路島産の“蜜玉”を使ったたまねぎのまんま焼きと、播州のローカルフードひねぽん。

高円寺駅北口の中通り商店街にある『播州酒場 うぶ』は、淡路島の玉ねぎや播州百日鶏など、兵庫県産の食材を中心としたおいしいものに出合える居酒屋。

淡路島産のブランド玉ねぎ“蜜玉”を使ったたまねぎのまんま焼きは、まるのままの蜜玉に自家製のバルサ味噌(バルサミコ酢と味噌、醤油、みりんなどを合わせた店のオリジナル味噌)をかけ、チーズをのせてオーブンで焼いた一品。播州の居酒屋では客のほとんどが最初に注文するというローカルフード・ひねぽんは、ぷりっぷりの歯ごたえに鶏肉の旨み、ポン酢のさっぱり感が合わさった、お酒が進む味わい。

兵庫県産にこだわらず、居酒屋の定番メニューも充実しており、誰を誘ってもみんなが満足できる店だ。

左から、垂氷(兵庫県)、凌駕(新潟県)、庭のうぐいす(福岡県)。
左から、垂氷(兵庫県)、凌駕(新潟県)、庭のうぐいす(福岡県)。
高円寺駅北口から中通り商店街をまっすぐ。白いのれんと提灯が目印。
高円寺駅北口から中通り商店街をまっすぐ。白いのれんと提灯が目印。

『播州酒場 うぶ』店舗詳細

住所:東京都杉並区高円寺北3-4-10 ファインコウスト1F/営業時間:17:00~23:00LO/定休日:不定/アクセス:JR中央線高円寺駅から徒歩4分

意外となかった讃岐うどん+酒場『うどん酒場 でべそ』

左上から梅おろしぶっかけうどん700円、紅しょうがのかき揚げ300円、自家製バイスサワー400円、あおさポテサラ380円、鶏ささみ一夜干し400円。
左上から梅おろしぶっかけうどん700円、紅しょうがのかき揚げ300円、自家製バイスサワー400円、あおさポテサラ380円、鶏ささみ一夜干し400円。

うどん激戦区の高円寺に彗星のごとく現れた讃岐うどん酒場。店主の大島泰幸さんは「讃岐うどんと酒場を組み合わせるという、じつはなかなかないコンセプトの店を出したかった」と語る。

3種類の小麦粉を独自にブレンドした手打ち自家製麺を使用し、さらに3日間熟成させた麺はツルツルモチモチの食感。出汁は香川直送のいりこを使って毎日手作りするというこだわりよう。『でべそ』というかわいい店名もインパクト抜群だ。

外席は犬も気持ちよさそう~。
外席は犬も気持ちよさそう~。

『うどん酒場 でべそ』店舗詳細

住所:東京都杉並区高円寺南4-7-1 コーポカトレヤビル1F/営業時間:18:00~24:00LO(土・日は17:00~24:30LO)/定休日:火/アクセス:JR中央線高円寺駅から徒歩3分

高円寺の達人が創り出す、ロックな憩い『ROCK BAR MAGIC V』

壁には人間椅子などミュージシャンのサインもある。ライブ映像の上映も可能。カウンター8席とテーブル席。
壁には人間椅子などミュージシャンのサインもある。ライブ映像の上映も可能。カウンター8席とテーブル席。

あらゆるジャンルのライブハウスが点在する街、高円寺。そんな街の『ROCK BAR MAGIC Ⅴ』の店長、立花さんも80年代に日本のロック・バンドのマネージャーとして音楽に携わっていた人物だ。「ウチは庶民的」と人懐っこい笑顔で迎えてくれる店長おすすめの一杯は、祖母の手作り梅干しで作る梅酎。梅の旨味があふれる人気の一杯で女性にも大人気。

ジョニー・ウィンターからプログレまでと、幅広いジャンルの3000枚ものLPやCDを、サンスイとJBLのシステムで聴くことができる。リクエストはLPを片面ずつ一枚聴かせてくれて、中でもジャニス・ジョプリンの「パール」が一番人気。次いでレッド・ツェッペリン。

1982年に『ROCK BAR MAGIC』をスタートし現在の『MAGIC V(5代目)』は南口高架下からすぐの地下にある。高円寺を知り尽くした庶民のバーだ。

手作り梅は焼酎500円やソーダ割り600円で。
手作り梅は焼酎500円やソーダ割り600円で。

『ROCK BAR MAGIC V』店舗詳細

住所:東京都杉並区高円寺南4-42-1 田口ビルB1/営業時間:18:30~翌1:00/定休日:日/アクセス:JR中央線高円寺駅から徒歩3分

人間も失格人間もいらっしゃい『人間失格』

失格サワー900円(お通し500円)。さらに度数の高いシッカク1000円もあるが「強すぎるのでおすすめしません(笑)」とのこと。
失格サワー900円(お通し500円)。さらに度数の高いシッカク1000円もあるが「強すぎるのでおすすめしません(笑)」とのこと。

言わずと知れた太宰治の代表作が店名。店の前では「しっかくさん、いらっしゃい」という怪しげな看板が待ち受ける。恐る恐る扉を開けると、拍子抜けするほどカジュアルな禁煙バーだった。

店長の土田拓生さんは、「高円寺らしい店名かなと思って。お客さんからは『禁煙でどこが人間失格なんだよ』と突っ込まれますが」と笑う。ちなみに、土田さんは作家志望。いつか、『人間失格』を超える名作を書いてくれるかもしれない。

慣れた手つきでシェイカーを振るう土田さん。
慣れた手つきでシェイカーを振るう土田さん。

『人間失格』店舗詳細

住所:東京都杉並区高円寺北2-4-8 飯田屋ビル2F/営業時間:19:00~翌2:00LO/定休日:不定/アクセス:JR中央線高円寺駅から徒歩2分

“焼肉の街・北見”の文化を味わえる『オホーツク北見焼肉 のっけ』

牛サガリ1188円、牛レバー891円、牛タン1419円。
牛サガリ1188円、牛レバー891円、牛タン1419円。

高円寺の路地裏にある『オホーツク北見焼肉 のっけ』は、七輪を前に煙が立ち込める、北見焼肉を体現する店だ。店主・望月利一さんは北見で青春時代を過ごし、30年のイタリアン経験を経て「焼肉の街・北見」を東京に広めたいとの思いから開業。人口当たり焼肉店数日本一を誇る北見の伝統を背景に、新鮮な牛サガリやホルモンを直送し、下味を施さず肉のうまみそのものを味わわせる。

煙の充満する狭い店内で肉を頬張れば、ただの食事ではなく「北見焼肉」の文化そのものに触れる感覚を得る。名の由来は旧地名「野付牛(のつけうし)」。土地の記憶を受け継ぐ一軒が、高円寺の夜を熱く染め上げている。

JR高円寺駅北口から徒歩3分の好立地。
JR高円寺駅北口から徒歩3分の好立地。
北見はハッカの街としても有名。キタミントハイボールセット484円(なか363円、そと243円)。
北見はハッカの街としても有名。キタミントハイボールセット484円(なか363円、そと243円)。

『オホーツク北見焼肉 のっけ』店舗詳細

芸人やミュージシャンも愛するシンボル的酒場『和田屋』

名物のサバ味噌グラタン680円は、納言の薄幸がテレビで紹介してブレイク。
名物のサバ味噌グラタン680円は、納言の薄幸がテレビで紹介してブレイク。

高円寺のシンボル的酒場『和田屋』は、44年の歴史を誇る老舗の一軒である。麻布の定食屋を源流とし、修業を経た者たちが各地でのれんを掲げた。その中でも最後の店長の系譜を継ぐのが現店主・新沼亮氏だ。

早朝から魚屋を手伝い、仕入れた鮮魚を厚切りで提供する刺し身は圧巻。名物のサバ味噌グラタンは、香ばしいチーズと濃厚なサバのうまみが融合し、独自の酒場文化を象徴する一皿だ。壁を埋め尽くす芸人やミュージシャンのサインは、長年愛されてきた証左であり、「スーパーで総菜を買うより安くうまいものを」という理念が、この店の矜持として息づく。

高円寺の夜において『和田屋』は単なる居酒屋ではなく、街の記憶を刻む舞台である。

JR高円寺駅北口から徒歩3分の路地裏に立つ。
JR高円寺駅北口から徒歩3分の路地裏に立つ。
焼酎だけで110~120種類という圧巻の品揃え。
焼酎だけで110~120種類という圧巻の品揃え。
取材・文=丸山美紀(アート・サプライ)、夏井誠、大熊美智代、パンチ広沢、畔柳ユキ、都恋堂、石原たきび、尾崎ムギ子 撮影=丸山美紀(アート・サプライ)、夏井誠、大熊美智代、パンチ広沢、畔柳ユキ、本野克佳、尾崎ムギ子
高円寺は、キャラの濃い中央線沿線のなかでもひときわサイケで芳(こう)ばしい街だ。杉並区の北東に位置し、JR高円寺駅から、北は早稲田通り、南は青梅街道までがメインのエリア。中野と阿佐ケ谷に挟まれた東京屈指のサブカルタウンであり、“中央線カルチャー”の代表格とされることも多い。この街を語るときに欠かせないキーワードといえば、ロック、酒、古着、インド……挙げ始めればきりがない。しかし、色とりどりのカオスな中にも、暑苦しい寛容さというか、年季の入った青臭さのようなものが共通している。