ひょうきん店主が地元・宮城県気仙沼を、漁港直送の魚と地酒で盛り上げる

2013年8月12日にオープンした居酒屋『炭火家おだづもっこ』。 “おだづもっこ”とは宮城の方言でひょうきん者という意味がある。宮城県気仙沼出身、おだづもっこなオーナー小原木和輝さんが営む店だ。

高円寺駅北口から徒歩4分。芸術会館通りを線路沿いにまっすぐ進み、環七通りを渡ってすぐ。遠くから目立つ看板。
高円寺駅北口から徒歩4分。芸術会館通りを線路沿いにまっすぐ進み、環七通りを渡ってすぐ。遠くから目立つ看板。

「看板を見て、宮城の店だとわかって来てくださる方もいますね」と店長の伊藤真人さん。もともとオープンからの常連だったとか。「僕の出身は岩手の陸前高田で、オーナーの地元の宮城の気仙沼と県境で隣町なんです。実家がすごく近かったのも、店に通うようになったきっかけですね」。長い付き合いのオーナーから誘われ、2017年頃からバイトに入り、2021年から店長になった。

店長の伊藤真人さん。穏やかな笑顔で、すぐ打ち解けて話しやすい雰囲気に。
店長の伊藤真人さん。穏やかな笑顔で、すぐ打ち解けて話しやすい雰囲気に。

2011年3月、オーナーが宮城で会社を立ち上げてすぐ、東日本大震災で会社を継続できなくなった。オーナーはそこからヒッチハイクで旅に出て、日本縦断したという。戻ったとき、地元の人が「おかえり」と温かく迎えてくれたことから、東京で気仙沼を盛り上げようと、地元の特産品を取り入れた居酒屋を始めたそう。

コの字カウンターにテーブル席、2階には15人から貸切可能なイベントスペースもある。
コの字カウンターにテーブル席、2階には15人から貸切可能なイベントスペースもある。

店の中心にドンと構えるコの字カウンターには、人との縁を大事にするオーナーのこだわりが。「お客さんとのコミュニケーションを大事にしていて、こだわりのコの字カウンターなんです。ただ、焼き鳥を焼くとたまに炭が舞うので、『ごめん!』って謝りながら(笑)」と伊藤さん。アクシデントも話題にしてしまうところはオーナーから受け継いだおだづもっこスタイルか、人なつっこい笑顔も好印象だ。

鮮度抜群の国産鶏を炭火焼鳥で堪能。ふわふわ食感の自家製つくねが絶品

店のいち押しは炭火で焼き上げる焼き鳥だ。生の国産鶏を使うので、鮮度のよさは折り紙付き。毎日手刺しで仕込む串を見せていただいた。

好物のナンコツに目がいくが、初めての店なので店長におまかせでオーダー。
好物のナンコツに目がいくが、初めての店なので店長におまかせでオーダー。

炭火の上で串を返す手さばきを間近で見ることができる、カウンター正面がベストな席。待ちきれずにどのくらい焼くのか聞いてみると、「何分とかじゃなく、感覚ですね。前の店長は元焼き鳥屋だったんで、教えてもらった感覚で、仕入れた肉の状態を見ながらですね」と伊藤さん。

焼き上がりを待つ間、炎を眺めていると一日の疲れも癒やされる。
焼き上がりを待つ間、炎を眺めていると一日の疲れも癒やされる。

つくねにはおすすめのタレ。創業から継ぎ足しのタレをつけ、また焼いていく。3度づけがおだづもっこ流だ。

創業から継ぎ足しの秘伝のタレ。ほどよく焼きながら3度づけ。
創業から継ぎ足しの秘伝のタレ。ほどよく焼きながら3度づけ。

お待ちかねの盛り合わせ3本が皿に並ぶ。まず、丸のまま切らずに串に刺さっている丸ハツは、レアすぎずほどよい柔らかさで、プリっとした弾力。ももはふっくら香ばしく、噛みしめると肉の旨味がしっかり。最後に、自家製のつくねが、串に刺さっているのが不思議なくらいふわっふわ食感。

おまかせ盛り合わせ三本450円。左から丸ハツ、もも、自家製つくね。
おまかせ盛り合わせ三本450円。左から丸ハツ、もも、自家製つくね。

「つくねは、1年前に店長になってから僕が考えたんです。和食でつなぎに使うたまもとをつくねに混ぜるんですね。卵黄と油を混ぜて乳化させて作るんですけど、マヨネーズから酢を抜いたものです。最初、柔らかすぎて串で刺すと崩れてきて(笑)、完成させるまで大変でした」。

伊藤さん自慢のつくねは、口の中でとろける食感で、何度も頼みたくなる一品だ。

華麗にアレンジした気仙沼塩辛に気仙沼ホルモン、地元名物を高円寺から発信!

気仙沼から届く塩辛を使った塩辛焼きそばは、創業からあるオーナー考案メニューだ。

生麺をレンジで温めてから鍋に、その上に塩辛をのせて炒めていく。
生麺をレンジで温めてから鍋に、その上に塩辛をのせて炒めていく。

「こだわりは塩辛ですね。気仙沼は港町で、塩辛がすごくおいしいんですよ!」と伊藤さんが、手際よく調理しながら教えてくれる。

生クリームを入れてサッと絡ませる。
生クリームを入れてサッと絡ませる。

味付けは、塩辛と生クリームのみととてもシンプル。小ネギと刻み海苔を盛り付けて完成だ。

塩辛焼きそば720円。塩辛すぎずマイルドなクリームパスタ風だが、塩辛の旨味がほどよく後をひく味わい。
塩辛焼きそば720円。塩辛すぎずマイルドなクリームパスタ風だが、塩辛の旨味がほどよく後をひく味わい。

出来上がった塩辛焼きそばを早速一口。焼きそばというより、パスタみたいな味わいにびっくり! もっとしょっぱいかと思ったら、塩辛も強烈ではなくほどよく、いい意味で期待を裏切られた。

「皆さん、驚かれますね。以前はもっとしょっぱかったんですよ。お客さんの様子を見て、少し味を塩辛くなくクリーミーに調整しました」と伊藤さん。

墨廼江、水鳥記、蒼天伝、乾坤一、阿部勘。ほかにも宮城県の地酒を豊富に取りそろえる。
墨廼江、水鳥記、蒼天伝、乾坤一、阿部勘。ほかにも宮城県の地酒を豊富に取りそろえる。

宮城の地酒にぴったりのご当地グルメ、気仙沼ホルモンがある。「味噌漬けのホルモンを炭火で焼いて、キャベツとウスターソースで食べるんです。昔、漁師さんが早朝に漁に出て、帰ってきて酒盛りが始まるときに、奥様方が野菜もとってほしいと、焼いたホルモンにキャベツを添えたのが始まりだとか。いわゆる漁師飯ですね」。

都内には、炭火焼きの気仙沼ホルモンを置いている店はなかなかないそう。気仙沼出身の人にも懐かしい地元グルメだ。伊藤さんも「僕もお客さんのときは、必ず頼んでましたね。野菜をとってる感じがして(笑)、よく食べてました」。

元店長も常連として今も足繁く通う。
元店長も常連として今も足繁く通う。

オープンと同時にやってきたのは、常連風のお2人。聞くと元店長さんだとか。厨房に立つ伊藤さんが、にこやかに話しながら手際よく注文に応えていく。

「高円寺の端っこで、みんなで楽しくやってます。お一人でも入りやすいですよ。ぜひ、お話ししましょう!」宮城・気仙沼の味にふれ、遠く離れた地を思いめぐらす。仕事帰りにふらりと何度か立ち寄れば、「おかえり」と笑顔で迎えてくれる店になるだろう。

住所:東京都杉並区高円寺北1-3-2 ロングヒル高円寺ビル1F/営業時間:17:00~翌2:00/定休日:火/アクセス:JR中央線高円寺駅から徒歩4分

構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=大熊美智代