『熱海温泉 竜宮閣』
再開発が繰り返される熱海にあって、昭和12年(1937)創業当時の姿がそのまま残る大変貴重な宿。建物は無論木造で、客室や帳場、下駄箱などほとんどが開業当時からのものだという。内湯が2つあり、いずれも懐かしきタイル張り。大きめのひとつは竜宮城と水浴びをする女性のタイル画で、素朴な味わいがある。源泉温度は70度台と高いが、浴槽にはそのまま投入されているので水で調整して入る。もうひとつは小ぶりで、富士山と鯉こいのタイル画。こちらは源泉のカランだけなので、かなりの熱さに耐えながらの入浴だが、これが本当と真っ赤な顔をして浸かる猛者もいる。かつては30軒ほどで利用した共同源泉だが、今では商業的に使用しているのはここだけという。全国の温泉愛好家が入りに来るというのもうなずける。塩味が効いた、身体の芯までよく温まる典型的な熱海の湯である。
【閉店】『日航亭 大湯』
大湯はかつて熱海温泉の中心的存在であった源泉で江戸初期には徳川家康が湯治に使い、以降“出世の湯”とも呼ばれている。その伝統の湯を楽しめるのがここ。もとは昭和16年(1941)に創業した老舗旅館だったが、今は日帰り温泉施設として生まれ変わっている。建物はやはり、旅館だった頃を偲ばせる落ち着いた造り。廊下を奥へと進めば入浴施設がある。敷地内に2本の源泉があり、今も1日8万ℓもの湯が湧き出すという。そんな豊富な湯量だから大浴場も露天風呂もかなり大きく、もったいないほどの湯が浴槽の縁からあふれ出ている。源泉は高温だが浴槽が広いために加水せずに済んでおり、循環ろ過や消毒もしない100%の温泉が楽しめるのである。風呂は大小2つあって男女に分かれるが、日によって入れ替わるので、どうしても大きい湯船に浸かりたいという人はあらかじめ電話で確認しておくとよいだろう。
『伊豆山浜浴場』
伊豆山にある「走り湯」は奈良時代に発見されたと伝わる古湯で、珍しい横穴式源泉としても知られる。浜浴場はその近くにあり、伊豆山生活協同組合が管理する集会場に隣接した共同浴場だから、利用しているのはもっぱら地元の常連の人たちだ。脱衣所やロッカー
は木造りで男女の真ん中に番台があるという、昔ながらのスタイル。浴室はタイル張り。浴槽は2つあり、ひとつはぬるま湯で、もうひとつは熱々の源泉が落ちる。ただし常連さんたちはぬるま湯でも熱くして入るのを好むようで、初心者には難関。隣のさらに熱湯はつい声が漏れるほどきついが、おじいさんたちに励まされて入ると、段々と慣れてくるから不思議だ。自然と裸の付き合いが深まり、会話も弾んでくる共同浴場である。
おすすめ立ち寄りスポット
『熱海城』
ある意味で熱海のシンボルとも言える「熱海城」は今も健在。
『熱海秘宝館』
『釜鶴ひもの店』
『釜鶴ひもの店』の釜鶴セット1620円は、お買い得品!
『スコット』
『ゆしま遊技場』
『延命堂本店』
『るな。』
取材・文=工藤博康 撮影=小野広幸
『散歩の達人』2020年2月号より