江戸っ子の郷愁を誘う、甘辛のいなり
創業約半世紀を誇る、いなり寿司とのり巻きの専門店。昔ながらの手法で丁寧に作った、いなり寿司は、一日中客足が絶えない人気ぶりを誇る。隅田川散策や、観劇やお土産にちょうどいい小ぶりなサイズ。二口で食べられるほどの大きさだ。
大きな羽釜で炊いたご飯はふっくらつやつや
油揚げは油抜きして柔らかくもどし、昔から継ぎ足ししてきたタレでじっくりと艶やかに煮込んでいる。米は千葉県産のコシヒカリ。店内にある羽釜でふっくらと炊き上げ、酢と塩のみで味を調えている。
これに冬場は、ニンジンやレンコン、昆布が混ざる五目いなりに変わる。夏はケシの実をかけて、さっぱりと。お彼岸を境に中身が変わるのは昔から変わらない。いなり寿司で季節の移り変わりを感じられるのは、なんとも風流だ。
油揚げは江戸前の濃いめの味付けながら、後に甘さが残らない。それでいて、しっとりとジューシー。クセになるのも納得の味だ。
のり巻きの干瓢(かんぴょう)は、栃木県下野(しもつけ)市の最上級品を使っている。こちらも丁寧に時間をかけて煮込み、香りの良い海苔と酢飯で巻き上げている。この干瓢の味はもちろん、海苔の柔らかさや風味も格別だ。
2代目が吹き込んだ新しい風
現在は2代目店主の嶽本信吾(だきもとしんご)さんと、お母さん、妹さんの3人で店を切り盛りしている。
元の店舗が古くなったことから、2016年に数軒先のこの場所に移動。白木を基調とした明るい雰囲気に生まれ変わった。
店内で、いなり寿司やのり巻きを作る様子や、大きな羽釜を見ることができる。
「19歳の時から和食の板前や料理店で経営の勉強もしてきました。全てはいなり寿司一筋のこの店を続けていくためです。そのためにあえて羽釜もレジの脇から見える作りにしました」と嶽本さんはいう。
ホームページを作成したり、広報活動にも力を入れているのも嶽本さんの代になってから。昔ながらの「いなり寿司」が、ワールドワイドになる日は近いかも?
取材・文・撮影=新井鏡子