名物は巨大なキリンのぬいぐるみ
「キリンのぬいぐるみは、昔ららぽーとにあった輸入雑貨店が閉店する時に、展示品だったぬいぐるみを買ったんですよ。本当は非売品です。7万円でいいよ、と言われてつい買ってしまいました」と店主の佐々木健治さん。もう30年ほど前になるという。「昔はオランウータンやトラもいたんですが、今はキリンだけになりました」。ドイツ製で、当時は最大級のぬいぐるみだったのだそう。
銭湯が一番華やかだった時代に開業
『松の湯』の開業は1957年。世の中は高度経済成長期で、東京近郊に銭湯が相次いで建てられた一大銭湯ブームだった頃だ。『松の湯』の初代、佐々木さんのおじいさんは、浅草の銭湯で修行後、船橋に開業。佐々木さん一家は、兄弟、家族揃って銭湯を営む銭湯一家だった。子供の頃は、女中さんや従業員が何人もいて目の回るほどの忙しさだったという。当時は2階に蒸し風呂式の釜風呂もあった。1967年に建て替えをし、1991年にはコインランドリーとフロント式に改装した。
漢方薬入りの薬湯は熱湯(あつゆ)が信条
浴場は、天井も高く開放感もたっぷり。窓以外に天井からも陽光が入るので、陽のあるうちは明るい。浴槽は三つに分かれており、その一つが高麗人参や、陳皮、ウイキョウなど様々な漢方薬が入った薬湯。薬効を高めるためか、このお湯だけ熱めの設定。「(温度計で)48度以上でご入浴してください」と、水埋め厳禁の注意書きがあるほどの熱い湯だ。
女将(おかみ)さんいわく、実際には43〜45度なのだそう。それでも熱い湯だ。この熱湯に入浴してから、水風呂に入ると血行が良くなるのだそう。その隣には、座って入る深めのジェットバスと、細かい気泡が出るミクロバイブラバスがある。こちらは普通の温度。
お湯は現在でも薪で沸かしているため、湯冷めしにくい。
休憩所をにぎやかに彩る駄菓子やぬいぐるみ
フロント前の休憩スペースでは、山盛りの駄菓子が売られている。その台は、よく見るとアップライトピアノ。かつてはプロミュージシャンにゆかりあるピアノだったのだそう。
駄菓子の隙間からは千葉県のマスコット、チーバくんのぬいぐるみも、ちらりと覗く。駄菓子はお風呂から上がった後に、おやつとして2、3個買っていく客がいるそう。近隣の銭湯が時代と共になくなっていく中、変わらずに営業を続けるこの銭湯目当てに、長年通ってくれている客も多いとのこと。
女将さんもご主人もおしゃべり好き。フロント前で会話が弾んでいる様子が目に浮かぶ。
取材・文・撮影=新井鏡子