中村獅童 Nakamura Shido
歌舞伎俳優。映画やドラマなどのほか、歌舞伎と最新テクノロジーを駆使しバーチャルシンガー初音ミクと共演した『超歌舞伎』を8年目にして歌舞伎座で公演するなど、さまざまな分野で活躍する。
HP:https://shidou.jp/
浅草と歌舞伎への造詣を深くしてくれた「新春浅草歌舞伎」
——今回音声ARのナレーションを担当された浅草にはどんな思いがありますか。
獅童 浅草は、僕ら世代や上の世代にはなじみ深い街だと思いますし大好きな街です。
僕が初めてテレビで主役をやらせていただいたのは浅草で居候生活をする『丹下左膳』でしたが、番組のエンディングは現代の東京に丹下左膳が現れるという設定にさせていただきました。そのエンディングの中に『浅草花やしき』で子役と一緒にジェットコースターに乗るというシーンを入れたぐらい浅草は大好きです。
——浅草と歌舞伎の関係について改めて教えてください。
獅童 今は歌舞伎専用の劇場というのはないですが、僕も舞台に立ったことがある『浅草公会堂』の「新春浅草歌舞伎」や「平成中村座」などで、定期的に歌舞伎は行われています。
ナビゲーションにも出てきましたが、江戸時代には、歌舞伎を上演する「中村座」「守田座」「市村座」が江戸三座と呼ばれ、ライバル同士ですが隣接していて、まさに歌舞伎の街でした。それだけでなく、浅草寺や待乳山聖天(まつちやましょうでん)、隅田公園など、演目の舞台になっている地でもあります。
——浅草と歌舞伎の関わりは何をきっかけに知りましたか?
獅童 浅草と歌舞伎が関わりが深いということは以前からある程度知っていました。「新春浅草歌舞伎」に出演してから、いろいろな人にお話を聞いたり、実際に訪れたりして、より深く浅草の歴史や文化などを知るようになりました。
——「新春浅草歌舞伎」にはどんな思い出がありますか。
獅童 「新春浅草歌舞伎」は1993年から2008年まで出演していました。僕が初めて出演した頃はお客さまの入りが悪く、浅草の商店街の方にチラシを配りに行って置いてもらったりと、ずいぶんと盛り上げていただきました。
お客さまの入りを改善するために、今までのチラシを一新して、雷門の大提灯の下でメイン出演者が洋服を着たチラシを作ったり、演目前に素顔で口上を行ったり、さまざまな試みをしました。
——「新春浅草歌舞伎」というと、若い役者さんたちが普段できないような大役をやるイメージがありますが。
獅童 演目に関しても、大役ができる勉強会という役割ではなく、若い人たちの本公演という位置付けにしたかったんです。僕らでしか呼べないような、若いお客さまをにぎわすような公演にしていかないと意味がないと思い、初心者でもわかりやすい演目に変えていきました。
こういった変化や、2002年に公開された映画『ピンポン』に僕が出演したこともあって、だんだんとお客さまが入るようになり、最後のほうには客席に収まりきらずに、舞台の上にパイプ椅子を置いた「羅漢台(らかんだい)」も設置しました。今では各種規制があってできませんが、当時はそれぐらいお客さまに来ていただきました。
今でも「新春浅草歌舞伎」では、新しい感覚のチラシや素顔での口上などは残っていますが、僕らが始めたということを忘れないでほしいですね(笑)。
浅草で一番心に残る「平成中村座」と中村勘三郎さん
——浅草で特に思い入れがあるところはどこですか。
獅童 一番印象にあるのが、18代目中村勘三郎(当時は5代目中村勘九郎)兄さんが、2000年に隅田公園山谷堀広場に仮設小屋で歌舞伎を上演した「平成中村座」です。通常の劇場とは違い、客席との距離が近いので、お客さまの反応が直に伝わるのも魅力でした。
2001年に『義経千本桜』の主人公・狐忠信(きつねただのぶ)を演じさせていただいたこともあり、たくさんの思い出があります。千穐楽(せんしゅうらく)を終えると仮設小屋が撤去されるのですが、更地になった場所を訪れて「あ~、ここで歌舞伎をやっていたんだな~」と感慨にふけることがありました。
——勘三郎さんとの思い出も多いのですね。
獅童 勘三郎兄さんが「平成中村座」を立ち上げるところからいろいろとお話を聞いていました。夢を実現させるエネルギーと諦めない気持ち、さらに芝居にかける情熱というのを間近で感じて、最も影響を受けた方です。
「新春浅草歌舞伎」で新しいことに取り組むときも、勘三郎兄さんは「おまえたちがやりたいようにやればいい」と協力的な方でしたね。
——2022年には「平成中村座」でお子さまの陽喜(はるき)さんとも共演していますね。
獅童 『極付幡随長兵衛(きわめつきばんずいちょうべえ)』で陽喜と一緒に芝居をやらせていただきました。このときは浅草寺本堂裏の広場に芝居小屋を建てたのですが、2024年に家族で浅草寺にお参りに行ったときに「ここで芝居をやっていたんだよ」と教えたりもしました。そんな思い出もあります。
——歌舞伎は海外の方にも人気ですよね。
獅童 最近では海外のお客さまもずいぶんと増えています。歌舞伎は日本特有の文化なので、外国の方もそうした文化に触れたいと思うのではないでしょうか。
昨年(2024年)、ラッパーのカニエ・ウェストさんは、僕が出ている歌舞伎を2回観に来てくれました。きっと中村獅童のファンですね(笑)。向こうは音楽、こちらは歌舞伎ですが、相通ずる部分があるのかもしれませんね。
ラップはストリートから起きたムーブメントですし、歌舞伎はもともとは河原で行われていた庶民の芸能だったんです。江戸時代の歌舞伎もそうですが、話題のニュースだったりを取り込んでいるというのも似ていると思います。ラップだけでなく、ロックやパンクなどの音楽の根底にある精神性だとかは通じる部分はあります。
昔の日本にはそういった音楽がなかったから、その代わりに精神性が似ている歌舞伎役者になった方も多いのだろうと思いますね。
心に残したい風景。進化する街並みと伝統的な建物
——浅草以外でよく散歩をするところはありますか。
獅童 昔から下北沢や高円寺などに行くことが多かったですが、子どもができてから家族で散歩することが多くなりました。最近では家族で町中華巡りをするのが楽しみです。
——好きな町中華メニューは何ですか。
獅童 ……餃子でしょうね(笑)。いろいろと気になったお店をチェックして行っています。この前も強面(こわもて)の店主がやっている町中華に入ったのですが、ちょっと怖いイメージなんだけれど味は間違いなくおいしい。子どもにはすごく優しくて息子も気に入ってくれました。
街を歩いていると、東京はどんどん便利になって未来に向かって進化していると感じます。素晴らしいことだとは思うのですが、慣れ親しんだ街が変わっていくのはどこか寂しいです。けれども、少し歩いてみると、そんな進化した街と、歴史や文化を感じる建造物が融合している場所もあります。これも散歩の楽しみの一つですね。
今ではスマホで簡単に撮影できてしまいます。僕もすごく活用しているけれども、ファインダー越しではなく、実際に目で見て、心に焼き付けるというのが大切だと思います。そうすると街が変化しても心にはちゃんと残りますから。
——ナレーションを終えていかがでしたか。
獅童 浅草は本当に大好きで、なじみがあって、思い出が深い街なんです。今回、「新たな一歩と伝統が織りなす東京の音色」で、浅草と歌舞伎についてナレーションができてよかったと思います。やっぱり自分の好きなところには、こんないいところがあるということをみなさんに知ってもらいたいですね。
浅草は今でも歌舞伎の伝統が感じられるし、浅草寺をはじめとした歴史が残る。さらに日本で一番古い商店街ともいわれる仲見世もあります。浅草からは東京スカイツリーやアサヒビール本社などの印象的な建造物も望めます。そんな異様な風景も見てもらいたいですね。
この企画をきっかけに浅草に足を向けてもらえば、必ず気に入った風景が見つかるはずです。ぜひ、心に刻み込んでください。
現在「新たな一歩と伝統が織りなす東京の音色」が開催中!
2025年2月3日(月)から5月15日(木)まで、江戸時代から続く伝統と、最先端のカルチャーが共存する東京の魅力を体感する企画「新たな一歩と伝統が織りなす東京の音色」が開催中!
浅草・原宿・両国・池袋の各コースを音声ARアプリ「SARF」で楽しみながら観光しよう。
しかも各コース、豪華ナビゲーターがご案内!いつもとは違う観光体験に出かけてみませんか?
<浅草コースのあらすじ>
中村獅童さん演じる名探偵のもとに依頼が。優秀なアシスタントのあなたは、これまで数々の難事件を解き明かしてきた名探偵と一緒に事件解決をめざします。事件には浅草の定番スポットや歌舞伎の歴史も絡み合い、難解さは増していくばかり……。果たしてその先に待っている驚きの結末とは!?
※ご利用は無料です。
※この企画は、令和6年度「東京の魅力発信プロジェクト」に採択されています。
「東京の魅力発信プロジェクト」では、江戸時代から続く伝統と最先端の文化が共存する、東京の魅力を表現した東京ブランドアイコン「Tokyo Tokyo Old meets New」を活用し、東京の魅力を発信しています。
伝統と革新が共存する東京をぜひ実感してください。
音声ARアプリ「SARF」の使い方
① 「SARF」アプリを起動すると、現在地付近のコンテンツ一覧が表示。そこで「新たな一歩と伝統が織りなす東京の音色」浅草コースを選択するとスタート画面が表示されます。
② 画面上のマップに表示されているスポットをめざして移動しましょう!
③ スポットに到着すると、その場所でしか聴けない音声コンテンツが再生されますよ!
「東京の魅力発信プロジェクト」とは?
「東京の魅力発信プロジェクト」は、江戸時代から続く伝統と最先端の文化が共存する、東京の魅力を表現した東京ブランドアイコン「Tokyo Tokyo Old meets New」を効果的に活用しながら、東京都と民間事業者が連携し、東京の魅力の発信等を行う事業です。
今回の企画「新たな一歩と伝統が織りなす東京の音色」は令和6年度「東京の魅力発信プロジェクト」に採択されています。
東京都は、国内外へ東京の都市としての魅力を発信し、「東京ブランド」の確立に向けた取り組みを推進しています。その一環として、本企画では、「江戸時代から続く文化である歌舞伎や相撲・浮世絵」と「“Kawaii”カルチャーやアニメ・マンガ」など、都内に点在する新旧スポットの魅力を発信することにより、東京ブランドをPRします。
取材・構成=速志 淳(アド・グリーン) 撮影=武藤奈緒美
ヘアメイク=masato at B.I.G.S.(marr) スタイリング=富田彩人(White Co.)