大高健志さん(左)
シモキタ – エキマエ – シネマ『K2』
株式会社Motion Gallery 代表
大槻貴宏さん(右)
下北沢トリウッド 代表
ポレポレ東中野 代表
新たなミニシアターブームが下北沢なら起こせるかも
—— お二人は旧知の仲なのですね。
大高 初めてお会いしたのは、10年以上前。その前から、大槻さんが運営されている『ポレポレ東中野』に通っていたんで、初対面は、気難しい人かもと緊張しました。ポレポレは硬派なドキュメンタリーとかをやっているので、そのイメージが強くて。
大槻 そうしたら、こんなぼやっとしたおじさんがでてきた(笑)。
大高 いやいや。人に対してもビジネスに対してもとても柔軟で驚きました。
大槻 僕としては、映画でビジネスをしたい。‟映画愛”はもちろんあるけど、どちらかというとビジネス。その感覚が、大高さんと似ているよね。大高さんは、それを映画業界でやろうとしている。やり方は違うけど、同じ方向を向いている人がいるのはうれしいですよね。
—— なぜ、下北沢に映画館を?
大槻 25年前だけど、都内をいろいろ見て回って、最終的には下北沢か吉祥寺まで絞って、どっちでやったら面白いかなって。下北沢は演劇の街でライブハウスもあるし、変わったことを若い人に受け入れてもらえそうだと思い決めました。
大高 私は、まさか下北沢で映画館をやるとは思っていませんでした。きっかけは、下北沢駅の地下化に伴う再開発。小田急電鉄さんから文化的な施設としてミニシアターをつくりたいと相談があったんです。
大槻 若い面白い人が、下北沢で映画館をやるってなって、うれしかったですね。
—— ライバルという感じではない?
大槻 ないですね。ここに限らず、映画館同士でお互いを考えてやってるよね。
大高 上映スケジュールの編成を決める時も、いいドキュメンタリーだったらポレポレさん、アニメだったらトリウッドさん、なんて自然と考えちゃいますね。
大槻 いい意味で、それぞれカラーがあるからね。
—— 客層も違う?
大高 客層がとても若いとよく言われますね。もともとK2は、配信で見るのが当たり前であまり映画館に来ることがない人たちをターゲットにしています。せっかくコロナ後に始めるのなら、既存の映画ファンではなく、映画人口を広げる方向にチャレンジしたいと思って。
大槻 似たような感覚はあります。こんな変わった場所でやっているので、なんか変わったことをしたい。うちは中高生のお客さんも多いですよ。新海誠さんがトリウッドから出たというのもあり、若手監督のアニメーションを1つの柱にしていますから。最近では海外からのお客さまも増えました。
下北沢は、変わったことやっても受け入れてくれる街
—— 下北沢でミニシアターをやる意義は?
大高 最近、映画ファンは映画館、音楽ファンはフェスやライブハウスしか行かないという感じで、もうちょっとクロスカルチャーできたらいいなと思うんです。その可能性があるとしたら下北沢かなって。劇場もライブハウスもあるし、K2が文化のハブみたいな感じになれたら。しかし、なかなか難しい。たとえば、演劇の演出家が撮った劇映画にはなかなか舞台ファンは来てもらえませんが、同じ演出家のODS(舞台作品を映像化)には押しかけていただいたりというのを見ても、まだまだブリッジできてないと感じています。
大槻 私も、劇団のヨーロッパ企画さんと一緒に映画を撮りました。演劇ではできない、でも映画の撮り方じゃないものをやろうと。でも、大高さんが言ったように演劇と映画のお客さんは必ずしもリンクしない。だから、本公演じゃない時期に映画を撮って、公演に合わせて上演したらどうだろうとかいろいろ考えてね。
大高 『リバー、流れないでよ』ですよね? めちゃめちゃヒットしましたよね!
—— 今後どんな映画館を目指していく?
大槻 トリウッドは最初、映像のライブハウスというのを目指したんですよ。映画館よりも気軽に見られて、気軽に上映できる場所。いま、そうなってきているかな。新しいお客さんを求めて、柔らかさはずっと持っていたい。すっかりベテランになってしまったけど、大高さんに、めんどくさいおじさんと思われないようにしたいです(笑)。
大高 いや、まったく思ってないです!
—— 大高さんはどうですか?
大高 大きな商業施設の最上階にシネコンをつくるのは、映画館単体じゃなくて、商業施設全体の集客という意味合いもありますよね。これからは、街の活性化のために、エリアマネジメントとしてのミニシアターっていうロジックができて、映画館がどんどん増えたら面白いですよね。K2がそのロールモデルになれたらと思っています。それから12月に『下北現像所』というお店を「BONUS TRACK」にオープンしました。映画の台本やシナリオが読めるカフェバーです。映画館に持ち込めるフードやドリンクも販売します。下北現像所と街の映画館との間で回遊性が生まれたらいいですよね。トリウッドさんにも割引券とか置かせてください!
大槻 それは面白いね。もちろん、大丈夫です。ありがとう!
取材・文=瀬戸口ゆうこ 撮影=逢坂 聡
『散歩の達人』2025年1月号より