初めて行ったのは、代官山のクラブで開催されていたグッチのパーティーだ。大音量でダンスミュージックが流れる中、酒を片手に立ち話している人たち。暗い照明の中よく周りを見渡すと、モデルみたいな体型の人の割合が異様に高かった。

壁に大きく掲げられたグッチのロゴ。その下で、一般人離れしたスタイルの人々が順番に写真を撮っている。そういう宣伝契約でもあるのだろうか。場違いな存在であることをごまかすように、私も無理に誇張したモデル風のポーズを決めて写真を撮った。

2度目に行ったのはロエベのパーティー。居酒屋を出て渋谷のクラブに入ると、グッチの時よりも人が多くにぎやかだ。ただモデル風の人や極端に姿形の整った人は少なく、自分がいてもそこまで浮いた存在にはならなそうに見えた。

同行した友人7〜8人で集まって無料のハイボールを何度もおかわりしているうちに気が大きくなってきた。せっかくめったに来る機会のない場所にいるのだから、こんな時こそ、知らない人へ積極的に話しかけるべきなのではないか。過去に何度か普通のクラブでナンパした際は大概冷たくあしらわれていたが、今夜は選ばれし者しか入場できないロエベのパーティーだ。ここに参加しているという事実だけですでに一定の信用は確保できているから邪険に扱われる可能性は低そうである。

私は友人たちに「ちょっと新しい友達増やしてくるわ」と宣言し群衆へ分け入り暇そうな人を探し始めた。ほとんどの人々が誰かと盛り上がっている中、ぼんやり立っている女性をやっと発見した。その人も友人たち何人かで来ている様子ながら、話に入れておらず退屈そうだ。深呼吸してから意を決して近づき、笑顔で会釈してグラスを差し出した。

「よくこういうパーティー来るんですか?」会話を切り出すと他の男と話していた隣の女性がチラッと私を見た。「今日けっこう人多いですよね」「僕も友達と来てるんですけど……」パーティー慣れしていることをアピールしつつ積極的に話題を振る。彼女は「ああ、はい……」と曖昧な反応ながら、多少は笑っていたし拒絶する雰囲気もないように私は捉えた。

「今日寒かったですよね」なんとか警戒心を解こうと試行錯誤していたその時、「ねえ、大丈夫? 警備員呼ぼうか?」さっきからチラチラ見ていた隣の女性がいきなり割り込んできた。私は「まあまあ」と軽くいなしつつ、そちらを見ずに話し続けた。ツレに何を言われようが、今話しているこの人の信用を勝ち取れば解決するのだ。

しかしそいつは何度無視しても「警備員さん呼ぼうか?」と割り込んできて、しまいには「あ、警備員さーん」と実際に警備員を呼び寄せる仕草を始めた。腹立たしいことこの上ないが、ここまでゴタゴタしたらもう挽回はできないだろう。せめてもの捨て台詞として「この人が頼んでもないのに、勝手に警備員呼ぶのおかしくないですか? 呼びたけりゃ自分で呼ぶでしょ」と言い残し、逃げ去るようにその場を離れた。

スナックで再会

そんないまいましい出来事もすっかり忘れていた数カ月後のある日。友人と下北沢のスナックへ行って楽しくサザンなどを歌っていたら店員の女性が「あれ、どこかで会いませんでしたっけ?」と話しかけてきた。どうせ人違いだろうと思って流していたら、彼女は急にハッとした顔で「ロエベのパーティーいませんでした?」と言った。彼女はまさに、警備員を呼ぼうとしていたその人だった。

求めていない奇跡だ。いら立ちがよみがえったが、それよりもあの日何を思って私を排除しようとしたのかが気になり、冷静にたずねると「だってMA‐1着てトートバッグ持ってたから……」と予想だにしない答えが返ってきた。そこはどうでもいいでしょ、他になんかないの? と聞いても、彼女は「さすがにMA‐1とトートバッグはちょっと……」と繰り返している。ロエベのパーティーでMA‐1とトートバッグを身につけているのはそんなに異常なことなのか。私にはわからなかったが、確かに数カ月経っても覚えているほどだから、私の格好が強いインパクトを残したのは事実のようだ。

後日同じスナックに行くとまた彼女がおり、「あ! トリプルファイヤー吉田じゃーん!」と一気になれなれしくなっていた。前回会ってから私のことを調べたらしく、「Aちゃん(私がパーティーで声をかけた女性)に送っていい?」と写真を撮られた。さらに、翌週私のバンドが出演するイベントをAちゃんは別の友人と見に行く予定だという。「私も行きたかったー!」と何のわだかまりもない表情で言った。

実際、Aちゃんと友人はライブに来てくれた。何なら出演者の打ち上げに交じって朝まで飲んでおり、私ともたくさん話した。

最初のいざこざを思い出せば、こんなに打ち解けられてよかったと喜ぶべき話なのかもしれない。ただ、「それなら最初から普通に話してくれたらいいのに」と釈然としない気持ちはどうしても残る。何者でもない自分を第一印象で評価してくれなどというのは甘えなのか。それとも、MA‐1とトートバッグを身につけてさえいなければ本当に最初から仲良くなれていただろうか。今となっては確かめる術もないが、今後パーティーに参加する際はとりあえずMA‐1を脱いで行くことにした。

※写真と本文とは直接関係ありません。
※写真と本文とは直接関係ありません。

文=吉田靖直 撮影=鈴木愛子
『散歩の達人』2024年6月号より

20代後半あたりから地元の同級生がどんどん結婚し始めた。友人から結婚の報告があるたび「よかったな、おめでとう」と笑顔で祝福しつつ心の中では「ようやるわ」と思っていた。うらやましいと感じることもなかった。
たまに地元の友人から「お前さあ、テレビとか出てるけど、女優さんと仲良くなって付き合えたりしないの?」と聞かれることがある。あいにくそのような経験はないが、その願望がないわけではない。ニュースで女性芸能人と一般的にあまり有名でない男性ミュージシャンが交際・結婚したなどと耳にするたび、「自分ももしかしたら芸能人と付き合えるのではないか」と淡い期待を抱いてしまう。
大学生の頃、地元の同級生で上京した男友達3人と合コンをやったことがある。女性側は、同じく中学時代の同級生A子が集めてくれたが、A子は用事があったようで「じゃ、楽しんで」と言うとすぐに帰っていった。