「街にひとつはあってほしい」とオープンした王道の洋食屋さん
中目黒駅を出て代官山方向に徒歩5分。“街の洋食屋”をうたう『麻布笄軒中目黒店』はビルの2階にある。ランチタイムに通りかかると、嬉々とした表情で行列をつくる人々がずらり。人気の秘密を求めて足を踏み入れた。
扉を開けるとデミグラスソースが香り、期待が高まる。壁にメニューを描いた絵が飾られていて、次の瞬間、額から皿やパスタがはみ出ていることに気付いてクスッとしてしまう。遊び心を感じる絵のほかは、店内は明るく落ち着いた印象。カウンターの上にワイングラスが吊り下げられていて、夜もしっかり食事ができそうだ。
中目黒店は『麻布笄軒』にとって2店舗目。G7広島サミットでも料理長を務めた森山裕介(もりやまゆうすけ)さんが「まちに1軒は洋食屋さんが欲しい」と2020年11月にオープンさせた。広尾にある本店のオープンから5年目のことだった。なお、笄軒という店名は本店がある広尾の古い地名、笄町に由来する。
中目黒店店長が考案。復刻したとろとろ玉子のオムリバーグ
中目黒店では、7~8割ほどの人が頼むメニューがある。それがとろとろ玉子のオムリバーグだ。この名物メニューは、2021年8月から9月にかけて約1カ月の限定メニューとして広尾本店と中目黒店に登場した。
「映えるオムリバーグフォトコンテスト」と称して、とろとろ玉子のオムリバーグの写真を対象としたインスタグラムを使ったイベント用の特別メニューだったのだ。フォトコンテスト終了後も、あのメニューはないのか、また食べたいという声が多く寄せられて、2022年11月ごろ中目黒店限定復刻として再登場した。
考案したのは中目黒店の店長で、『麻布笄軒』全体の副料理長でもある高嶋健司(たかしまけんじ)さん。
「『麻布笄軒』の看板メニューはハンバーグです。国産牛と豚肉を丁寧に手捏ねしています。そのハンバーグを使った新メニューを作ろうと考えました」
メニュー開発には試行錯誤があった。オムレツは形が整った状態で提供するか、とろとろ感が見える方がいいか。そして、オムレツのぽってり形は見た目がよく、オムレツを開く動作を楽しんでほしいと今の形状になった。デミグラスソースをかけるのは先に決まっていたが、「最初に見たとき寂しい感じがしたので、チーズソースを敷くことにしました」。チーズソースはとろとろ玉子のオムリバーグ専用に作っている。
ハンバーグは1つ180グラム。注文が入ってから最終的な整形をしてフライパンで焼いてから、中目黒店ではスチームコンベクションオーブンへ。スチームを使うことで、中までふっくら仕上がる。
ハンバーグが焼き上がるタイミングを見計らって、オムレツを焼き始める。玉子は3つ分とこちらもボリューム十分。じっくり火を入れてからフライパンの持ち手をトントントン。焼き上がったオムレツがハンバーグの上にのせられて弓なりにカーブする姿も微笑ましい。
記憶と記録に留めたくなる。美しく形を整えられたオムレツにナイフを
オムレツにナイフで横一文字に切れ込みを入れるときのドキドキ。柔らかくとろとろした内部がハンバーグとケチャップライスにかぶさってから、別添えのデミグラスソースを回しかける。動画撮影する人も多いとのこと。
オムレツは言うまでもなくトロトロとやさしい口当たり。ふっくら厚みのあるハンバーグは、食べ応え十分。肉のおいしさが舌の上に広がる。ケチャップライスはケチャップがお米一粒ずつにしっかり絡まっている。デミグラスソースもチーズソースも程よい濃さでやさしい。最後まですべての味に新鮮さがあって飽きない。
とろとろ玉子のオムリバーグが出てくる前、高嶋さんは「うちはデザートを食べる人が多いですよ」と教えてくれた。そのときは客層が若いからだろうと思ったが、食べたあとなら分かる。ボリュームのあるとろとろ玉子のオムリバーグを食べたあとでも、デザートは食べられる。それぐらいこのひと皿は重くない。
ランチなら平日が狙い目だが、ディナーは予約も可能。ちなみにワインはボトルで2000円というリーズナブルなものも複数用意。王道の洋食にプラスした楽しみがある店として訪れてみるのはいかがだろうか。
材・撮影・文=野崎さおり