先代から守り続ける伝統の味。地元に根付く“思いやり”の町中華
店長の永野さんは、お父さんから店舗を受け継いだ2代目。家族で経営するこのお店は、厨房やホールに立つのも娘さんや弟さん。87歳のお母さんも現役で、今も仕込みや調理でお店に立つ日もあるそうだ。
お昼時には近くの会社の方や地元の方で満席になり、50年以上続くお店だからこそ顔なじみの常連さんも多い。「いつもの」で通じるお客様もいるそうで、永野さん一家と常連さんの会話がなんとも微笑ましく、居心地の良さが感じられる。
『中華 三幸苑』は、かつて永野さんのお父さんが修業した横浜・野毛の『三幸苑』から暖簾分けしてできたお店だという。現在その本店は無くなってしまったそうだが、永野さんは本店から受け継いだ“三方よし”の意味が込められた店名を大切に思っているそうだ。さらに「自分が料理をつくる時、疲れたという気持ちで店に立ってはいけないと思っている。笑顔でいるからこそ、おいしいものがつくれると考えています」と、お客様へ最高の一皿を提供することへの強い想いを語ってくれた。
するすると口に運んでしまう、定番のたんめんと半チャーハン
おすすめは、お店の看板メニューである、たんめん・チャーハン・ぎょうざの3品とのことで、たんめん+半チャーハンのサービスセット1000円と手作りぎょうざ(5個)600円をいただいた。
たんめんといえば中太麺が思い浮かぶが『中華 三幸苑』ではスープがよく絡むように“細麺”を使用している。たしかに、麺をすするだけで旨味が凝縮されたスープを十分に楽しむことができる。あっさりとした優しい味わいは、次々口に運んでしまうおいしさだ。
チャーハンは50年前から変わっていない、卵、ねぎ、チャーシュー、なると入りのシンプルな味付け。暖簾分けした本店の店主の「油はいいものを使用する」という教えで1級ラードを使用しており、全く油っぽさはないのに香ばしい。チャーハンなのに“あっさり”という言葉がぴったりで、あっという間に平らげてしまった。
手作りぎょうざの皮は、厚すぎず薄すぎない丁度よいもちもち感。永野さんの手作りのラー油はしっかりとした辛味が感じられ、ジューシーな肉のうまみとショウガの爽やかな風味を引き立ててくれる。
「この仕事が好き」店長永野さんのお店へかける愛情
地元に根付く古き良きお店だが、個人店の経営は苦労も多かったそう。コロナ禍には人足も少なくなり、弁当販売などの工夫で辛い時期を乗り越えた。楽しいことばかりではない仕事だが、永野さんは「若い頃に他の仕事も経験したが、今の仕事が1番向いていると思う」と笑顔で語ってくれた。
体力の続く限りお店に立ち、いずれは三代目に受け継ぐことも考えているそう。「この仕事が好き。おいしかったですと言われるとうれしいです」という力強い言葉に、お店にかける想いと、深い愛情が伝わってきた。
昔懐かしい町中華をいただくことができる『中華 三幸苑』。地元に根付いて長年愛されてきた料理を味わいに、ぜひ一度訪れてみてはいかがだろうか。
取材・文・撮影=青野奈月