アンティークだらけの空間で、ちょっとした非日常を味わう
店内のアンティークグッズ。これらはみな、店主の安田さんが中学生の頃から集めてきたもの。窓の形、ドアの形状、お店の名前の字体、もちろん置く調度品に至るまで、すべて安田さんが自分で決めたのだそう。安田さんのセンスに裏打ちされた統一感のある、しかしながら遊び心あふれるおもちゃ箱のような雰囲気に心が躍る。
お店の奥に飾られている「銀河鉄道の夜」を連想させる電車の絵も、『Le Delizie Del Mondo』のちょっとした非日常感を後押しする。安田さん自身も、「この作品が一番お気に入りなんです」と語る。実はこの作品は絵本作家のお姉様が作ったもの。この電車に乗って、おいしい料理への旅路が始まるのかとそわそわわくわくしてしまう。
職人気質の店主が織りなす「ボーダレス」な美食たち
「みんな頼むのはやっぱり本日のサラダと、パスタかなぁ。シェアする方も多いですよ」安田さんの言葉に後押しされて、本日のサラダを頼む。
出てきたのは芸術作品のような一皿だった。思わず息を飲む。姿勢を正して食べなければ……そんな気になる力の入った一品。カンパチのカルパッチョと綺麗な野菜がお皿の上に散りばめられている。新鮮でプリップリでコリッコリのカンパチに、オリーブオイルとビネガーの鼻に抜ける爽やかな香りがたのしい。食感も色々あるからか、飽きずにあっという間にペロリと平らげてしまった。
次に頼んだのは、パスタの一番人気、ハマグリとフレッシュトマトのスパゲッティ。
ハマグリを口に含んだ瞬間。口の中にハマグリの旨味という旨味が弾け出す。これまたぷりぷりの身、ふくよかで豊かな香り、そして噛むほどにハマグリのスープがじゅわり。脳の中に直接味が伝わってくる感じ。爆発的な「旨味」がある。それでいて決して上品さも失わないのがたまらない。フルーツトマトとオリーブオイルのシンプルな味わいが、間違いなくこのスパゲティの格を一段引き上げている。上品なのに、いつ誰が食べても旨いと感じるに決まっている。そう、確信を持てる味がここにある。
ハマグリやカンパチなど、魚介については安田さんが自ら豊洲まで行って買いつけているそう。昔、和食店で修業していたこともある安田さんは、品質にも妥協がない。ハマグリは、基本的に千葉か茨城のものを使用するそう。そのこだわりが、この芸術的な一皿を産むのだと思えば納得が行く。
店主の安田さんは、20年ものあいだ料理の修業をしてからこのお店を開いている。修行したレストランは数知れず。和食だけではなく、イタリアンからフレンチ、パティスリーまで、本当に色々な種類。なんとふぐの調理師免許も持っているそう。その経験と知識を活かし、イタリアンをベースにしながらも和食の要素を取り入れたりするなど、安田さんの料理は「ボーダレス」。自由で遊び心だらけだ。
こだわりの店主が作る自由で繊細な料理たちは美術館帰りにもピッタリ
ヨーロッパのビストロにふらりと入る時の高揚感、非日常感を味わえるのは、まさしく『Le Delizei Del Mondo』の大きな美点のひとつと言って良いだろう。そして、美術展に行った後のゆったりとした、少しオシャレな気分ともお店の空気自体が非常にマッチしている。そのせいか、人気の美術展の後には特に混んでしまうらしいので予約が必須だ。
また、安田さんはソムリエの資格も持っているため、ワインと一緒に料理を楽しんでほしいそう。ただ、お酒が飲めない方も安心してほしい。ソフトドリンクも充実しているので、アクア・ガッサータ(炭酸水)とともに料理をいただくのもいい。
安田さんの一番の悩みは「やりたいことが多すぎる」こと。新しい一品を思いつきながらも、それを実現させるための時間が足りないことがもっぱらの悩みだ。それはどこか、芸術家の言葉と通じるものがあるようだ。そして『Le Delizie Del Mondo』で食べれば、ここの料理もまた芸術であることが理解できるだろう。美術館で芸術を楽しんだ後、ここでも芸術を楽しむ、というのも清澄白河のツウな楽しみ方かもしれない。
取材・文・撮影=HOKU