店主の実家は神田猿楽町のそば屋『淺野屋』だった!
外観は日本家屋でまさにそば屋さんといった風情。しかしメニューの立て看板などはない。
店内は、カウンターとテーブル席。奥には個室の座敷もある。仲間内で食事をしたいという場合は、奥の座敷もいいだろう。木造の店内は落ち着く。照明も明る過ぎず暗すぎずで程良い。
店主の小林さんの実家もそば屋を営んでいる。1925年に創業した神田猿楽町にある『淺野屋』だ。
「兄貴が実家の『淺野屋』を継いで、自分は外で修業を積もうと思ったわけですよ」と小林さん。
小林さんは、品川区大井に店を構える伝統のあるそば屋『布恒更科(ぬのつねさらしな)』で約2年修業をすることになる。そして2004年に浅草橋でこの『更里』を始めたのだそうだ。そば屋で生まれてからそば一筋でやってきた。
「浅草橋という場所にこだわりがあったわけじゃなかったんですよ。そもそも私が修業していた『布恒更科』の古い木造の雰囲気が好きで、ああいった雰囲気のお店でやってみたいというのがあったんです。たまたま浅草橋でちょうどいいところがあっただけなんですよ」
『更里』というお店の名前も『布恒更科』から一文字いただいて名づけたそうだ。
十割そばや外二そばを食べてみよう!
『更里』のそばは大きく分けて十割そばと外二(そとに)そばがある。十割そばは、つなぎのないそば粉のみで打ったもの。対して、外二はそば粉とつなぎの割合が10:2で打ったもの。『更里』のほとんどのメニューは外二だそうだ。
今回いただいたのは、十割そば1100円。小林さんのおすすめだ。
十割そばは、つなぎがないため高度なそば打ちの技術も必要になる。そのため十割そばを提供しているお店は、人気と質が高いのも事実。
『更里』での十割そばにも期待が高まる。
量は少なめと感じる人もいるかもしれないが、個人的には丁度良いボリュームだ。口にいれるとそばの香りが広がる。コシがあり旨い。
筆者はそば好きで、よくそばを食べる。普段食べているものと一緒にしてはいけないが、段違いに旨い。濃いと噂のそばつゆとのバランスも良く、久々に旨いそばを食べたと実感。つゆは、濃い出汁と濃い醤油を使って、どちらにもかたよらない味になるように『布恒更科』で修行した際、師匠から教えてもらったのだそう。
また十割そば(メニューでは生粉(きこ)打ち蕎麦と表記)以外のメニューは外二で、二八に比べると、そばの割合が多く香りが良いのが特徴だ。
小林さんにこだわりを尋ねてみた。
「師匠に教わった江戸前のそばと江戸前のおつゆを提供したいと思っているので、そこがこだわりと言うか、そうした思いが強いですね」
『布恒更科』から受け継いだそばつゆは色は濃いけれど、上品なしっかりとした味つけがされている。ただ濃いだけではない。またそばを食べ終わったあと、そば湯を足していただいくのもおいしかった。
季節物のメニューもおすすめ!
冬の時期はわかさぎ天もりや鴨せいろもメニューにのっている。その他にも2月頃なら「ふきのとう」、5月頃なら「富山の白エビ」など季節に応じて提供している季節ものにも人気があるとのこと。
「季節が変わる度に、いらっしゃるお客様もいるんだよ」と小林さんは語る。たしかに、その時にしか味わえないメニューも魅力的だ。
とは言っても万遍なく人気があり、最近では豚バラせいろが特に人気とのこと。季節もののメニューがなくても写真の通りメニューにはたくさんの種類がある。
寒い季節は熱燗で一杯も楽しみ
『更里』は店主の小林さんと奥様の2人で切り盛りしている。そのためか懐かしい雰囲気だ。外観は高級店という佇まいだが、店内は下町らしい人情味のある雰囲気が満ちている。小林さんご夫婦の人柄だろう。
帰り際に「お酒はのめるのかい?」と小林さん。
「2月頃においしい日本酒が入るから、またおいでよ」と言ってくださった。日本酒とそばの組み合わせなんて、最高過ぎる。
〆のラーメンとは良く耳にするが、そばに日本酒もおつなもの。
帰りが遅くなった時や、飲み会の後にも立ち寄りたいそば屋だ。
初めての『更里』に訪れる場合、店の外観に入りづらさを感じる人がいるかもしれない。しかし決してそうしたことはないので、ぜひ立ち寄って本格的なそばを堪能してほしい。
17:00~LO21:00
(土11:30~14:30・17:00~LO20:00)
/定休日:日/アクセス:JR総武線 浅草橋駅西口から徒歩2分
取材・文・撮影=アサノカツヒト