昭和のつけ麺ブームを牽引した『つけ麺大王』のフランチャイズ店としてスタート

銀座7丁目の花椿通り沿いにある『銀座亭』は、1975年創業の町中華だ。銀座には美食家が集う高級店が多いイメージだが、この街で働く人たちをベイマ〇クス並みの包容力で包んできたのが『銀座亭』なのだ。

『中華 銀座亭』のレトロなフォントに胸が高鳴る。
『中華 銀座亭』のレトロなフォントに胸が高鳴る。

店の外から見てもコの字のカウンターはお客さんでギッシリ。出直そうかと思ったが、3代目店主の北岡秋平さんが「いつもこんな感じなんで大丈夫っすよ」と、快く話を聞かせてくれた。

「この店はうちのおじいさんが脱サラして『つけ麺大王』で修業し、1975年にフランチャイズで始めた店なんです。だけど、いろいろあって1977年ごろにはフランチャイズを辞めて今の『銀座亭』として営業を始めました。実は、創業当時の屋号は『つけ麺大王』だったんですよね」。

弾ける笑顔の3代目、北岡秋平さん。「SNSの普及で女性ひとりでも入りやすいことが広まって、女性のお客さまも増えています」。
弾ける笑顔の3代目、北岡秋平さん。「SNSの普及で女性ひとりでも入りやすいことが広まって、女性のお客さまも増えています」。

『つけ麺大王』とは懐かしい!

黄色い看板がおなじみで、昭和のつけ麺ブームを牽引した名店だ。筆者の学生時代は貧乏で頻繁に食べに行くことができなかったけど、ニンニクたっぷり、もやしがシャキシャキでおいしかったなあ。いま『銀座亭』にあるいちばん古いメニューはつけ麺で、麺類全般のメニューのベースとなる味は『つけ麺大王』にインスパイアされたものだ。

味わいのあるコの字カウンター。オーダーの比率は定食6:麺3:つまみ1くらいだとか。
味わいのあるコの字カウンター。オーダーの比率は定食6:麺3:つまみ1くらいだとか。

「創業当初は炒め物とか定食類がなかったそうです。先代に定食メニューを導入したきっかけを聞いたことはないんですけど、銀座の黒服のお兄さんたちとかこの周辺にある飲食店で働く人たちは、一見華やかなように見えて意外と力仕事もしていると思うんですよ。だから、スタミナをつけられるようにという想いで、きっと定食を提供するようになったんじゃないかな」と北岡さん。

活気のある店内を見ていると、お客さんはぱっと食べてサッと出ていく。決して広くはない厨房に5〜6人のスタッフが入り、それぞれの持ち場でテンポ良く調理されている。「忙しい人が多いので、すぐ料理が出せるように」ということらしい。これはありがたい。

幅広いラインナップ! 時間があるなら飲み物&おつまみの部からスタートしたい。
幅広いラインナップ! 時間があるなら飲み物&おつまみの部からスタートしたい。

野菜がシャッキシャキ! ボリューム満点のみそチャーシュー

カウンターに座った両隣を見ると、定食を食べている人もいればラーメンをすする人もいる。うーん、迷ったら心の声を聞け。メニューをじっと見つめているとどこからともなく囁きが聞こえてきて、みそチャーシュー1300円をオーダーした。

北岡さんがオーダーを呼びかけると、呼応する声とともに一斉に厨房が動き出す。こういう活気が、不思議と気分を高揚させてくれるものだ。

とか言って、ポワンとしてたら料理ができてしまう。あわててカメラを構えた。まずは中華鍋でもやしや豚バラ肉を炒める。

強い火力で一気に炒めるから、野菜がシャッキシャキに仕上がる。
強い火力で一気に炒めるから、野菜がシャッキシャキに仕上がる。

並行してほかのスタッフが麺を茹でる。炒めた野菜にスープと味噌だれを加え、スープを作っていく。

オーダーが入ると仕上がるまでは時間との勝負。北岡さんも引き締まった表情に。
オーダーが入ると仕上がるまでは時間との勝負。北岡さんも引き締まった表情に。

コンロの火力のせいもあるが、厨房はかなり熱気を帯びている。丼を用意する、配膳の準備をするなどスタッフそれぞれに役割があり、ゆっくり構えて写真を撮っていたら弾き飛ばされそうだ。

スープはもみじ、豚足、野菜などでとり、麺類のメニューはこれですべてを賄う。
スープはもみじ、豚足、野菜などでとり、麺類のメニューはこれですべてを賄う。
自家製の味噌だれは少し辛味があるのがポイント。
自家製の味噌だれは少し辛味があるのがポイント。
分厚いチャーシューを4枚も盛り付ける。うほー、ボリューミーだ。
分厚いチャーシューを4枚も盛り付ける。うほー、ボリューミーだ。

なるべくお邪魔にならないようにスキを見つけてシャッターを切り、そそくさと厨房を出た。というか、正確に言うと5分足らずでみそチャーシューができてしまったので、あわてて席に戻らなければならなかった。今日は筆者も時間との戦いだ。

撮影をしていると「早く食べて〜、味はどうですか?」と北岡さん。早く食べたいんですけど、ちょっと待ってくださいね(撮影も大事!)。

もやしやキャベツがシャッキシャキ!
もやしやキャベツがシャッキシャキ!

まずはスープから。味噌汁のようなほっこりやさしい、あっさりとしたスープ。ああ〜、ほっとするなあ。野菜はシャッキシャキのアッツアツで、スープの味がほどよく染み込んでいる。分厚いチャーシューがフタをしているからか、食べ終わるまで野菜の熱が逃げない。

中太麺はもっちもちだ。
中太麺はもっちもちだ。

中太のストレート麺はグングンスープを吸い上げていく。表面が青光りする豚肩ロースのチャーシューはやわらかく、脂身が少なめ。決してしょっぱすぎるわけではないのだが、全体的にあっさりとした味わいだけに、このチャーシューが強いインパクトを与え良いメリハリになっていて最後までおいしく食べられた。ごちそうさまでした!

いつ食べても安心できる町中華の味を引き継いでいきたい

銀座の端っこで約半世紀もの間、町中華というスタイルを継承してきた『銀座亭』。東京中で年々、庶民の味方・町中華が減少しているのを肌で感じている。これは由々しき問題だ!

「銀座にはラーメン屋さんはけっこうあるけど、町中華はウチを入れて3軒くらいですかね。(時代の流れや物価高など)継承していける人間がいないんじゃないですか。うちはありがたいことにたくさんのお客さまやスタッフ、皆さんに支えられてます。まだおじいさんが現役の時のお客さんもお越しになるので」と北岡さん。

町中華は居酒屋としても優秀だ。
町中華は居酒屋としても優秀だ。

北岡さんは焼き鳥店で働いていたのだが、2020年からお父さまと一緒に『銀座亭』を盛り立てている。東京オリンピックが開催すると店が忙しくなることを見越してのことだった。

「結局、その年にオリンピックはありませんでしたけどね(笑)。3代目ともなると看板も重くなってくるじゃないですか。だけど、気負わずにやっていこうかなと。たまには銀座で働く先輩方から、厳しいお言葉をいただくことはありますけど、みなさんとても温かいです。ずっとこの店で働いているスタッフも含め、みなさんが僕を受け入れてくれたことに感謝ですね」と北岡さんは話す。

天板と同じ素材であったはずのカウンターの縁は、すっかり別の姿になっている。たくさんの人たちがここで食事をしてきた証だ。
天板と同じ素材であったはずのカウンターの縁は、すっかり別の姿になっている。たくさんの人たちがここで食事をしてきた証だ。

最後に北岡さんは「これからも『銀座亭』が提供してきた、食べて安心する味を守っていきたいですね」と語った。これを聞いて銀座で働く常連たちもほっとしたのではないだろうか。少なくとも筆者は安堵した。

仕事の合間にエネルギーをチャージするだけでなく、食べるとフワッと毛布をかけてもらったような安らぎを感じる『銀座亭』。次は軽く飲んでから定食を食べるのもいいかもな。

住所:東京都中央区銀座7-11-10/営業時間:11:30〜翌1:15LO/定休日:土・日(祝日は営業する場合あり)/アクセス:JR・地下鉄・ゆりかもめ新橋駅から徒歩6分

構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢