部下をかばう名言
■名言1■
【歯車をスムーズに噛み合わせるには潤滑油が必要】「釣りバカ8」より
ショボクレ佐々木課長がハマちゃんの懲罰委員会(連載第5回参照)において、居並ぶ社長&重役連中を前に、堂々と擁護をやってのける名シーンでのひと言。
「会社というのはたくさんの歯車で成り立っている。歯車をスムーズに噛み合わせるには潤滑油が必要。この浜崎君は潤滑油の役目を果たしているんじゃないかと思います」
歯車、ネジ、ガソリン、そして潤滑油と、職場の人材はよく機械要素に例えられる。
歯車……目立たないけど堅実な社員
ネジ……事務方、サポート要員
ガソリン……組織を引っ張る原動力的な社員
潤滑油……ムードメーカー
おおよそこんなところ。
「オレも歯車じゃないの?」
とハマちゃんが不服に思うような状況もあるので、使い分けには注意したい。
ともあれ、誰もがどこかで役に立っている……、言外にそんな佐々木課長の愛が伝わってくるハートフルなひと言だ。
■名言2■
【私はこの男が憎めないのであります】「釣りバカ8」より
佐々木課長のハマちゃん擁護シーンは役立つフレーズの宝庫だが、この「○○が憎めないのであります」は奥の手と言えよう。
弁護や擁護はついつい言い訳や理屈に終始してしまうことが多いが、相手側もまたそれらに対する反論材料を取り揃えているのが常。そうなると話し合いは平行線どころか、状況は不利に傾く。
そんな場合は、強く私情を主張し、情に訴えかけてみるのも有効な手段だ。
「○○が好きなんです!」
「○○がしたいんです!」
百の理屈より、一つの情で押し切り、事態を打開してみよう。ただ多用すると単にワガママなヤツと思われるので要注意。
■名言3■
【出世コースに乗せることです】「釣りバカ2」より
類語に「課長にすることです」(「釣りバカ3」)がある。いずれも「浜崎にとって最悪の懲罰は?」という重役連中の問いに対する監督者としての返答。結局、「そんなバカなことできるか!」ってことで穏便な措置に落ち着く。
部下をよく理解してないと言えない、かなりの高等戦術。落語の「まんじゅう怖い」を彷彿させる(真逆をゆく?)諧謔も秀逸だ。佐々木課長に座布団1枚!
【出世を呼び込む佐々木課長3つの習慣】
その1 恒例ゴチ(「釣りバカ11」)
給料日翌日の昼、課員全員にそば屋で奢るのが恒例行事。自身がキツネそば(現在500円)ばかり注文するんで、部下も同価格帯のものばかりなのはご愛嬌。これでチームワークが向上し、業績アップ!昇進もグッと近づくか?御用達の『そば作 御成門店』さんは現在も営業中~!(新橋6丁目赤レンガ通り沿い)。
部下を叱る名言
■名言4■
【言い訳するな!このハコフグ!】「釣りバカ14」より
今のご時世、部下への罵倒はパワハラに直結する可能性が高い。でも時には言わなきゃならないこともある。その際は、部下の生態から採ったオリジナルのフレーズで責めるのはいかがだろう。
この「ハコフグ!」の場合、ハマちゃんという釣りバカの生態と、その丸々とした見た目から付けられたもの。作中、言われたハマちゃんはダメージは受けるも、心底傷ついた様子はない。このビミョーな匙加減はさすがだ。佐々木課長、実はボキャブラリーの達人か?
ただ、過去にOL久美子(演:山瀬まみ)に向かって「鶏ガラみたいな女」と暴言を吐き、女性陣から総攻撃を受けるという騒動を起こしている(「釣りバカ1」)。よほど懲りたのか、それからかなり学習したのだろう。
かく言う筆者もまたサラリーマン時代に重役に向かって「何言ってんの。ジャバ・ザ・ハット(by『スターウォーズ』)みたいな顔してぇ」と軽口を叩き、上司共々、謝罪するハメになった苦い思い出がある。
ともあれ、言葉の選択、使う相手には細心の注意が必要だ。
■名言5■
【馬鹿!とは言えないか……】「釣りバカ10」より
佐々木課長がハマちゃんに対してたびたび発する「馬鹿!」。これは、
『男はつらいよ』における寅さんの「相変わらず馬鹿か?」
同おいちゃんの「馬っ鹿だねえ」
北野武の「ダンカン、バカヤロ!」
林家喜久翁の「いやん、バカん」
に並ぶ日本5大馬鹿セリフである(筆者撰)。これらの「馬鹿!」は罵倒ではあってもどこか温かい。情がある愛がある。
しかし、いくら愛があっても、うかつに使えばパワハラだ。上司は「馬鹿!」を発したらフォローもしておきたい。その好例が「馬鹿!とは言えないか……」。
罵倒のフォローが絶妙な褒め言葉となっている。直接、言われた当人(ハマちゃん)の耳には入っていないが、周りの人の口から届くことも多いはず。ぜひ表例の「馬鹿!」に代表される常用のフレーズ(「ケチ!」「日和見!」「腰巾着!」など)とセットで使いたい。
■名言6■
【そういう言い分が通用する時代はもうとうに去ったんだよ】「釣りバカ12」より
日々進化するビジネスシーンにあって、とかく中間管理職は変化に抵抗を感じることが多いのでは?しかし、少なくとも部下にそういう素振りを見せないほうがいい。
強がりでもいい。部下が前時代的な常識を口にしたら、「○○が通用する時代はもう終わったんだよ。これからは……」なんて言ってみたい。
「おっ、うちの課長は新しい価値感に敏感に反応するデキるヤツ」と印象づけ、ひいてはチーム全体にその気概が伝播する。
でも、「『フルーツとっていい?』が通用する時代はもう終わったんだよ」といった夜のお店でのセコい悪ノリは控えましょ。
■名言7■
【僕はね、あくびなんかしなくても君の顔みるだけで涙出るんだよ】「釣りバカ11」より
類語に「こんな男が部下かと思うと泣けてくるんだよ」(「釣りバカ11」)もある。
失態の責任を負わされ泣くに泣けないことがある。それが中間管理職という生き物。でもそんな時は、
「○○だと涙出るんだよ」
「○○を思うと泣けてくるんだよ」
などと、愛嬌たっぷりに愚痴っぽく叱ってみよう。口にすることで、ずいぶん気持ちは楽になるし、愚痴に愛嬌があれば、部下も心を開きやすい。
愚痴も泣き言も言わない強い上司像を理想とする人もいるかもしれない。でも時には愚痴ったっていい。愚痴も言い合えない組織なんて、放屁を禁じられた満員電車、特別ルールで得意技を封じられた異種格闘技戦、酒類の提供を禁じられた居酒屋のようなものだ。
【出世を呼び込む佐々木課長3つの習慣】
その2 太田胃散(「釣りバカ11」など)
出世は毎日の健康管理から。ストレスで傷んだ胃腸を太田胃散でいたわるのが日課となっている佐々木課長。その甲斐あってか、「釣りバカ14」ではついに次長に昇進~。「さんたつ」的には、服用とあわせて、太田胃散の本社(文京区千石)を眺めつつ、前身が江戸幕府の薬草園(小石川御薬園)である小石川植物園へのおクスリ散歩もオススメ。
チームを強くする名言
■名言8■
【よぉし。今日という今日は決着をつけてやろう】「釣りバカ14」より
部下の顔色をうかがう。忖度して妥協する。そんな気配りももちろん大事だが、それだけじゃいけない。時には宣戦布告のつもりでガツーンと言ってやることも必要だ。
その際、上司風を吹かすのはNG。あくまでも対等の立場で臨むことがポイントとなる。
「俺の営業マンとしてのプライドに懸けてこの一線は譲れない!」
「俺を見返すくらいのプランを立ててみろよ!」
などの言葉も同様。上司の本気とはつまりこういうこと。時には佐々木課長のように肩書きを捨てて本音でぶつかれ!
■名言9■
【営業三課はいつも和気あいあいとやっております】「釣りバカ11」より
どんなチームにも、いい時もあれば悪い時もある。しかしマイナスな状況を中間管理職自ら課の内外に発信してしまったら、チームの士気は下がる。
その点、我らが佐々木課長は、
「いつも和気あいあいとやっております」
と、ポジティブな姿勢をアピールしたり、朝礼で「がんばろー!」と唱和させるなど(「釣りバカ14」)、ああ見えて実は常に前向きなリーダーなのだ。
「毎月毎月ノルマが未達で……」
なんて言葉はたとえ事実でも対外的に発信するのはNG。少し盛っても構わない。
「目標達成に向けて邁進しております」
と、いつでも前向きな発信をしたい。
「笛吹けども踊らず」とはよく言われるが、まずは笛を吹かなければ何も始まらないのだ。
■名言10■
【君は浜崎をクビにしたいのか!】「釣りバカ15」より
万年課長の汚名を返上し晴れて次長に昇進した佐々木さんが、ハマちゃんの処遇を巡り舟木新課長(演:益岡徹)に言ったセリフ。
ここでのポイントは、「部下思い」がにじみ出ていること。
舟木課長への注意とハマちゃんの擁護が絶妙に組み合わさり、部下思いの上司であることを印象づけている。
ほかにも、
「彼の立場を考えてみよう」
など、常に「自分」より「部下」という気持ちでの発言を心がけたい。
少なくとも「秘書(部下)が勝手にやったこと」なんて腹黒政治家が言いそうなセリフは、我らが佐々木課長は言わないのだ。
【出世を呼び込む佐々木課長3つの習慣】
その3 つらい時の『昴(独唱)』(「釣りバカ2」)
昇進がかなわなかった時、しくじった時は、無理に明るく振る舞って『昴』を口ずさむ佐々木課長。そのいじらしさがいつか彼をまだ見ぬ高みへと押し上げるのだ。「砕け散る運命(さだめ)」と覚悟を決めれば何も恐くはない。佐々木はゆく。ショボクレた風体のままで……。
部下に尊敬される名言
■名言11■
【僕と君とは戦友だ。ひとりじゃ行かせない。僕も辞表叩きつけてやる】 「釣りバカ12」より
懲罰委員会に出頭するハマちゃんに付き添う際のセリフ。
「これで二人は共犯だ」
「もしダメだったら一緒に頭下げてやる」
などなど、部下が窮地に陥った状況には、男気をもって共に立ち向かいたい。中間管理職が男気をみせることで部下との信頼関係はより緊密なものになる。
ん?これ、プロポーズに応用できないかな?
「君と僕とは運命共同体だ。ひとりじゃ行かせない。一緒に婚姻届出してやる」
とか……だめ?
■名言12■
【君の机は永久欠番にしておこう】「釣りバカ1」より。
高松営業所に戻るハマちゃんへの餞(はなむけ)の言葉。部下と上司にもいつか別れが来る。その別れ際の言葉は永遠の絆をつなぐものとなる。
「君の○○は永遠にうちの課の勲章だよ」
「いつかまた一緒に○○しよう」
などなど、少しクサくてもいい。永く印象に残る言葉を用意しておきたい。
かつて筆者も某誌編集部を離れる担当者に、
「いつかまた一緒に金町のフー○ク行きましょう」
と餞(はなむけ)の言葉を贈ったが、その絆は今も生きているだろうか。
■名言13■
【君のおかげで楽しいサラリーマン人生を送ることができた】「釣りバカ11」より
使いたい、使えるというより、そう言える人も、言われた人も幸せだなあと思えるひと言。この言葉を発する一瞬、この言葉を言われる一瞬のためにすべてのサラリーマンは会社人生を送っているのではないだろうか……とさえも邪推してしまう。
仕事上の人間関係に悩んだら、記憶の引出しから取り出して思い返してみたい。
もし、仮に谷啓さんの生涯のドキュメントフィルムを撮ることがあるとしたら、ラストシーンはこのひと言だな、うん。
聞け!正しき者の言霊(ことだま)
佐々木課長の魅力って何だ?それは正しいことだ。
世の中も会社も正しいことばかりで成り立っているわけではない。ワンマンで下の話に耳を傾けない社長、とかく横柄で無責任な重役連中、仕事そっちのけで趣味に生きるベテラン部下……、世の中(てか鈴木建設か?)はむしろ正しくないことで溢れている。
正しくない世の中を正しく生きる。その矛盾を抱え込む。これほど生きづらいことはない。そのことを体現しているのが佐々木課長だ。
そんな男の魂から絞り出される言葉だから価値がある。人を惹き付ける。行きつけの飲み屋で、周囲がドン引きするような劣情トークを繰り広げ(詳細は書けない)、「変態大先生」なる称号を欲しいままにしている我が身が恥ずかしい。
名言はヒーローや偉人だけによって語られるものではない。ホラも吹かなきゃホコリも起てないようなショボクレ中間管理職・佐々木課長にも……いやそんな彼だからこそリアルに役立つ言霊(ことだま)が生まれるのだ。
文・撮影=瀬戸信保 イラスト=オギリマサホ