大人が楽しむ渋谷の代名詞『Bunkamura』
渋谷駅前のスクランブル交差点から文化村通りを進むと、街は徐々に落ち着いていく。喧騒を含む空気を大きく変えるのは旧東急百貨店本店の建物。さらにあたりをどこか大人っぽい雰囲気にするのが『Bunkamura』の存在だ。『Bunkamura』を超えた先は、北も東も全く違う街であるかのような、そんな存在感がある。
『Bunkamura』は1989年の誕生から30年以上、この場所からさまざまな文化を発信し、牽引してきた。
『シアターコクーン』は、串田和美、故・蜷川幸雄、松尾スズキが芸術監督を歴任。中島みゆきの「夜会」、コクーン歌舞伎も誕生した。『ル・シネマ』では『髪結いの亭主』「トリコロール3部作」『花様年華』など映画史に残る作品が上映され、『ザ・ミュージアム』でも趣向を凝らした展覧会が開催されてきた。
コンサート、オペラ、バレエ用のホール『オーチャードホール』も、休業の予定はないが、これまで国内外から多くの演奏家や表現者を迎えてきた。
『Bunkamura』といえば、フランスの香りが漂う場所でもある。建築デザインは、フランス人建築家ジャン=ミシェル・ヴィルモット。地下にあるカフェ『ドゥ マゴ パリ』はパリの老舗カフェ『ドゥ マゴ』初の海外業務提携店。そして『ル・シネマ』では多くのフランス映画が上映されてきた。渋谷の地でフランスの文化を伝える存在としても親しまれてきたのだ。
『ザ・ミュージアム』休業直前の展覧会『マリー・ローランサンとモード』
休業する各施設は、最終日となる4月9日まで魅力あふれるコンテンツを発信し続ける。そのうちのひとつが『ザ・ミュージアム』で開催中の展覧会『マリー・ローランサンとモード』だ。
本展覧会の主役は1920年代に活躍したエコール・ド・パリの画家、マリー・ローランサン。しかし彼女の作品以外にもマリー・ローランサンと同じく1883年生まれのココ・シャネルの活躍や、社交会を中心にローランさんを取り巻く人々、バレエや芸術、女性向けファッションの変遷などが約90点もの資料とともに紹介されている。
女性的な美をひたすら追求したローランサンと、男性服の素材やスポーツウェアを女性服に取り入れたシャネル。マリー・ローランサンは、シャネルの依頼で肖像画を描いものの、受け取りを拒否されたというエピソードとともにその絵画が展示されている。
当時のパリには、フランス生まれの芸術家だけでなくピカソやマン・レイに代表されるような才能ある若者が世界中から集まっていた。彼らは芸術のジャンルを超えて、総合的芸術を共に作り上げた。ローランサンとシャネルはともにロシアバレエ「バレエ・リュス」に参加。表現の幅を広げることにつながった。
さらに展覧会は、女性の社会進出とともにファッションが簡素化したことにも注目。短いヘアスタイルやストレートなシルエットのドレスを纏った女性たちの姿からは、当時が現代につながるひとつの転換点だったことを、ファッションやモードの視点から示している。
肖像画受取拒否という逸話のあるローランサンとシャネル。展示会場の最後には、シャネルでデザイナーを務めたカール・ラガーフェルドがローランサンの色使いから着想を得たドレスが展示されている。本展覧会の大きな見どころのひとつだ。
『Bunkamura』のこれからは?
30年以上にわたって、アートや文化を生み出し、発信してきた『Bunkamura』。4月10日以降は、『オーチャードホール』以外にも東急線沿線や都内近郊の施設を活用して、『Bunkamura』としての企画が行われる予定だ。
「東急百貨店本館」の営業終了に続いて『Bunkamura』の休館にも、さまざまな思いが湧き上がる。休業が終わったのちに、またこの場所で新しいアートやカルチャーが生まれることを期待したい。
取材・撮影・文=野崎さおり