たばこを吸う人にも吸わない人にも配慮した昭和レトロな喫茶店
日本橋髙島屋新館の裏通りに建つビルの1階に店を構える『コーヒーハウス 羅苧豆』は、1983年に創業、街の再開発によって2014年に現在の地に移転した。
店に入るとアンティーク調の空間が広がっており、先客がたばこをくゆらせていた。「これぞ昭和!」といった雰囲気で、不思議と心が落ち着く。
店内は全席喫煙可能だが、11時から14時の間は禁煙となっている。「たばこを吸わない方でランチを楽しみに来てくださるお客さまも多いので、どなたも気持ちよくお過ごしいただけるように、お昼時だけたばこはご遠慮いただいています」とお話してくれたのは2代目を継ぐ劔持隆さん。
「喫煙なさる方は、それこそ食事の後に一服したいと思うんですが、嫌煙者の横で吸うのは気を遣うと思うので、あえて禁煙の時間を設けています」。
ところで、店名の『羅苧豆』はなんて読むのだろう? 隆さんにたずねると、漢字は当て字で「ローズ」と読むのだそう。
マスターである隆さんの父親が1983年にオープンした店は現在、隆さん、お母さまのかをるさん、お姉さまの幸子さんの3人で切り盛りしている。家族ならではのアットホームな感じがあって、とても居心地がいい。きっと仲のいい親子なんだろうな。
「マスターは店を移る時に体調を崩してしまって医者から働くのを止められてるんだけど、モーニングの時間だけ1人で店に出てるんですよ。『オレがやらなきゃ』って気概があるんでしょうね」と笑顔を見せる母、かをるさん。
「マスターが淹れるコーヒーは、すごくおいしいんです」と聞いて、「それならモーニングの時間にも来なくちゃ!」と、早くも『羅苧豆』ファンになっている筆者。ランチセットのコーヒーも食後に合うようにマスターがブレンドしているそうで、この後いただくのが楽しみだ。
ひと口食べて意外な味に驚く、ちょっと○○○なマカロニグラタン
店頭の立て看板に書かれていた「好みはありますが当店のマカロニグラタン、ハマる方多いです」という一文に興味をそそられ、今回はマカロニグラタンを注文。「好みはありますが」というフレーズも、めっちゃ気になる!
早速、マカロニグラタンをひと口。あれれ? 驚いたことに、ちょっぴりスパイシーな味つけだった。「好みはありますが」と前置きした理由は、この辛さのことだったのか!
ホワイトソース×ケチャップのやさしい味にピリッとしたアクセントが加わっており、筆者にとっては初めてのお味。う~ん、これはクセになりそう。辛さを増したい人は、卓上にあるタバスコをひと振りしていただくといいだろう。
「創業間もない頃、父がマカロニグラタンに隠し味であるスパイスを加えてみたところ意外と好評だったみたいで、お客さまのリクエストもあって辛いのが定番になりました」と隆さん。その隠し味は「誰でもできちゃうんで(笑)」ということで、ヒミツだそうです!
そして、忘れてはならない準主役。喫茶店のトーストって、なんっておいしんだろ~♪
隆さんによると、ホテルやレストランでも使われている有名なパンの卸専門店から食パンを仕入れているとのこと。
創業以来、家族一丸となって営んできたアットホームな喫茶店
『コーヒーハウス 羅苧豆』の歴史は、かをるさんの苦労とともにある。移転前の場所では戦後、マスターの父親が麻雀荘を経営していた。当時、マスターは会社勤めの営業マンで、かをるさんが子育てをしながら店を手伝っていた。
後にからだを壊して会社を退職したマスターは、大のお酒好きとあって麻雀荘を居酒屋にしようと言い出したが、かをるさんが猛反対。「からだや子どものことを考えて、昼間の商売にしよう」とマスターを説得し、喫茶店を始めることになった。
「麻雀荘時代は3人の子どもを育てながら夜遅くまで働いてたから、そりゃもう大変だったのよ。その後、隆がまだ幼稚園に通ってた頃に『羅苧豆』を始めたんで、しばらく仕事と子育ての両立は続いたけど、自分たちの店を持ったからにはがんばんなきゃ! っていう思いはあったのよね」と、かをるさんは笑顔で話す。
次第に常連客が増え、多い時は1日300人を超える客でにぎわい、あまりに忙しくて目が回る日々だったという。
また当時、アルバイトの女性の提案で「要望ノート」なるものを客席に回し、店に対する感想やメニューへのリクエストを書いてもらっていた。「お客さまにいいところをほめていただき、悪いところも教えていただいたおかげで、今があると思います」と、かをるさん。
その後、マスターが倒れて九死に一生を得たり、かをるさんが階段から落ちて動けなくなったりしたこともあるが、いざという時には隆さんをはじめ子どもたちが店を支えてきた。「いつもお客さまに喜んでいただけるように」、そんな想いで家族はつながっている。
初めて訪れた客でも親しみを込めて受け入れてくれる『コーヒーハウス 羅苧豆』。ピリ辛マカロニグラタンだけでなく、劔持家の人たちの温かさや力強さに魅力を感じてハマってしまう人は、この先も後を絶たないだろう。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=コバヤシヒロミ