片面カリカリ、片面もっちり!鉄板で焼き上げる、まさに「焼麺」
茹でた麺を鉄板にのせたそのとき、「本当に焼くんだ!」と思った。どうやら頭の片隅で「本当は焼かないんじゃないか」と思っていたらしい。ヘラで麺を丸くならした後はあまり触らず、ラードや水を掛けながら焼く。音がパチパチとしてきたら裏返して焼き色を確認する。
ここでは焼色のチェックのみ。裏返さず、そのまま蓋をして焼いていない方の面を蒸し焼きに。
ジュワーっという音がして、蓋の隙間から蒸気が上がる。なんだか屋台に来ているような雰囲気だ。目玉焼きと薄切りで長めの豚バラチャーシューも鉄板で焼かれていて、チャーシューの焼けるいい匂いが漂い始めた。麺を焼き始めから大体5分。そろそろ焼き終わるようだ。
スープも「濃厚ベジポタ」と変わり種。とろみの秘密は…
「このスープ、塩をちょっとかけるだけで十分おいしい野菜ポタージュなんです」と店長の浦澤さん。豚骨と野菜のみ、塩も入れずに圧力鍋で6時間炊き、少し冷ましてから豚骨の骨を砕く。スープ作りは、焦がさないようにするのがポイントだが、とはいえできるだけ火を入れるという繊細な作業で、野菜から出る水分を考慮した上での水分の調整が難しい。うまく作れていれば骨は簡単に細かく砕け、これが独特のとろみの元となる。
丼からはみ出したインパクト大のビジュアル!「食の心得」どおりに味わってみる
ふわっとスープの香りがした。ニンニクのパンチのあるような香りではなく、野菜を煮たやさしく甘い匂いに食欲がそそられる。しかし目の前にどんと置かれた丼は、なかなかインパクトのある面構えだ。さて、どこから食べようか?と考えていると、カウンターに貼ってある「食の心得」に気がついた。
最初は麺をかき混ぜる前にスープを味わうとのこと。ネギとメンマの間あたりからそーっとひとすくいしてひと口。どろりとしたスープは濃厚そのもの!豚骨風味で野菜の旨味たっぷりのポタージュは、思ったよりも脂が少なめ。なんとなくラーメンスープらしくない感じだ。骨粉によるとろみのほかに、ざらりとした食感とつぶつぶした口当たりがある。これは煮込まれて溶けきったじゃがいも。自然な甘みとポタポタ感も魅力だ。
麺とスープを混ぜると香ばしさがスープに移り、明らかに味が変化した。コクが増し、豚骨の強さが感じられ、いよいよ「ラーメンのスープ」になったという感じだ。焼麺をスープにたっぷり浸してひと口。カリッとを通り越してボリっと頬張ると、焼麺の香ばしさで口の中はいっぱいになった。その次に来たのは半面は蒸し焼きだからこそのモチッと感だ。この部分がスープを持ち上げてくれるので、ぽってりと甘めのスープと異なる食感の麺が口の中で混じり合う。食べ進めるとスープを吸った焦げの部分は柔らかくなり濃厚さを増して、ますます豚骨の風味を強く感じるようになった。
チャーシューは噛むと口の中でほろりとほどける柔らかさ。豚バラなのに脂っこさがなくシンプルなおいしさだ。「作り方は秘密」とのこと。
味変に鰹節やニンニクなど多数用意。さらなる味の変化を楽しむ
席には鰹節と鯖節の入ったすり鉢が1人前ずつ用意されている。焼麺を待つ間に擦っておいて、途中で味変させるのも楽しみだ。
目玉焼きの黄身のまろやかさや香ばしくなったスープが鰹節と鯖節の魚介系が入ることによってさらに複雑な味に変化した。このほかに、ニンニク、紅生姜、一味など、味変のアイテムがいろいろと用意されているのでぜひ試してみよう。
初代の味を守り続ける。2代目としての思い
初代店主が作り上げた焼麺の味に惚れ込み、この店に入ったという2代目の浦澤さん。初代の元で半年ほど修業し、2代目の店主となった。細かい作り方を教えてくれた訳ではなく、放り出されたような形での店主交代だったという。店を任された当初、初代はしょっちゅう顔を出し、その度にダメ出しをして帰る。それでも浦澤さんが「天才」と語る初代の味に近づくため、努力し続ける日々が続いた。麺を焼くことは徐々に慣れていったが、スープ作りはとても難しく、安定するのに2〜3年かかったという。
ようやく味について文句を言われなくなった矢先、初代は不慮の事故で若くして亡くなってしまう。悲しみの中で「自分がこの味を守っていかなければ」と思ったという浦澤さん。今後の目標は、「初代の味を継承し続け、より多くの人にこのおいしさを味わってもらうこと」と話した。
初代が作った独特な世界観に戸惑う人もいるかもしれない。しかし一度焼いた麺とスープの絶妙なマッチングを味わえば、きっとその魅力が伝わるだろう。これからも今まで以上に長く愛される「ちょっと変わったラーメン」を作り続けてほしい。
取材・⽂・撮影=ミヤウチマサコ