東京の駅までカニだらけになったきっかけはなんだろう

渋谷駅西口から南改札に向かうルート。両側にカニポスターがみっしりと貼られ、私は個人的に「カニカニロード」と呼んでいる。
渋谷駅西口から南改札に向かうルート。両側にカニポスターがみっしりと貼られ、私は個人的に「カニカニロード」と呼んでいる。
ポスターには、それぞれ工夫を凝らしたキャッチコピーが添えられている。
ポスターには、それぞれ工夫を凝らしたキャッチコピーが添えられている。

きっかけは2015年、北陸新幹線の長野~金沢間が開業したことであろう。東京から金沢まで新幹線一本で行けるようになり、JR東日本では2017年から「かにを食べに北陸へ。」と銘打って、旅行商品の提案や臨時列車増便などのキャンペーンを行ってきた。

これにより、カニ宣伝が大々的に展開されるようになったのだ。しかし、年々そのカニ熱がエスカレートしているようにも思える。実態はどうなっているのか、今季の関東各駅を観察してみた。

駅員さん渾身のカニ工作の数々

渋谷駅南改札を出てすぐのところにある、ツアーパンフレットが納められたラック。目立たないところにあるが、職人技が光る。
渋谷駅南改札を出てすぐのところにある、ツアーパンフレットが納められたラック。目立たないところにあるが、職人技が光る。

まず、駅員さんの手作り感溢れる工作を見てみよう。渋谷駅南口付近には、巨大なカニの折り紙が飾られている。誰が折ったのか、そもそもこのオレンジの巨大折り紙はどこで入手したのか。よく見れば福井のカニは越前ガニを表す黄色のブランドタグを付けており、大変芸が細かい。

蓮田駅構内の巨大ポスター。新幹線とカニ料理の配置にセンスが感じられる。
蓮田駅構内の巨大ポスター。新幹線とカニ料理の配置にセンスが感じられる。

ポスターと一体化している工作もある。蓮田駅構内には「かにを食べに北陸へ。」キャンペーン5周年を示す巨大ポスターが掲示されているが、カニ部分は立体の工作となっている。

拡大してみると、カニは円筒型ボディの立体工作である。
拡大してみると、カニは円筒型ボディの立体工作である。

こちらも一匹一匹表情が異なっており、こだわりを感じさせる。

御茶ノ水駅の壁面に散りばめられたカニの集団。中央のカニ含め、数体が紙工作である。
御茶ノ水駅の壁面に散りばめられたカニの集団。中央のカニ含め、数体が紙工作である。
中央部のカニが手(ハサミ?)にする切符も、設定が凝っている。
中央部のカニが手(ハサミ?)にする切符も、設定が凝っている。

御茶ノ水駅の立体ガニは、「御茶ノ水→かにかにかにかに」駅までの乗車券を持っていて、カニがカニを食べに行くという業の深さを感じさせる工作となっている。

もし「JR東日本カニ工作展」が開かれたならば金賞をあげたいのが、宇都宮駅構内のカニ広告である。

宇都宮駅改札内のペットボトルキャップアート。拡大してみると、おなじみの飲料のキャップであることがわかる。
宇都宮駅改札内のペットボトルキャップアート。拡大してみると、おなじみの飲料のキャップであることがわかる。

なんとペットボトルのキャップでできていて、横にはこたつ猫も添えられている。

横に添えられているこたつの上にも発泡スチロール製のカニが。
横に添えられているこたつの上にも発泡スチロール製のカニが。

涙ぐましいほどのカニ熱が、ここにある。

ポスターを衝撃的な絵柄にし、人目を惹こうとする駅もある。先ほどの御茶ノ水駅では、頭部がカニになった駅員が「あれ、気づいたらカニになってる」と語る。

御茶ノ水駅にいるのだろうか、カニ駅員。応対されたらちょっと怖い。
御茶ノ水駅にいるのだろうか、カニ駅員。応対されたらちょっと怖い。

カニになってしまっては、カニを食べに行けないのではないだろうか。

高円寺駅では人面ガニが「食べたくなりませんか?北陸でおいしいカニが待ってます。」と笑いかけてくる。

高円寺駅の人面ガニ。この人は誰なのだろう。
高円寺駅の人面ガニ。この人は誰なのだろう。

このポスターを見て「カニ食べた~い!」となる人がいたら、今度じっくり話を聞いてみたい。

集合することでカニのインパクトは加速する

高円寺駅の階段では、このように人面ガニポスターと複数カニが交互に貼られている。
高円寺駅の階段では、このように人面ガニポスターと複数カニが交互に貼られている。

ところでこの高円寺駅でも見られるのが、「複数のカニを集合させる」タイプの宣伝である。カニを多数登場させることで、迫力と訴求力を増そうという目論見があるのだろうか。一方で宣伝がエスカレートしやすいのも、この「複数ガニ」タイプなのである。

駒込駅の階段に散りばめられた複数ガニはまだかわいいほうだ。

駒込駅のホームに降りる階段。よく見れば一枚一枚のカニはラミネート加工されており、手が込んでいる。
駒込駅のホームに降りる階段。よく見れば一枚一枚のカニはラミネート加工されており、手が込んでいる。

大宮駅では、駅員窓口にまでカニが進出してきている。

大宮駅の駅員室がカニに侵食され始めている。
大宮駅の駅員室がカニに侵食され始めている。

御徒町駅のカニは、一見かわいいカニのキャラクターに見せかけて……。

御徒町駅のカニ広告。一見かわいらしいが……。
御徒町駅のカニ広告。一見かわいらしいが……。
拡大してみるとカニの集合で、ちょっと怖い。
拡大してみるとカニの集合で、ちょっと怖い。

近寄ってみれば複数ガニで成り立っているという、歌川国芳の「寄せ絵」にも似た気持ち悪さがある。

最もエスカレートした複数ガニ、それは中野駅で見ることができる。

中野駅南口を入ると、まずは控えめなカニが。
中野駅南口を入ると、まずは控えめなカニが。
5・6番線ホームに上がるエスカレーター乗り口。不穏な空気が漂い始める。
5・6番線ホームに上がるエスカレーター乗り口。不穏な空気が漂い始める。

改札を入ったところから不穏な空気は漂っているのだが、5・6番線ホームに上がるエスカレーターを上ると……。

壁一面のカニの大洪水。何匹いるか数えてみたいところだが、エスカレーターは無情にも進む。
壁一面のカニの大洪水。何匹いるか数えてみたいところだが、エスカレーターは無情にも進む。

「爆誕」と書かれたポスターから、おびただしい数のカニ、カニ、カニ。甲殻類アレルギーの人は、ここを無事に通過できるのだろうかと心配になる。

カニのシーズンは3月までだ。しばらくは駅におけるカニカニフィーバーは続くと思われるが、このカニ熱がどこまでエスカレートするのか、見守りたいと思う。

絵・写真・文=オギリマサホ