角が無くなったコの字型のカウンターテーブル、酒で磨かれていいツヤを放つ四人掛けテーブル。そこで歴史を共にし、それを見ればその酒場の魅力が解るのが〝酒場のテーブル〟なのだ。
明治38年(1905年)創業の神田の超老舗酒場『みますや』のテーブルもまた、名作のひとつだ。コロナ禍どころか、戦火や大地震だって潜り抜けてきたこの酒場は、もはや東京の観光名所になってもおかしくはない。そんな酒場にあるテーブルがこれだ。
木目の並び、バランスのよい節(フシ)の配置に、「どうやったらこんなんなるの?」と疑問に思う謎の傷跡は、見ているだけで楽しい。それらを酒で磨きに磨き上げた、まるで琥珀のような表面は、それこそ100年だって触っていられるだろう。
テーブルが目的であれば、もちろん料理もテーブルに合わせるのが流儀。ここの『あなご煮付』見てごらんなさい、写真からだって甘じょっぱい香りが漂ってきそうだ。箸を入れると、ホロホロとこぼれそうな柔らかさが、箸先から伝わってくるのが分かる。そのまま口に入れると、長い歴史を彷彿とさせる滋味深き甘辛さが舌の上で溶ける──ウマいッ!!
ここへ来たら絶対に外せない『さくらさしみ』。赤身と霜降りがあるが、おすすめは赤身だ。うるうると艶めく赤い馬肉が、円状に美しく輝いている。それを一切れ、生姜を溶いた醤油にチョンと付けていただく。馬肉のねっとりとした歯触りに、染み出てくるような旨味がたまらない。そこへビールをキューッ……嗚呼、なんて幸せなんだと、またテーブルを撫でる。
酒場にあるテーブルは、ただ料理を置くだけのものではない。舌だけではなく、目にもおいしく楽しませてくれる、その酒場の魅力を知る上で必要不可欠なものなのだ。
そろそろ酒もいただけそうなことだし、そのはじまりに100年酒場のテーブルからというのもいかがだろうか。
取材・文・撮影=味論(酒場ナビ)