2020年6月26日土曜日。
人気のない交通新聞社にうごめく影があった。担当編集・佐藤七海である。
今日は前日から冷やしてある酒を取り出し、クーラーボックスに詰めて設営するだけだ。
4日間の激闘は、確かに佐藤を成長させていた……。
登場人物紹介
泡ビールさん(上):酒飲むのも、飲まれるのも得意な飲みにケーション世代。散歩の達人本誌では、ほぼ酒場ページを担当。かつては、ストリートでストロング系を飲む路酎にハマるも、今は日和って自宅で水割りが基本。
たい焼きさん(下):4日間も酒を飲んでいるだけで仕事になることを夢見た担当編集・佐藤七海。好物は350ml缶ビール、特にサッポロ黒ラベルに目がない。クラフトビールも大好物とあり、ストロング系で撃沈した2日目のリベンジなるか。
癖のあるビールとの相性が楽しみ
なにが?
いや、体調よ。3日目はあんこが押し出てくるぐらい辛かったって聞いたよ。
今日は大好きなビールだから大丈夫! おつまみはビールに合いそうなものをいろいろ集めましたよ。
寿司や鶏チャーシュー、餃子に燻製玉子まである!
特にクラフトビールは個性が違いそうだから、幅広いジャンルのつまみを集めてみました。
羊羹まであるよ。どのビールと合うのかなあ。
百花繚乱の味わいのなか、オール3最強説
まずは各社王道のビールから。
PBやストロング系と違い、安心感のあるビジュアルだ。一番搾りはコクがあり麦のふくよかな甘みがある。
私としてはコクと甘みが少し重たく感じるので、黒ラベルの方が好み。喉ごし、ホップの香り、苦味のバランスがいい。
何かひとつの味わいが突出しているより、オール3みたいなビールがおいしいと感じるのかも。
スーパードライはその2本と比べ、サラサラとした喉越し。
キレ味があるから、餃子と相性がいい。揚げ物にも合いそう。
サクラビールは、大正2年(1913)に誕生したビールを現代風の味にアレンジしたんですって。
色が若干濃いので苦味とコクが強いと思いきや、意外とあっさりだ。
エビスの吟醸は通常のエビスビールより味に重厚感がなくて、スルスルと飲める。
雑味が無く品のある甘みですね。
お寿司と合うよ、これ! 日本酒でいう淡麗な味わいってことか。雫の方は、後味にハチミツのような甘みが。
セブン&アイグループの限定発売ですけど、私はこの系統ちょっと苦手かも。
エビスといえば「鯛」なのに、辛口評価だね。
普通のエビスビールは好きですよ!
長期熟成の甘みがウリの至福の余韻は、その甘みがやや重く感じるなあ。
ゴクゴクより、ちびちびやりたいビールですね。SORACHI1984はウッディな香りがする!
木というより、レモングラスの香りじゃない? ホップの香りが華やかだから、バジルなど香草を使った料理に合いそう。
あー、この爽やかな喉越し、いかにも南国のビールね。
オリオンは軽やかな味わいで暑い日もグビグビいけるよね。余談だけど西武ライオンズの本拠地のメットライフドームでは、オリオンの生が飲めるらしいよ。
埼玉なのに沖縄?
主砲の山川穂高選手が沖縄出身で、オリオンのCMにも起用されてるからじゃないかな。
プレモルの〈香る〉エールはフローラルな香りがします。
泡立ちもいいよね。プレモルの後にハイネケン飲むと、味がすっきりし過ぎてて第三のビールのような……。
かたや、ギネスはロースト感の主張がすごい。コーヒー味の羊羹と合せてみてください。
うわっ、めっちゃ相思相愛! ギネスの苦み×クリーミィな泡、コーヒーの苦み×羊羹の甘みって味の構成が似てるからかな。
オリオンは他にも2本用意しました。
オリオンを「おかわりくん」しちゃいますか。75BEERは普通のオリオンより、柑橘の香りが効いてるし、ビールらしい苦味もちゃんとある。うまい!
夏いちばんも、普通のオリオンと違って麦の甘みを感じさせるリッチテイスト。こんなオリオンもあるんですね。
チェコのザーツホップを一部使ってるらしいけど、香りが爽やかだよね。
期間限定のアサヒ ザ・ゴールドのホップもザーツ産です。こっちも香り爽やかながら、コクもしっかりあります。
プレモルなんかもザーツホップだから、良い香りを生むホップだよね。清澄みは通常の一番搾りと違い、味が軽やか。麹のような不思議なフレーバーも感じる。
(と、ここで試飲ルームの扉がガチャリ)
たこ焼きさん!
援軍に来ましたよ。
たこ焼きさん:前職がたこ焼き職人という経歴を持つライター・高橋健太。「タダ酒が飲める」という甘言に乗せられノコノコやってきたところで、いきなりたこ焼きヘッドを被せられた。好きな酒はウイスキーと日本酒。戦友を励ますため、4日目もふらふらと酒を飲みにやってきた。
マジ助かる~! まるまるクラフトビールが残ってますから!
イヨッ! 世界一男前のソース顔!
変態的個性の味わいにラスト試飲が大盛り上がり
4日間の大トリはクラフトビールですよ~。
苦しいけど、楽しみ。
なんか雷電以外は、缶とビール自体の色味が似てるね。
コエドはレギュラーで全6種あるけど、伽羅が一番好き。
マスカットのようにフルーティで、柑橘も感じさせるアロマですね。私もコエドはこれと毬花の二択かな。
黄桜のラッキーキャットは、飲むと舌の両側がピリピリする。
原材料に山椒が入ってるからじゃない? ファーストインパクトは強いんだけど、余韻はあまり残らないんですね……。
盛岡のブルワリー、ベアレンのレッドラガーは対照的にコクと甘みが濃厚。
かすかに柑橘系の香りも効いてます。
雷電は長野県東御市にある有名ブルワリー、オラホのビール。
IPAのわりに苦みはきつくなくて飲みやすい……けどセロリみたいな後味!
確かにフキの煮物の後味のような。
私には、オートバックスに入店した時のような匂いに感じました……。
バッグミラーに吊り下げる、葉っぱ型の芳香剤の香りみたいな?
名古屋のブルワリー、Yマーケットの2本(写真左の2本)は缶デザインからして個性的ですね。
ペールエールの方なんて、エフェクターみたいなつまみが描かれてる。
味はピングレとかグァバとかパッションフルーツを彷彿とさせます。
こっちのクインチランナーズは「ゆかり」みたいな後味がすると思ったら、原材料にシソが使われてるよ! このブルワリー、攻めてるなあ。
このゴーヤーのビールの方が、もっと攻めてるって! 後味がまんまゴーヤーだわ。
寿司の玉子焼きを一緒に食べたら、口内ゴーヤーチャンプルーになるんじゃない?
どれどれ……ふむ……全然ならないね!
こっちの東京ホワイトは柑橘のような清涼感があるから、これで口直ししてください~。
いよいよあと5本でフィナーレです!
エベレストでいうなら、ヒラリーステップまで登ってきたぞおお!
壊れてきてる? ローソン限定の僕ビール君ビールは、最初はレモン、その後にハーブの香りが来る。軽やかで飲みやすいし、さすがヤッホーブルーイング、うまくまとめてますね。
ぐわ~、このパンダのずいぶん甘いなぁ。不意を突かれた……。
ベリー系の甘さですね。賛否両論ありそうだけど、ネクタージュースが好きな人にはハマりそう。
コエドの限定醸造、梅雨セゾンはとても複雑な味がします。
スパイシーでもあるし、果実味もある。ドライな味わいもあるなあ。
埼玉県越生の梅を使っているところに、コエドの地元愛を感じるね。
おろちは、米粉パンみたいないい香り!
島根のブルワリーが、地元酒米などを使って醸してます。
魚介も合うけど、燻製玉子も合うよ。薫香をかぐだけで、おろちのつまみになる。
こっちのビアギークデザートの匂いもかいでみてよ。
すんげ~バニラ!
ココアのようなロースト感、メープルシロップの苦みや甘みを感じます。
格好良く言えばそうだけど、有り体に言えば養命酒みたい!
本日のまとめ
おつかれさまでした!
4日間で計140本オーバー?
ですね。中性脂肪値が相当高くなってそう。
最後、クラフトビールのラッシュはなかなか効いたよ。
クラフトビールってアルコール度数が高いの多いから。ビアギークデザートは度数11%、おろちに至っては11.5%!
2日目に飲んだストロング系のマグナム シークヮーサーとほぼ同じ度数だよ。
ストロング系の名前はしばらく聞きたくない(笑)。クラフトビールは醸造家たちの凝りに凝った味わいに賛否両論あったけど、そのぶん試飲談議が盛り上がりましたね。
小ロットで作りやすい瓶ビールだけじゃなく、探せばサンゴー缶にも個性派クラフトビールがあるんだね。
もはやゴーヤ汁といってもいいゴーヤードライ、シソ風味のクインチランナーズ。
雷電の「オートバックスみたいな匂い」は、今回の試飲の名言賞あげたい。
酔っ払いの戯れ言として、ご容赦ください……。
通常のビールの方は、オール3がいいって話になったよね。
クラフトビールでは冒険したいけど、普通のビールは「いつものあの味」を求めてるんじゃないですか。
ギネスは羊羹、エビス吟醸は寿司など、ペアリングの妙も収穫があった。
試飲会の打ち上げは、どうします?
まだ飲む気なの?
今日は途中参戦ですから(笑)
4日間で飲んだサンゴ―缶140本以上。つまり、約50リットル。
会場の明かりを落とす直前、片づけを終えた3人は無言で被り物を置いた。
もう、たこ焼きさんも、たい焼きさんも、泡ビールさんもいない。
二日酔い必至の懲りない3人は、すっかり夜の明かりがきらめく街へと消えていった。
*掲載されている商品の表示価格は編集部調べ(2020年6月時点)です。期間限定の商品など、販売終了となっている可能性がありますので、ご了承ください。
文・構成=鈴木健太 撮影=佐藤七海
たい焼きさん、大丈夫かい?