石油トレーダーが銭湯をやるということ
2016年に3代目としてこの銭湯を継いだ伊藤さん。もともとは石油のトレーダーというから大きな転身だが、高齢の両親にとって銭湯の仕事が年々厳しくなっていくのを見ていたため、「自分が代わろう」と思ったのは自然な流れだったという。
どの仕事でも「お客さんに何かを売る」という共通項があり、「売るものが石油から、清潔で気持ちのいい銭湯という空間に変わっただけ」と伊藤さんは話す。目標のために、どんなことが必要なのか。やれることを一つひとつ検討し、実行に移してきた4年間だった。
最初に手をかけたのは湯船とタイルの床だ。先代の頃はなかなか手が回らなくなっており、輪染みができていたという。「とにかく少しずつでもきれいにしていこう」と思い、1年半かけてすべてのタイルを磨き上げた。
お風呂の温度はその日に合わせて
細かい気配りは清潔さだけにとどまらない。
「気持ちいいと思うお湯の温度って、季節、男湯・女湯、その日の気温などによっても違うと思うんですよ」
お湯を張ってから、その日のお湯の温度を最終的に調整する。
小さいながらも、こういった「気持ちよくお湯に浸かってほしい」という心遣い、そして水質と温度の安定した深い井戸から汲み上げていることが、肌触りがいいと評判のお湯の秘密かもしれない。
風呂の中と外、両方の富士山を楽しむ
浴室には、悠然とした富士山が見事なペンキ絵で描かれている。有名な銭湯絵師・丸山氏によるものだ。しかし、強い湿度にさらされる銭湯絵の寿命は約2年といわれており、そろそろ書き換えの時期が迫っている。「丸山ブルー」といわれる独特の青がとても美しいので、体感するならお早めに。
「丸山さんの絵を残しておきたくて、ここにも描いてもらいました」
待ち合いは湿気の心配がないので、これからもずっと美しい富士山を見ることができる。銭湯の中と外、二つも富士山を楽しめる、とても贅沢な空間なのだ。
モダンとレトロがいいバランスで
モダンなしつらえが多い中、ところどころに見られるレトロ感や、牛乳やビールに混じって売られるクラフトビール。このあたりのバランス感が、伊藤さんならではの絶妙なセンスだと思う。
「まだまだ手を入れたいところがたくさんあります」と話す伊藤さん。
現状維持ではなく、これからがもっと楽しみな銭湯だ。
『第二宝湯』店舗詳細
取材・⽂・撮影=ミヤウチマサコ