中島歩 Nakajima Ayumu

1988年、宮城県出身。モデルとして活動をスタートした後、美輪明宏が主演・演出を務めた舞台『黒蜥蜴』で俳優デビュー。連続テレビ小説『花子とアン』にレギュラー出演後、初主演映画『グッド・ストライプス』(2015年)で第7回TAMA映画賞最優秀新進男優賞を受賞。さらに映画『いとみち』『偶然と想像』(2022年)で第35回高崎映画祭最優秀助演俳優賞を受賞するなど、俳優として広く注目される。近年も映画『四月になれば彼女は』(2024年)、『劇場版 アナウンサーたちの戦争』(2024年8月公開予定)、『ナミビアの砂漠』(2024年9月6日公開予定)、ドラマ『不適切にもほどがある!』(TBS/2024年)など、多くの話題作に出演。

普段とは違う角度から見えた、人と街

——前作は歴史上の人物たちが食べていたという料理の再現が魅力的でしたが、今作の見どころは?

中島 今回は、やっぱりいろいろなロケーションが出てくるところですね。新緑のいい季節に、天候にも恵まれた中で撮れたので、その高揚感が映っているだろうし。そのひとつひとつにリアクションしているジュンとヨシヲの新しい一面が見られると思います。「音」で聞くと共に、「画」を見ているのがドラマだから、「画」が魅力的であればよりドラマも魅力的になると僕は信じているので。

——実際の高揚感が映っているんですね。

中島 高揚感、ありましたね。いろいろな面白いところに連れて行ってもらったので。知らない場所だったり、気になっていた場所だったりしたので、純粋に楽しめました。

——『さんたつ』読者にとっても、そこは魅力的に映りそうです。「気になっていた場所」というと?

中島 三鷹の『国立天文台』は、何度かあの辺りを通りかかっていつか行きたいなと思っていたので、行けてうれしかったです。歴史的な建造物があり、巨大な望遠鏡も見せてもらい、研究員の方の説明も聞けて。

三鷹の『国立天文台』を見学するジュンとヨシヲ。(C)BS松竹東急/松竹撮影所
三鷹の『国立天文台』を見学するジュンとヨシヲ。(C)BS松竹東急/松竹撮影所

中島 それから、「神田川クルーズ」。普段東京で暮らしていてもなかなか乗船する機会がないので、面白かったですね。御茶ノ水、秋葉原の辺りで橋や電車が交錯する感じとか、いま歩いている浅草橋から両国の辺りも屋形船に乗りたくなりましたし。

クルーズ船に乗るジュンとヨシヲ。(C)BS松竹東急/松竹撮影所
クルーズ船に乗るジュンとヨシヲ。(C)BS松竹東急/松竹撮影所

——今は橋の上から同じ風景を見ていますが、川から見た景色はいかがでしたか?

中島 川から建物を見たときに、仕事の休憩中でタバコを吸っている人が視界に入って——。そういう、普段見えない角度から人も街も見えて、楽しかったです。

ドラマの撮影では川から見ていた景色を、浅草橋の上から見つめる中島さん。
ドラマの撮影では川から見ていた景色を、浅草橋の上から見つめる中島さん。

——普段とは違う街の見方ですね。

中島 日本橋を出発して、水道橋で一気に曲がるんですけど、「そうか、ここから曲がるんだな」って、自分の地理感覚とは違う感覚がして。いかに普段は、電車の路線図の地理感覚で東京を捉えていたかが分かりました。

「ドラマを観て、レシピ通り作って食べてみてほしい」

浅草橋から柳橋へ通じる歩道には柳の並木が。
浅草橋から柳橋へ通じる歩道には柳の並木が。

——「料理」はドラマ『À Table!』の肝だと思いますが、今作の料理はどんな風に感じましたか。

中島 「日本の家庭料理とは」ということを考えました。すごく丁寧に、手間をかけて作っていて。

今の料理は、いろんな省略の仕方がありますよね。調味料とか、だしパックとか、切れてる野菜とか、下ごしらえされているタケノコとか。そういう現代の「省略」は、今回のドラマで登場するような料理があるからこそというか、作った料理がそれらの元になる普遍的なものとして感じられましたね。それを純度高く作って、食べて、そこに驚きがあって。「こんなにおいしいんだ」という。だから、ドラマを観て、レシピ通り作って食べてみてほしい。そうすると、「今」食べているごはんもより楽しめるんじゃないかな。

ふたりが料理をしている光景も、このドラマの見どころだ。(C)BS松竹東急/松竹撮影所
ふたりが料理をしている光景も、このドラマの見どころだ。(C)BS松竹東急/松竹撮影所

——「省略」は普遍的なものがあってこそ、というのは興味深いお話ですね。

中島 すごく、親しみやすい味なんですよ。気取っていなくて、奇をてらったこともしていない。

ひとつ印象的だったのが、揚げ出し豆腐か何かの煮物を食べているときに、「驚くほど旨い」というものじゃなくて、「普通に旨い」くらいの感じなのに、「あったらいいな」というか、「食卓にこれがあることですごく豊かになるな」という一品があって。それは市川(実日子)さんとも共感できて、よく覚えてます。

「ヨシヲは親近感があるなと思いました。恥ずかしいくらい」

神田川に架かる最後の橋、柳橋。奥に広がるのは隅田川だ。
神田川に架かる最後の橋、柳橋。奥に広がるのは隅田川だ。

——ドラマ『À Table!』の続編が決定して、率直なお気持ちはいかがでしたか?

中島 うれしかったですね。前作が好評だったからこそ続編を作れる、ということなので。ドラマ自体、ファジーな要素も多い、あんまりない作り方で、セリフもそんなに細かく決められていない。ゆとりのある部分が多い中で「ああでもない、こうでもない」と作り上げていって、それがうまくまとまったんだなと受け止められました。

——ドラマを見ていると、おふたり(ジュン&ヨシヲ)の掛け合いなど、すごく自然体に映りました。

中島 それは自分でも思いました。これだけ肩の力が抜けた芝居を観られるのはレアだな、と。芝居のスタイルとしてもある種、新しいんじゃないかなって。

——前作を観ていて、台本とアドリブのバランスがどう構成されているのか気になっていました。

中島 料理をしているシーンや食事の場面は、アドリブが含まれてます。本当に、僕自身が思ったことを言っている。ヨシヲだったらこんなことを言うだろうなと一応気を付けつつ、のびのび演じて良かったんだなというのは、振り返ってみた感想です。

——ヨシヲを演じる上で、どんな人物像として描いていましたか?

中島 (ドラマの)監督からは、自分に引き寄せて演じてほしいと言われていました。それは、普段から、どんなにかけ離れた役でもやっていることなんですけど、それにしてもヨシヲは親近感があるなと思いました。恥ずかしいくらい。

前作で、「ヨシヲは自分の機嫌を自分で取れる」みたいなジュンのナレーションがあったのですが、確かに自分もそうかもという気がして。でも、そういうの言い当てられると恥ずかしいじゃないですか。「そんなことねえよ」とかちょっと思っちゃうけど、「でも、そうかな……」みたいな(笑)。

——納得感と、素直になれない気持ちと(笑)。

中島 それで、そんなに事件が起きないこのドラマで、どう演じていけばいいんだろうとすごく考えて。一つ屋根の下で暮らす夫婦はどう思って暮らしてるんだろうと想像したときに、「機嫌を取り合ってるんだな」と気づいたんです。自分も住みやすいように、相手にご機嫌でいてほしいじゃないですか。それじゃあ、目の前の市川さんを楽しませればいいんだ、って。その積み重ねで、ヨシヲという人物ができあがっていくんだろうなという風に捉えました。

(C)BS松竹東急/松竹撮影所
(C)BS松竹東急/松竹撮影所

——「ジュン」というより「市川さん」。

中島 そうですね。この作品に限らないことですけど、セリフがいくらあっても、目の前の人間にセリフを通して話しかけて、コミュニケーションを取っている、ということを心がけているので。

——ジュンとヨシヲの、ずっと見ていたくなるような掛け合いもこのドラマの魅力です。

中島 ジュンを演じる市川さんとの関係性というか、人間としての相性もあると思います。カメラが回っていなくても、ああいう風にしゃべっているし。もちろん、お互いに「見せよう」「面白くしよう」という意識はありましたけど、作り込んでという感じではなかったです。

たくさん散歩していくことで、自分にとっての「好きな場所」が分かった

両国橋の中ほどから見た、緑色のアーチが印象的な柳橋。橋の向こう側は神田川となり(手前は隅田川)、多くの屋形船が係留されている。
両国橋の中ほどから見た、緑色のアーチが印象的な柳橋。橋の向こう側は神田川となり(手前は隅田川)、多くの屋形船が係留されている。

——せっかくなので、中島さんの“散歩”についてもお伺いします。散歩、されますか?

中島 そうですね、最近は前ほど行けなくなっちゃんですけど——。

——一番散歩していたのはいつ頃ですか?

中島 大学時代かな。自由な時間ができて、自分だけでどこへも行けるようになって。まだGoogle Mapもそんなに使えない頃だったので、文庫本の東京のマップを持って歩いてました。それまで、そんなに地元から出るタイプじゃなかったので、自分の中で「東京」にいくつもの驚きがあって、そのいちいちに感動してたな。

——たとえば、どういったところに感動してましたか。

中島 生活が見える瞬間、ですかね。その家のつくりとか、ここ長屋だったなとか、路地が細いこととか、入り組んでるとより生活が見えて面白いじゃないですか。ここは気持ちいい場所だな、みたいな。その頃に散歩をして好きだと思えた場所に今住んでいるので、いい経験だったな、と。今はそんなに時間を作れなかったりするので、あの頃、いろんなところを歩いておいて良かったですね。フィールドワークをしていた感じでした。

歩き続けているうちに、自分にとっての「好きな場所」「そうでもない場所」が分かるようになってくるんですよね。それは、大事な過程だった気がします。

——基準が明確になっていった。

中島 そうです。あと、夏の夕暮れ時から荒川を下り始めて、明け方に新木場の海のほうまで歩くということを一晩かけてやって、それが超~面白かったですね。最後、荒川土手にカニがわさわさ出てきて(笑)。

歩くにつれて、住宅地から工場、コンテナ、と景色が変わっていき、忘れがたい経験でした。青春でしたね、あれは。

——東京をいろいろ回っているときに、観光地に行ったりはしなかったですか?

中島 いやー、しなかったですね。名物を見に行くというよりは、アンダーグラウンドに行く、みたいな感じでした。その頃、写真をよく撮っていたんですけど、撮る対象も本当に何気ない瞬間を切り取ることが多かったです。

今作では、ジュンとヨシヲは東京タワーの外階段を上る。(C)BS松竹東急/松竹撮影所
今作では、ジュンとヨシヲは東京タワーの外階段を上る。(C)BS松竹東急/松竹撮影所

——中島さんにとって、「東京」はどんな場所ですか?

中島 やっぱり都会ですよね。大都会。びっちり家が詰まっていて。昔よく中央線に乗って、相模湖に釣りをしに行っていたんですけど、この辺まで来てやっと家の並びが薄くなってくるんだ、というか、ここまで来ないと薄くならないの?って(笑)。

最近、「東京」について考えるんですよね。ストレスフルだなと思うところもあるし、そこに面白みも感じるし、だから面白いお店もいっぱいあったりするんですけど——なんというか、「もっと静かさと喧騒のコントラストをくれよ」と思うことがあって。

そういう、東京の魅力とストレスフルな部分は表裏一体で、極端な例ですけど、新宿のゴールデン街は魅力的な場所だけど、住みたいかと言ったらまた違ったり。

僕はずっと、近くに公園があり、窓から自然が見えるところに住んでるんですけど、ともすれば、人のいないほう、いないほうに行きがちかもしれないですね。

——ヨシヲっぽい一面がうかがえたところで、最後にドラマで注目してほしいことがあれば、教えてください。

中島 ドラマの中で「時間」についてすごく話しています。ドラマで描かれている僕たち夫婦の日常はミクロな世界なんですけど、観念的というか、広い視点の考え方も盛り込まれていて。説明しすぎるドラマじゃない分、おのおのの感じ方で自由に受け取ってもらいたいですね。

静けさのある、観ていて落ち着く時間が流れるドラマなので、そこも魅力だと思います。
あとは、単純に料理おいしそうだなでもいいし、散歩楽しそうだな、でも。
見応えのある作品になった自信があるので、ぜひご覧ください!

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ドラマ『À Table!~ノスタルジックな休日~』

(C)BS松竹東急/松竹撮影所
(C)BS松竹東急/松竹撮影所
(C)BS松竹東急/松竹撮影所
(C)BS松竹東急/松竹撮影所

吉祥寺駅から徒歩20分、海外に住む親戚の家に安く住まわせてもらっている夫婦(ジュン&ヨシヲ)が、祖母や母親たちの読んでいた『おそうざい十二ヵ月』『おそうざいふう外国料理』(暮しの手帖社刊)のレシピに基づいた懐かしい料理を作っていく、穏やかな日常を描いたドラマ。時の流れや季節を意識した、あたたかくてやさしい物語。

東京の中でひっそりと街角にたたずむ歴史ある場所、ノスタルジックでかわいらしい場所を発見できる、“ドラマ”と“ドキュメンタリー”を融合したような“東京案内”も魅力のひとつ。前作からおなじみの善福寺公園はもちろん、『国立天文台』や『日本民藝館』を訪れ、さらには東京タワーの外階段を上り、神田川クルーズを体験するなど、ジュンとヨシヲはさまざまな角度から東京を捉える。

歴史上の人物が食べていた料理のレシピをテーマにした前作『À Table!~歴史のレシピを作ってたべる~』(2023年1月クール放送)は、第39回ATP賞テレビグランプリ ドラマ部門の奨励賞を受賞。

【放送日時】2024年7月3日(水)23:00 放送スタート(全13話/各話30分)
【出演】市川実日子(主演)、中島歩 ほか

取材・構成=阿部修作(さんたつ編集部) 撮影=オカダタカオ
スタイリスト=上野健太郎 ヘアメイク=小林雄美
シャツ2万8600円/marka、パンツ3万7400円/MARKAWARE(PARKING TEL:03-6412-8217) 、その他スタイリスト私物