銀座の片隅に、青森の食材を使ったラーメン店
銀座駅C8出口を出ると、そこは松屋通り。その昔、呉服屋松屋が創業した地にちなんでつけられた名だ。松屋通りは銀座3丁目と4丁目の間で、行き交う人は観光客が多い。その道を挟んだ目の前に、『らーめん一郎』がある。
階段を降りると、ちょうど海外から観光がてらラーメンを食べに来た団体客で、カウンター席がいっぱいになったところだった。さらに次々と客が途切れることなく訪れ、席が空くのを待っている。
店主は、長谷川一郎さん。店名はそのまま彼の名だ。もともとそば屋やイタリアンなど、さまざまな飲食店を営んできて、ある時、ラーメン職人と知り合ったのをきっかけにラーメン店を開業することになる。
「たまたま店の関係者に青森出身者が何人かいたから、青森の食材を使ったラーメンにしようってことになったんです」。そうして2016年12月12日、銀座に『らーめん一郎』を開業した。
オープンから6年経ち、味の変化もあるようだ。「オープン当時は味が上品すぎだったんです」。食材はほぼ変わってないが、調理方法や醤油の種類を変えた。出汁にはトマトを追加し、以前より旨味が増した。
「あと、以前は清湯だったんですが、火力をちょっと強くして鶏を煮出して、今は白湯と清湯の中間のスープかな。鶏の味もよく出るようになったと思います」と長谷川さん。醤油や塩、しじみ、カレーらーめんと、すべてのらーめんに共通のスープを使っているという。どれを食べようか悩むところだが、どれを食べても間違いなさそうだ。
「日本一旨い」と言われる十三湖のしじみ
魅力的なメニューのなかから今回はしじみらーめん900円をいただくことに。十三湖の「日本一おいしい」と評判のしじみが、たっぷり投入されていく。
しじみらーめんの元ダレも開店当初からブラッシュアップされているそう。「塩の種類をちょっと変え、しょっつるを追加しています。そうすることで、しじみの旨味がより引き立つようになりましたね」。ラーメン作りの話もポツリポツリと語りながら、手際よくラーメンを仕上げていく。待ちに待った一杯がこちらだ。
まずは、しじみがたっぷり入ったスープから。しじみの旨味たっぷりで後を引く味わいなのに、あっさり飲み干せるスープだ。
ベースは青森の地鶏シャモロックに、イワシ焼き干しも使っていたそうだが、コロナ禍で手に入らなくなってしまったそう。「いまはイワシ焼き干しの代わりに焼きあごを使ってます」。
食材やダレの見直しにも心を配っている長谷川さん。それが功を奏して、話題を呼ぶ味へと昇華したのだ。スープだけじゃなく、しじみも殻付きでトッピングされているので、ぜひとも余すことなく一緒に味わってほしい。
お客様のため値上げせずにおいしいラーメンを目指す
合わせる麺も、醤油・塩・カレーらーめんには黄色い縮れのついた中太麺、しじみらーめんには細麺と、2種類の麺を使い分けている。
もちろん具も抜かりない。店に入った瞬間から厨房奥の大きなチャーシューが気になっていた。
しじみらーめんにも大きくカットされたチャーシューがドーンとのっている。噛むごとに肉に染みた味が広がり、口の中が肉の旨味でいっぱいに。これはご飯を一緒に食べるのもいいかも!
以前、アメリカに5年ほど暮らしていたことがある長谷川さん。そのため、海外進出も念頭に銀座に店を開業したわけだが、コロナ禍で状況は一変。まずは、店の存続のために年中無休で切り盛りしている。これだけの物価高騰で値上げする店も多い中、オープンから値上げせずにがんばっている。
忙しく、でも淡々と厨房でラーメンを作り続ける店主を見守るように、店の片隅に野球界のイチローのパネルが置かれている。ラーメンで世界のイチローを目指してるのか尋ねてみると、「なれるといいんですけど」と穏やかな顔をした。
味をブラッシュアップしつつ、お客様のことを考えて食べやすい値段で努力し続ける『らーめん一郎』。一杯ではまだまだ物足りない。醤油や塩、カレーと気になるラーメンをいただきに、ぜひまた訪れたい店だ。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=大熊美智代