界隈を歩いてみると、初石の『The Noodles& Saloon Kiriya』や『長八』など、開店前から行列のできる人気店も多い。だが、そういった正統派の専門店以上にそそられたのは、ラーメン店でありながら飲み屋とも食堂ともいえそうな、変化球的な店だった。
例えば、南流山の『らぁめん和』。夜は酒とつまみが付いたセットメニューがあり、完全に酒呑みの巣窟だ。しゃがれ声のママのキャラも強く、なんというか、スナック。常連衆は、カレーを頼んで食べている。はて?
ラーメン店に来たはずだが?
生きるために始めたラーメン店
また、『麺酒場丸勝』もなかなか濃い。店主の勝村慎太郎さんは、父親が創業した『麺屋まる勝』を引き継いだ形だがこの親子、もともとラーメンをあまり好きではなかったと言う。勝村さんは「親父は、あくまで商売として、生きるためにラーメンを始めたと言っていました。私も似たようなもので、酒場とラーメンを融合したら面白そうだと思って」と語る。そんな勝村さんの父親は、今も流山でもつ煮込みラーメン専門店『麺屋丸勝 かっちゃんらーめん』を営んでいる。「私は酒場向けの凝った料理だけど、親父はシンプルで町中華っぽい。町中華に憧れる身としては、親父のやってること、ちょっとうらやましかったりするんですよ」と、笑う。独自路線のふたつの店を食べ比べるのもなかなか乙な楽しみ方だ。
町中華っぽい、といえば『民芸風らーめんいなほ』が頭をよぎる。看板のごま辛らーめんを始めとして、定番、季節ものさまざまなラーメン、定食、つまみが数多く揃えられ、客は飲み、食事とそれぞれの楽しみ方をする。建物の風情も相まって、どこかのんびりほっこりした雰囲気だが、「先代店主である女将さんは、結構濃いキャラだったんです」と、店主の平泉進一さんは笑う。「チャキチャキの肝っ玉かあさんという感じで、お客さんのメニューを勝手に決めちゃうこともあって。でも、その虜(とりこ)になった人たちは、今でも通ってくれていますね」。その常連衆の子供たちも訪れ、店も、客もいい流れで代替わりしている。
こうしてみると、流山のラーメン店、ただラーメンを食べるだけではもったいない。食事も、酒も、店主や常連との会話も楽しみ、ほんの少しだけ、地元住民の仲間入りをできる場所。このローカル感こそ、流山ラーメンの真の“味わい”と言えるのかもしれない。
麺酒場 丸勝[南流山]
新鮮ホルモンで、酒が止まらない
2008年に父の店を継いだ店主の勝村慎太郎さんは、積み重ねてきた居酒屋の経験を活かし、麺酒場へと昇華。豚タン1本を使った柔らかいゆでタンや、新鮮レバーのレバニラ炒めなど、魅力的なつまみがズラリ。「町中華に憧れてるんですよ」と、笑う。締めに外せないのは、名物・もつ煮込みラーメンだ。鶏と豚、ホルモンの旨味溶け込む味噌スープが絡んだ太麺をすする。これまた酒が欲しくなる味ではないか!
『麺酒場 丸勝』店舗詳細
民芸風らーめん いなほ[流山おおたかの森]
幅広い世代に愛されし、ごまらーめん
ラーメン、つまみ、定食と多彩な品揃えに驚かされるが、一番人気はごま辛らーめんだ。「先代から伝えられた味を守っています」とは、2代目店主の平泉進一さん。つるりと細い縮れ麺を一気にすすれば、口の中でゴマの芳香がふわっ。とろりと柔らかな甘みに頬が緩み、ピリリと後追う辛味が、次のひと口を誘う。また、野菜たっぷりの餡にアツアツの揚げ餃子が隠れたうま煮餃子も、酒に、ご飯にピッタリ。
『民芸風らーめん いなほ』店舗詳細
取材・文=高橋健太(teamまめ) 撮影=丸毛 透
『散歩の達人』2023年4月号より