界隈を歩いてみると、初石の『The Noodles& Saloon Kiriya』や『長八』など、開店前から行列のできる人気店も多い。だが、そういった正統派の専門店以上にそそられたのは、ラーメン店でありながら飲み屋とも食堂ともいえそうな、変化球的な店だった。

例えば、南流山の『らぁめん和』。夜は酒とつまみが付いたセットメニューがあり、完全に酒呑みの巣窟だ。しゃがれ声のママのキャラも強く、なんというか、スナック。常連衆は、カレーを頼んで食べている。はて?

ラーメン店に来たはずだが?

『らぁめん 和』には飲み物2杯とお通し、ハーフサイズ一品料理が付く1000円セットがある。このセットだけで、延々飲んでしまいそうだ。
『らぁめん 和』には飲み物2杯とお通し、ハーフサイズ一品料理が付く1000円セットがある。このセットだけで、延々飲んでしまいそうだ。

生きるために始めたラーメン店

また、『麺酒場丸勝』もなかなか濃い。店主の勝村慎太郎さんは、父親が創業した『麺屋まる勝』を引き継いだ形だがこの親子、もともとラーメンをあまり好きではなかったと言う。勝村さんは「親父は、あくまで商売として、生きるためにラーメンを始めたと言っていました。私も似たようなもので、酒場とラーメンを融合したら面白そうだと思って」と語る。そんな勝村さんの父親は、今も流山でもつ煮込みラーメン専門店『麺屋丸勝 かっちゃんらーめん』を営んでいる。「私は酒場向けの凝った料理だけど、親父はシンプルで町中華っぽい。町中華に憧れる身としては、親父のやってること、ちょっとうらやましかったりするんですよ」と、笑う。独自路線のふたつの店を食べ比べるのもなかなか乙な楽しみ方だ。

勝村さんの父が営む『かっちゃんらーめん』のもつ煮込みラーメン。『丸勝』よりもホルモンの野趣が強く、また別の味わいに驚かされる。
勝村さんの父が営む『かっちゃんらーめん』のもつ煮込みラーメン。『丸勝』よりもホルモンの野趣が強く、また別の味わいに驚かされる。

町中華っぽい、といえば『民芸風らーめんいなほ』が頭をよぎる。看板のごま辛らーめんを始めとして、定番、季節ものさまざまなラーメン、定食、つまみが数多く揃えられ、客は飲み、食事とそれぞれの楽しみ方をする。建物の風情も相まって、どこかのんびりほっこりした雰囲気だが、「先代店主である女将さんは、結構濃いキャラだったんです」と、店主の平泉進一さんは笑う。「チャキチャキの肝っ玉かあさんという感じで、お客さんのメニューを勝手に決めちゃうこともあって。でも、その虜(とりこ)になった人たちは、今でも通ってくれていますね」。その常連衆の子供たちも訪れ、店も、客もいい流れで代替わりしている。

こうしてみると、流山のラーメン店、ただラーメンを食べるだけではもったいない。食事も、酒も、店主や常連との会話も楽しみ、ほんの少しだけ、地元住民の仲間入りをできる場所。このローカル感こそ、流山ラーメンの真の“味わい”と言えるのかもしれない。

麺酒場 丸勝[南流山]

新鮮ホルモンで、酒が止まらない

夜と土日は未成年入店禁止の“大人の時間”。「みんな、酒とつまみだけでほとんどラーメン食べないんすよ~」と、勝村さん。
夜と土日は未成年入店禁止の“大人の時間”。「みんな、酒とつまみだけでほとんどラーメン食べないんすよ~」と、勝村さん。

2008年に父の店を継いだ店主の勝村慎太郎さんは、積み重ねてきた居酒屋の経験を活かし、麺酒場へと昇華。豚タン1本を使った柔らかいゆでタンや、新鮮レバーのレバニラ炒めなど、魅力的なつまみがズラリ。「町中華に憧れてるんですよ」と、笑う。締めに外せないのは、名物・もつ煮込みラーメンだ。鶏と豚、ホルモンの旨味溶け込む味噌スープが絡んだ太麺をすする。これまた酒が欲しくなる味ではないか!

もつ煮込みラーメン950円。
もつ煮込みラーメン950円。
創業から40年使われている厨房に立つ勝村さん。
創業から40年使われている厨房に立つ勝村さん。
手前からレバニラ炒め750円、ゆでタン700円、レモンサワー大700円。
手前からレバニラ炒め750円、ゆでタン700円、レモンサワー大700円。

『麺酒場 丸勝』店舗詳細

住所:千葉県流山市南流山4-15-2/営業時間:11:30~14:30・17:00~22:00(日は11:00~17:00)/定休日:月/アクセス:JR常磐線・東武鉄道アーバンパークライン南流山駅から徒歩6分

民芸風らーめん いなほ[流山おおたかの森]

幅広い世代に愛されし、ごまらーめん

蒸し鶏935円、うま煮餃子847円、瓶ビール605円。「うま煮餃子は、賄いから生まれたメニューなんですよ」とは、平泉さん。
蒸し鶏935円、うま煮餃子847円、瓶ビール605円。「うま煮餃子は、賄いから生まれたメニューなんですよ」とは、平泉さん。

ラーメン、つまみ、定食と多彩な品揃えに驚かされるが、一番人気はごま辛らーめんだ。「先代から伝えられた味を守っています」とは、2代目店主の平泉進一さん。つるりと細い縮れ麺を一気にすすれば、口の中でゴマの芳香がふわっ。とろりと柔らかな甘みに頬が緩み、ピリリと後追う辛味が、次のひと口を誘う。また、野菜たっぷりの餡にアツアツの揚げ餃子が隠れたうま煮餃子も、酒に、ご飯にピッタリ。

名物・ごま辛らーめん990円。スープを最後まで飲みたくなる、優しい味だ。
名物・ごま辛らーめん990円。スープを最後まで飲みたくなる、優しい味だ。
趣ある古民家風の出で立ち。
趣ある古民家風の出で立ち。
さまざまなオーダーが入って大忙しの厨房を、平泉さんは華麗に回す。
さまざまなオーダーが入って大忙しの厨房を、平泉さんは華麗に回す。
開店直後の時間から、店内の広い座敷は老若男女さまざまな客で埋め尽くされ、にぎわう。
開店直後の時間から、店内の広い座敷は老若男女さまざまな客で埋め尽くされ、にぎわう。

『民芸風らーめん いなほ』店舗詳細

住所:千葉県流山市駒木台210/営業時間:11:30~20:30/定休日:月/アクセス:つくばエクスプレス流山おおたかの森駅から千葉県流山市・ぐりーんバス美田・駒木台線「青田東」行き約8分の「八木郵便局前」下車1分

取材・文=高橋健太(teamまめ) 撮影=丸毛 透
『散歩の達人』2023年4月号より