御茶ノ水・神田・神保町のデートの時とは違うルートから湯島天神に向かう。
「今日で都心のデートさいごだね。」
「!!!えっ?」
オレの鼓動が速くなる。さ……さ……さいご!?
「なにびびってんの?『東京散歩地図』のルートの話!!」
あー。そっちねー!!!
『東京散歩地図』は都心・東部・北部・南部・西部と大まかに5つのパートに分かれていて今までは「都心」のルートを散歩デートしてきたが、次回のデートからは「東部」のパートに入るのだ。果たしてオレは第39回までエルボーと一緒にいることができるのか?
「こっちから来ると男坂登れるんだね。愛宕神社の男坂も急だったよね〜!!」
「かなり急だったよね。」
とか言いながら芝・浜松町・竹芝でのあの最高な朝デートを思い出す。
愛宕神社の男坂よりも穏やかな坂だがやはり神社は高いところにあるな。
『東京散歩地図』を片手に急坂を登る。
ちょうど受験シーズンだからたくさんの学生が湯島天神を訪れている。
梅も少し咲いていた。もうすぐ春だな。
「そういえば湯島天神の近くにすごい急な階段あったよね?」
「見に行ってみよっか」
「あれ?」
「工事中だ」
実盛坂は老朽化のため工事中だった。
1年ちょっとで街も色んな変化があるなあ。
あのお台場の観覧車ももうないのか。
オレたちの関係も変化してきている。
うまくいっているような気もするしそうでもない気もする。
というのも原宿・青山・神宮外苑のデートでエルボーから「一緒に住まない?」と言われてから実は随分時間が経ってしまった。
エルボーがなぜか忙しそうでタイミングを逃し続けているのだ。
もういい加減なんとかしなきゃな。
一緒にいる時は楽しそうにしてるし大丈夫なはずだ。
寒い1日だが散歩が好きなオレたちは春日通り沿いを散歩する。
「あれ誰かな?」
「近くまで行ってみようか。」
「春日局だ!!」
その奥には春日局の菩提寺である麟祥院がある。
せっかくだから中に入ってみよう。
麟祥院に入った瞬間空気の変わる感じがした。苔むした庭園も何だか良い。
平日は人も少なく都会にいることを忘れそうな空間だ。
奥へ行くと春日局のお墓もある。春日局のお墓は変わった形をしている。墓石、台石を見ると四方に穴が空いている。無縫塔(卵塔)と言うそうだ。この墓石の穴には春日局の願いが込められている。それは「死後の世界からも政治を見通せるように」との春日局の遺言。
そのようないきさつで、どうやらこの形になったらしい。
『春日通り』は東京都通称道路名なのだ
ここで宅建ワンポイント。
春日通りの由来はもちろん、家光の乳母で、大奥の制度を築いた『春日局』で、春日局とゆかりが深い麟祥院の前を通る国道254号線を春日通りと呼んでいる。
つまり、国道254号線の一部分(豊島区東池袋一丁目〜墨田区横川五丁目)を『春日通り』としているわけだね。
でね。
この『春日通り』という名称なんだけど、じつはちゃんとした名称で、ちょっと小難しく言うと「東京都通称道路名」ということになる。東京都通称道路名なんていうと大げさな感じだけど、要は「道路にわかりやすく親しみやすい名称をつけよう」ということで、東京都でもちゃんとしたホームページを用意している。
東京都通称道路名~道路のわかりやすく親しみやすい名称~
https://www.kensetsu.metro.tokyo.lg.jp/jigyo/road/information/tusyodoro/meisho.html
ちなみに、東京都での通称道路名はいくつあるかというと、なんと171。
ホームページにも一覧のPDFがアップされているけど、あいうえお順とかじゃないので、とてもわかりにくい。
国道とは?
そんでね。
『春日通り』は国道254号線なのだが、国道とはなにか。国道のほかに県道(都道府県道)とか市道(市町村道)とかあるけど、これはなんだ。
そうです。
道路法によるものなんですね。
道路法により「国道○号線」「県道○号線」などと名付けられているわけです。
引っかかるなよ!
そんで、少しややこしい話。
建築基準法では「建築物の敷地は道路に2m以上接していなければならない」となっていて、その道路なんだけど、「幅員4m(場合によって6m)以上」じゃないとダメ。
もちろん道路法による道路でも同じで、春日通りとなっている国道254号線は余裕で幅員4m以上なんだけど、なかには幅員4m未満の都道府県道や市町村道もあろう。
なので、宅建試験ではこんなヒッカケが出題されたりする。
宅建試験の過去問
平成12年
【問24】建築基準法に関する次の記述のうち、正しいものはどれか。
この問題の選択肢1がこれ
1 道路法による道路は、すべて建築基準法上の道路に該当する。
はい、「誤」ですね。
ちょっと解説してみますと、国道や都道府県道などの「道路法による道路」だとしても、建築基準法上の道路になるかどうかは、その道路の「幅員」によります。ふつうの人がイメージする国道とか都道府県道とかは、道幅も広くちゃんとした道路なんじゃないかな。
なので「道路法による道路」だったら、それだけで建築基準法の道路になるんじゃないかなと思っちゃった人をヒッカケようという出題なんですね。
でもね。
道路法による道路だとしても「幅員4m(場合によって6m)以上」じゃなかったら建築基準法上の道路とはならない。ということで「すべて建築基準法上の道路に該当する」は誤となるわけです。
春日通りをエルボーと歩く。
エルボーはオレをみて「でもさ」と。
……?
「春日局はどうしてそんなに一生懸命になれたのかしら」
たしかになー。徳川家光の乳母という立ち位置で、病弱の幼い彼を健康にすべく超献身ぶり。そんで彼の弟・国松(後の忠長)との跡目争いに勝利すべく、恐れ多くも家康に「将軍にしてください」と直談判までしちゃう勢い。挙げ句に、大人になった彼のために大奥まで作っちまった。
母子の溺愛っていうのとは、ちょっとというか、かなり違うしな。
「そうね。でもすこし憧れるところもあるわ。」
「どういうとこ?」
「自分の職務というか、自分で選んだ仕事に生きた女性という感じがするの。」
はぁ……。
「有能なマネージャーというかプロデューサーというか、将来を見据えての布石の打ち方がかっこいいなーって。」
なるほどな。
見通し。麟祥院の彼女の墓石も、それを物語っている。
見通しといえば街の再開発の方向とか!!
春日通りの風景を見れば、みなさんもすぐお察しになるかと思いますが(笑)。
春日通りは、今後どうなるでしょうか。
ではこちらの写真を。
もう一枚。
そうです。
都市計画として道路の拡幅計画があるんですね。
道路の予定地(都市計画施設の区域)となっているところは、建築できる本来の規模での建築はできなくて2階建て(東京は3階建て)となる。
先程の写真に補助線(笑)を雑に書き加えますと……
いまはまだ道路拡幅は計画段階だけど、事業決定となれば、手前の建物の部分は取り壊しとなるわけです。不動産を取引する際、そのあたりもご留意くださいね。
少し風が冷たくなってきた。
「いままでずいぶん、こうして街をいっしょに歩いたわね。」
……そうだね。
「かれこれ1年かな。私もちょっと大人になったというか。」
……え、どういうふうに?
「いままで誰かに頼りながら生きていこうと思ったけど。」
……けど?
「仕事に生きてみようかと。」
……仕事?
「そう。やりたかったことで自立して、大人の女性を目指してみる。」
……え、え、え?
「いっしょに暮らそうみたないこと、言ってたけど、どうでもよくなってきちゃった。」
……え、え、えーーーー!!!!!!
やばい。オレの見通しに、穴が空いた(涙)
取材・文・撮影=宅建ダイナマイト執筆人