歌舞伎町の隠れ家カフェは、“日本一干物がおいしい店”からはじまった
「警察密着24時」みたいな番組でしばしば見かける新宿の歌舞伎町交番と、大久保病院に隣接する高層ビル『東京都健康プラザハイジア』。その4階に『No.13cafe』がある。
『東京都健康プラザハイジア』はごく一般的なオフィスタワーで、訪れたのが夕方の4時ということもあり、1階ロビーは閑散としていた。JR新宿駅からギンギン・ギラギラの歌舞伎町を抜けて歩いてきたので、スーーーンと静かな雰囲気に拍子抜けしてしまう。
4階に降り立ったがとても静かで、カフェがある雰囲気ではなかったが、『No.13cafe』の店内に入ると女性で埋め尽くされた店内に圧倒される。所在なくキョロキョロしていると、店長で料理長の髙橋伸行さんが応えてくれた。
「オーナーは巣鴨で焼鳥と日本酒の居酒屋をやっているんです。僕はその店によく通っていて『カフェでおいしい干物が食べられたら面白いよね』という話をしていたんです。僕は日本料理店で板前をしていたので、じゃあそういうカフェをやってみようかと(笑)」。
東京都健康プラザハイジアの4階に2016年6月にオープンし、隣接する施設でトレーニングする人たちが徐々に常連になっていったそうだ。
ランチの干物定食は、熱海のハイパー干物クリエーター・藤間さんによる直送の干物を使用する。藤間さんの干物は、厳選した日本酒を使い、乾燥機でなく天日干しにこだわり、魚の旨味を最大限まで引き出す。文字通りワンランク上の“ハイパー”な干物だ。魚を熟知しているからこその旨味、深みがある。
加えて、髙橋さんの魚を焼く技術もあり、あっという間にお客さんをとりこにした。「お客様に『焼き方が違うね〜』と言っていただくこともあります」と、照れ臭そうに笑う髙橋さんだ。
SNSで激バズり! 連日女の子が行列をなすフルクリームソーダと鶏卵プリン
オープンから2年後、ランチタイムの固定客がついたのでカフェメニューも充実させようと考案したのがフルクリームソーダと鶏卵プリンだった。
「フルクリームソーダは、和食にあるジュレとか寒天寄せをイメージして作りました。グラスにブルーハワイ味のゼリーと、ヨーグルト味のアイスクリームを交互に盛り付けます。ブルーハワイ味のソーダをお付けしているので、そのまま飲んでも、グラスに注いでもおいしいです」。
フルクリームソーダは通年置いてあるスカイ(写真のもの)と、季節替わりの全2種がある。キーンと冷えたソーダは、見た目も味も夏の晴れた空のような爽やかさ。
空の色は時間帯や季節によりさまざまな色に変化するもの。こんな情緒あるメニューが生み出せるなんて、季節の移ろいを食で表す和食出身の髙橋さんならではの発想だ。
フルクリームソーダは比較的若い女性の支持がアツいそうだが、年齢に関係なく人気なのは鶏卵プリン。「実は甘いものは苦手」という髙橋さんだが、プリンにはひとつの想いがあった。
「とろけるプリンより、子どもの時に食べた固めのプリンを目指しました。シンプルに卵と牛乳のみを使い、カラメルにはミネラルが多くコクが深いけどまろやかな甘みの喜界島産の黒糖で作っています」。
シンプルだがむっちりとした食感のプリンに、深みのある甘さのカラメルが予想を裏切らないおいしさだ。プリンの頂きにポチョンと置かれたホイップクリームが、ベレー帽をかぶっているみたいでカワイイ。
こちらは1日60個限定で、だいたい毎日15:30ごろには売り切れてしまうことが多いのだそう。絶対食べたいなら、早めの来店がおすすめだ。
お酒好きな髙橋さん。熱燗やワインにも合うというバスクチーズケーキ650円もおすすめだそうだ。「外はサクッ、中はトロリとしてすごく濃厚なチーズケーキです。コーヒーや紅茶だけでなく酒とのペアリングも最高です」。うーん、昼飲みもいいですなあ。
店の裏手には住宅もある。「歌舞伎町はどこにでもある街」。
新宿区で育ち、小中学校時代を過ごした髙橋さんにとって、歌舞伎町は「お店の数はものすごく多いですけど、僕にとってはどこにでもある街と同じですよ。ふつうに歌舞伎町に住んでいる子どももお年寄りもいますからね」という。
ふと、窓の外を見ると、向いのマンションのベランダには洗濯物が下がっている。そこには、確かに歌舞伎町に住む人々の暮らしが見えた。髙橋さんは続ける。「魅力的なお店がたくさんあるなかで、こんなわかりにくい店にわざわざ来てくださるお客様がいます。それは本当にありがたいことだなと思って。これからもお客様に喜んでいただけるものを提供していきたいですね」。
2022年6月中旬には内装をリニューアル。何度も地図を見て、周囲を見渡し、宝物を探すみたいに店にやってくる人たちの楽しみがまたひとつ増えそうだ。甘党の筆者は、新しいスイーツにも期待している。ジュルリ。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢