輝くガラスの向こうに時代をさまよいに行く

堂々「日本橋南詰盛況乃圖」全景。
堂々「日本橋南詰盛況乃圖」全景。

それをクレアーレ熱海ゆがわら工房がステンドグラス作品として完成させた。工房のアートディレクター中野竜志さんは「原画を受け取った時は緻密さに絶句しました」と苦笑する。工房の職人たちは山口氏の徹底した監修のもとで原画に忠実に色ガラスへ専用絵の具で描き移しては焼き付ける。この1182ピースもの色ガラスを今度は鉛桟(なまりさん)で組み上げハンダでつなげる。それが絵の中の黒線だが、原画を損ねないように極力細い鉛桟を使用。すると今度は作品の強度が不安に。中野さんは「2枚の強化ガラスで作品をはさみました」と製作の苦労話は尽きない。

クレアーレ熱海ゆがわら工房。日本交通文化協会が駅などに設置するパブリックアートのステンドグラスや陶板作品を手がける。
クレアーレ熱海ゆがわら工房。日本交通文化協会が駅などに設置するパブリックアートのステンドグラスや陶板作品を手がける。

この原画は3年もの歳月を要した。山口氏が大量の日本橋界隈の資料や地図を集め、そこから時代を超えて特に興味深い建物や風景を組み合わせたのだ。例えば日本橋南側には江戸時代に実在した罪人の「サラシ場」、水運の街だった日本橋は、1964年の東京オリンピックに向けた首都高速道路突貫工事で水路が覆われてしまった。でも絵では空中に往年の水運図が。現代の『COREDO日本橋』は黒線で表現。面白い! 見入ってしまう通行人も多いとか。

日本橋の先に罪人のサラシ場。
日本橋の先に罪人のサラシ場。
作品中の髙島屋は一見昔風だが建物も屋上庭園も実は現代の姿。
作品中の髙島屋は一見昔風だが建物も屋上庭園も実は現代の姿。

散歩人としては日本橋今昔を行きつ戻りつできる最強のガイドマップでもある。作品横の日本橋髙島屋に入ってみた。蛇腹式扉のエレベーターに乗り、手動で操作するエレベーターガールさんに尋ねると「これはほぼ88年前に当館が建築された当初のものです」。屋上庭園にたどり着くと周囲は高層ビルだ。絵にあったような紅白のクレーンが工事現場でうごめいて、新旧の風景を塗り替える真っ最中。図らずも日本橋南詰時空の旅を実体験してしまったのだった。

日本橋南詰盛況乃圖

地下鉄銀座線日本橋駅出口付近
企画・制作:公益財団法人 日本交通文化協会(https://jptca.org/
協賛:株式会社髙島屋
ステンドグラス製作:クレアーレ熱海ゆがわら工房

 

取材・文=眞鍋じゅんこ 作品写真=友野 正

画家・山口晃さんが描く東京。一見、よく知る街が連なっているようで、視点を移すたびに違和感にゆさぶられる、奇妙な体験がそこにある。大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺ばなし~』のオープニング(タイトルバック)のために描かれ、『東京圖(仮)』として現在も制作中のこの作品。いったい、どのように描かれているのだろうか。※作品の全図は『散歩の達人』2020年1月号に掲載