集中できる場所として利用可能。路地に隠れるように存在する穴場
『NIHONBASHI CAFÉST』があるのは、下町情緒あふれる料亭街。面しているのは絵に描いたような路地だ。街並みとの調和が図られた外観には格子が設けられていて、中の様子がわからないのも謎めいている。
オープンしたのは2011年2月のこと。オープン当時は、動画配信向けのレンタルスタジオ兼カフェとしての営業だった。その後、日本各地で丁寧に作られている食品を広めていく取り組みを始め、カフェのコンセプトも「地方を味わう・体験する そんな場所」と変更した。
店内はかつてスタジオとして使われていたスペースを生かして、広々している。テーブルとテーブルの間にかなり余裕があって、もちろんWi-Fi完備。電源コンセントも準備されていることから、近隣のビジネスパーソンが毎日のように仕事道具を持ち込んでは、ひと仕事と言わず、ふた仕事ほどこなしながら時間を過ごしていくという。
「問い合わせの電話でも、Wi-Fiなど設備のことを聞かれることがとても多いです」と話すのは店長の勢力徹也さんだ。ゆっくり過ごしてもらおうと、BGMも落ち着いた音楽を選んでいる。
地方の丁寧に作られた食材を発信するためにメニューはシンプルに
注文があってから一杯ずつ丁寧にドリップしているコーヒーは、特に日本橋ブレンド、人形町ブレンドと名付けた2種類のオリジナルブレンドが特に人気だ。「知り合いの焙煎師さんに焙煎を頼んでいます」と長く飲食業に携わる勢力さんの人脈も生かしている。
幅広いお客さんに人気なのが、ミニソフトセット。コーヒー1杯440円に対して、小さなカップに入ったソフトクリームをつけると520円とはお得感がある。このソフトクリームは、宮崎県でストレスを与えないように放牧飼育されている牛のミルクで作っていて、濃厚なのに後味がスッキリしているのが特徴だ。もちろん大きなサイズのソフトクリームも販売しているが、セットとして提供される小ぶりのサイズのソフトクリームが男女問わず人気。仕事中にひと口だけ甘いものが食べたくなる気持ちに応えてくれるサイズが喜ばれている。
食事のメニューはサンドイッチが中心になっている。店のコンセプトに合わせて地方のおいしい食材を使ったおすすめは、特製たまごサンドだ。使っているのは、茨城県産奥久慈卵。材料の候補として初めて奥久慈卵が送られてきたときは「スーパーで売られている卵とどこが違うのだろう」といぶかしく思いながら試食してみたところ、「全然違った」という。
「一般の卵と比べて、値段がとびきり高いわけでもありません。ところが黄身が大きいし、しかも卵特有の匂いがほとんどしなくて、確かにおいしいんです。驚いたと同時に、地方の食の豊かさの可能性に気づかされました」
程よく固茹でにした卵は、食感が残るように粗みじん切りに。黒コショウを効かせてマヨネーズと和えたシンプルなたまごサラダに仕立てている。口にしてみると、確かに卵が持つ独特の匂いがなく、シンプルな味わいを楽しめる。
特製たまごサンドは、1食あたり使っている卵は3つ。食パンもキメが細かくやわらかなものを少し厚めに切って使っている。かなりボリュームがあるので女性は食べきれない人も多いという。そんなときは、お願いするとテイクアウトできるようにしてくれるなど、接客の細やかさもこのカフェの魅力だ。
店内では地方の食を広めるイベントを行うこともある。そんな中で勢力さんたちスタッフも新たな食材と出会って、これは、というものをメニューに取り入れてきた。これまで宮崎県産の鶏の生ハムや長崎県産のびわなど好評だったが、いずれも季節や生産量が限られるため、期間限定メニューとしての登場だ。つまり、『NIHONBASHI CAFÉST』では、そのときどきで新しいおいしさに出会えるというわけだ。
「日本の地方には、こだわりを持って生産しているメーカーや生産者が数多くあります。これまで馴染みのなかった食材もメニューに取り入れながら、人形町で地方にあるおいしい食をお客さんに知ってもらえるようにしていくつもりです」と勢力さん。
昨今のカフェといえば、インパクトある写真映えを意識したメニューを揃えるのが常識。そんな中、『NIHONBASHI CAFÉST』はシンプルなおいしさや、居心地のよく過ごせる空間を提供することを重視している。飾らないからこそ、初めて出会うものから本質的なよさを見出すのにぴったりな店といえそうだ。
※営業時間は変更の場合あり/定休日:日曜・祝日/アクセス:地下鉄日比谷線・浅草線人形町から徒歩3分
取材・撮影・文=野崎さおり