昔ながらの番台スタイルを守るレトロ銭湯
『梅の湯』の創業は大正末期。当時の検見川は漁師町で、50年ほど前まで国道14号の西側まで海が迫っていたという。そんな漁師町の歴史を知る主人の長沼二三六さんは3代目。
かなり年季が入ったマッサージチェアや、70年ほど前に職人が手作りしたという脱衣カゴなどが置かれた脱衣所はレトロ感が漂い、何十年も昔にタイムスリップしたような気分になる。極めつけは、開業以来続けているという番台だ。
「番台に座っていると、お客様と自然に会話ができるようになるんです。何気ない挨拶からお付き合いが始まることだってあります。この距離感が銭湯という商売の原点だと思います」と主人は話す。昔から銭湯は地域のコミュニティの核だったが、『梅の湯』は、それをいまでも実践しているのだ。
飲用もできる地下水を使った3種類と内湯と露天風呂
『梅の湯』の湯は、地下50~70mから汲み上げた井戸水を濾過して使う。この水は飲用もできるというから、きっと肌にも優しいのだろう。近年は、ボイラーで湯を沸かすところが大半だが、薪を窯にくべて湯を沸かす昔ながらのやり方だ。
浴室の造りは男女対称で、日替わりで入浴剤が変わる「熱い湯」をはじめ、「ぬるい湯」、ジェットバスの座風呂の3種類の浴槽があり、脱衣所に隣接して薬湯露天風呂が備わる。天井が高いので開放感があり、よく手入れされているので清潔感もある。
東北の復興を祈る奇跡の一本松を描いたペンキ絵
2011年3月11日に発生した東日本大震災は、長沼さんも大きなショックを受けた。被災地の様子を見るたびに、「東北のために何かできないか」といつも考えていたという。
あるとき、客から「生まれ育ったまちの風景がなくなることが悔しい」という声を聞いた。そのとき、長沼さんは東北の風景を壁画にしようと決めたという。
そして2012年、陸前高田の奇跡の一本松のペンキ絵を女湯に描き、翌年には男湯にも描いた。
ペンキ絵は通常2~3年おきに描き直すが、梅の湯では毎年描き直している。2013年からは、東北をテーマにしたペンキ絵を描き続け、2018年からは奇跡の一本松を毎年描き続けている。
こうした活動はマスコミに取り上げられただけでなく、陸前高田市の市長から感謝状が届いたり、偶然訪れた東北出身のお客様が涙を流して喜ばれるなど、大きな反響があった。
取材・文・撮影=塙 広明