私が座った席の隣には、樽生ビールの自動サーバー。
樽生ビールは、注ぎ手によって味が変わるのは常識だ。
もちろん、自動サーバーを否定するつもりは毛頭ない。
しかし、オペレーションを重視することから自動サーバーを導入するお店は、“ビールを注ぐ”ということに無関心である場合が多い。
これは、私が某ビールメーカーの樽生ビールアドバイザー時代の経験によるものだ。

しかし、『日本橋 山喜多 八幡山総本店』はどうだろう。
間もなく、一点の曇りもない澄み切ったジョッキに、7:3の比率で注がれた「アサヒ スーパードライ」が目の前に提供された。

ビールとは、実は種類の中でも1~2位を争うほどにデリケートな飲み物だ。
自動サーバーを扱うお店は、ビールの温度に合わせた調整をする必要がある。
そして、その調整を行うのは、ほかならぬお店の仕事だ。
ビールを注ぐという行為を代わりに行ってくれる自動サーバーは、全自動サーバーではない。
そのことを理解しなければならない。

この樽生ビールの状態を見る限り、『日本橋 山喜多 八幡山総本店』はそのことを理解しているようだ。

そんなことを考えていたら「特製もつ煮」の登場だ。
熱々の陶器の器の中で、グツグツと煮えたぎっている。
もつ、大根、人参、こんにゃく、上にネギが盛られている。
コクのある味噌仕立ての「特製もつ煮」、こいつはビールがすすむ。

同時に提供されたのは「シロコロ タレ」と「シロコロ 辛味噌」。
甘いタレも、ピリ辛の辛味噌も、マルチョウの脂と相性が抜群!

え? “酒場の流儀”はどうなったって?
男なら、つまらないこだわりは今すぐに捨てることだ。
もつ焼きのお店で、どうしてもつ焼きを食べずに帰ることができよう。
お店側が一押しするメニューは、可能な限り食して帰る。
私の“男の流儀”だ。
それにしても、ビールがすすむ。

管理の徹底されたビールは、飲んだ後にもその“証”が現れる。
エンジェルリングと呼ばれるその白い輪は、美味いビールが飲めるお店で飲み出会える天使からの贈り物。
それにしても『日本橋 山喜多 八幡山総本店』は活気のあるお店だ。
まだまだ飲み続けていたいが、そろそろ電車に乗る時間だ。
もう少し飲んでいたいときに席を立つのが、私なりの“酒場の流儀”。
店を出て振り返ると、そこには私を見送るスタッフの笑顔があった。