我が地元で愛される町中華「鴻園」

我が地元・埼玉県蕨市にも町中華はある。日本一面積の小さい市(5.11平方キロ)の中で、ざっと思い浮かべても7軒の心のふるさとが思い浮かぶのだから、それなりに多い方ではないだろうか。
表に店名を出していない町中華「鴻園」もその一つ。
「錦町のあの赤いお店、美味しいって評判だけど行ったことある?」
「名前が書いてなかったんだけど、あの赤いお店は間違いないよ!」
この辺りに住んでいると、「鴻園」についてこんな話をされるのも日常茶飯事だ。
せっかくなので、今このタイミングで覚えてほしい。蕨市錦町1丁目の「富士見公園通り」に面したその赤いお店の名は「鴻園(こうえん)」。30年以上この場所で営業している町中華だ。

私は馴染みの町中華へ行って、メニュー選びに迷うことはない。
もっと言えば、中華料理を食べる以上にそのお店を訪れることが目的になっているように感じる。
「前回から少し空いちゃったし、そろそろ行くか」的な感覚。
一般的に飲食店を訪れるそれとは明らかに違う。定期的に顔を合わせる親戚の家に行く感覚に近いのかもしれない。
昼時に顔を出せば、「またお昼食べに来たの?」と迎えてくれる。そして美味い昼食をお腹いっぱい食べさせてくれる。「鴻園」を訪れるのも、いつだってそんな感じだ。
暖簾をくぐってお店に入ると、厨房で忙しそうに動き回る大将から「いらっしゃい!」と一言声をかけられる。
私はメニューに目を配ることもなく、「ランチ1つお願いします。」とだけ伝える。
「ランチ」とは昼食のことではなく、「日替わりランチ」のこと。
ランチタイムに「鴻園」を訪れる多くの方が選ぶ人気メニューだ。

壁やカウンター上に貼られたメニューを眺めるのは、オーダーを済ませてからのお楽しみ。
「あれ美味そうだな」とか「次回は夜に来て、ビール飲みながらあれ食べよう」とか、あれやこれやと思いを馳せる。BGMは昭和歌謡と大将が厨房で振るうリズミカルな鍋の音だ。
そういえば、蕨の隣には「ガチ中華」のまち・西川口がある。
同じ中華であっても、私にとって「町中華」と「ガチ中華」とでは訪れる目的が全く違う。
日常の中にある「町中華」に対して、「ガチ中華」は完全に非日常を味わいに行く。
隙間時間に気軽に行ける「町中華」に対して、「ガチ中華」を選ぶには少しだけ気合いを入れる必要がある。
そういえば「ガチ中華」も久しく食べてないから、今度行こう。
誰と行こうか?
どのお店に行こう?
「よし! 今から行こう!」とならないところが、「町中華」と「ガチ中華」との大きな違い。どっちも大好きだけど。

そんなことを考えていたら、「日替わりランチ」の到着だ。
今日の日替わりは「麻婆豆腐」。食欲をかき立てるスパイシーな香りがたまらない。
たっぷりのひき肉と豆腐。
ほんのり痺れる山椒とピリッと辛い唐辛子。
そういえば、とろみのある麻婆豆腐は日本ならではだって話を聞いたことがある。
すみません。ご飯おかわりお願いします!
2杯目だってご飯がすすむ!
有酸素運動のようにじんわり身体が熱くなり、無酸素運動のように一心不乱にスプーンを口に運ぶ。
完食後、一息つくと何とも心地よい気持ちになっていた。
ごちそうさまでした!

「ありがとうございました! またお願いします!」
お店を出て仕事に戻る私の背中を、大将の声が押してくれる。
今日も美味かった。お腹も心も満たされた。これ以上ない状態で午後の仕事に臨めそうだ。
冷たい風に吹かれながら、「鴻園」の魅力について改めて考えてみた。
・抜群に美味い!
・気を使わない雰囲気
・地域の人たちに愛され続けている
・大将の人柄 などなど
あれ? これらの魅力を一言で言い表せる言葉を私は知っている。「町中華」だ。
やっぱり、「町中華」って言葉を生み出した人のセンスには嫉妬する。