四大版画集『気まぐれ』と『戦争の惨禍』からゴヤの表現の真髄に触れる

スペインの宮廷画家として地位を獲得しながらも、病により聴覚を失い、晩年亡命したフランス・ボルドーにて82歳でその生涯を閉じたフランシスコ・デ・ゴヤ(1746–1828)。

そんなゴヤが後半生に手がけたのが銅版画。本展では、ゴヤの四大版画集から『気まぐれ』と『戦争の惨禍』それぞれ80点を、前後期に分けて紹介する。

全聾になって最初に発表した版画集『気まぐれ』に登場する魑魅魍魎(ちみもうりょう)の豊かな表情には、人間の愚かさ、おかしみが醸し出されている。一方、『戦争の惨禍』(1863年初版)は、60歳を過ぎたゴヤが「戦争」という現実を見つめ10年余りをかけて制作したものの、生前に発表されることはなかったという。

展覧会担当の朝木由香さんは、「宮廷画家として地位を得ながらも病により聴覚を失い、無音の世界で到達したモノクローム、光と闇の中には、人間に対する深い問いかけが刻み込まれています。また、特集『1959―スペインにいった現代日本版画展』では、日本におけるゴヤの受容を起点に、日本とスペインの間に展開した版画交流の一端をたどります」と見どころを語ってくれた。

多様な技法を駆使した2つの版画集の作品から、絵画とは違った表現者ゴヤの真髄がうかがえる。

フランシスコ・デ・ゴヤ 版画集『気まぐれ』37『弟子の方が物知りなのだろうか?』 初版は1799年 エッチング、バーニッシャー、アクアチント、ビュラン、紙 『神奈川県立近代美術館』蔵(前期展示)。
フランシスコ・デ・ゴヤ 版画集『気まぐれ』37『弟子の方が物知りなのだろうか?』 初版は1799年 エッチング、バーニッシャー、アクアチント、ビュラン、紙 『神奈川県立近代美術館』蔵(前期展示)。
フランシスコ・デ・ゴヤ 版画集『気まぐれ』43『理性の眠りは怪物を生む』 初版は1799年 エッチング、アクアチント、紙『神奈川県立近代美術館』蔵(前期展示)。
フランシスコ・デ・ゴヤ 版画集『気まぐれ』43『理性の眠りは怪物を生む』 初版は1799年 エッチング、アクアチント、紙『神奈川県立近代美術館』蔵(前期展示)。
フランシスコ・デ・ゴヤ 版画集『気まぐれ』1『自画像』 初版は1799年 エッチング、アクアチント、ドライポイント、ビュラン、紙 『神奈川県立近代美術館』蔵(前期展示)。
フランシスコ・デ・ゴヤ 版画集『気まぐれ』1『自画像』 初版は1799年 エッチング、アクアチント、ドライポイント、ビュラン、紙 『神奈川県立近代美術館』蔵(前期展示)。

1959年にスペインで開催された「現代日本版画展(Grabados Japoneses)」にも注目

村井正誠『女の顔』1956年 シルクスクリーン、紙『神奈川県立近代美術館』蔵(全期展示)。
村井正誠『女の顔』1956年 シルクスクリーン、紙『神奈川県立近代美術館』蔵(全期展示)。

日本とスペインの版画交流に着目し、「ゴヤ版画展」の特集として、1959年にスペインで開催された「現代日本版画展(Grabados Japoneses)」で展示された作品を紹介。同展とそれに先駆けて鎌倉館の「スペインにいく現代日本版画展」に出品された村井正誠や上野誠、海老原喜之助などの版画や新資料から、日本とスペインの間に交わされた作品と人のつながりをたどった展示が興味深い。

上野誠『屠場のうた』1957年 木版、紙『神奈川県立近代美術館』蔵(全期展示)。
上野誠『屠場のうた』1957年 木版、紙『神奈川県立近代美術館』蔵(全期展示)。
海老原喜之助『本を焼く人』 1956年 リトグラフ、紙『神奈川県立近代美術館』蔵(全期展示)。
海老原喜之助『本を焼く人』 1956年 リトグラフ、紙『神奈川県立近代美術館』蔵(全期展示)。

開催事項

「コレクション展ゴヤ版画『気まぐれ』『戦争の惨禍』」

開催期間:2024年8月10日(土)~10月20日(日)※展示替えあり
開催時間:9:30~17:00(入館は~16:30)
休館日:月(8月12日・9月16・23日・10月14日を除く)
会場:神奈川県立近代美術館 鎌倉別館(神奈川県鎌倉市雪ノ下2-8-1)
アクセス:JR横須賀線・江ノ島電鉄鎌倉駅から徒歩15分
入場料:一般250円、20歳未満・学生150円、65歳以上・高校生100円 ※中学生以下の方と障害者手帳など、ミライロIDをご提示の方(および介助者原則1名)は無料。

【問い合わせ先】
神奈川県立近代美術館 鎌倉別館☏ 0467-22-5000
公式HP  http://www.moma.pref.kanagawa.jp/exhibition/2024-a-collection1

 

取材・文=前田真紀 画像提供=神奈川県立近代美術館