菅野製麺所とは
1949年、大森で製麺業を始めた菅野製麺所。「その頃は外食の選択肢が少ない時代でしたが、ラーメン店は比較的多かったそうです」と、2代目社長の菅野善男さん。当時は珍しかった上質のかん水を使用した麺が人気を呼び、取引先は約700軒にも上った。その後、埼玉に工場を設立し、大型製麺機を導入するも麺の質が低下。取引先は半分に減ってしまう。
しかし、転機はすぐに訪れた。当時、袋麺のうどんを販売していた大手製粉メーカーから、「中華麺を作れないか」と依頼が来たのだ。結果的に1日40万食を卸す大事業となり、不死鳥のごとく復活。しかし、それでも個別のラーメン店の要望に合わせた麺作りをやめることはなかった。「やはり、弊社の原点は街場の店とのやり取りですから」と、社長。
国内外80種の粉を用いて試行錯誤を重ね、品揃えは500種を超えた。2011年には袋麺の生産をやめ、卸のみにシフト。まさに原点回帰だ。「店側の要望に応えるだけでなく、私たちから店の味に合う麺を提案しています」とは、営業部長の平賀貴博さん。現在取引先は、全国約2400軒。蒲田発の製麺所の味は、これからも日本中に広がっていく!
お膝元で味わいたい蒲田ラーメン3選
麺との出合いは、まず地元から
全国津々浦々のラーメン店に麺を卸し、その知名度を広げている菅野製麺所。そのお膝元たる蒲田では、やはり菅野ブランドの麺を使った店があちこちに。今回はその味を生かした名店を、麺を選んだストーリーとともにご紹介!
しなそば 天味
シャモの深みある旨味が胃袋に染みる
天ぷら店として商いを続けていた小林宏明さんは胸に秘めていたラーメン愛に従い、2019年にラーメン店として再出発。人気はしおそばだ。スープの出汁は、シャモガラと丸鶏。そこへ数種の塩で作ったタレを合わせ、やさしくもコク深い味わいに。合わせる麺は、「風味とコシの両方がほしい」と、オーダー。ツルっとした喉越しと口の中に広がる芳醇な香りに、思わず頬がゆるんでしまう。
『しなそば 天味』店舗詳細
中華そば やま福
口当たりのよさに、ほっとひと息
系列の居酒屋で店長をしていた福士博文さん。「特別メニューのラーメンが人気だったので、専門店をやるしかないな」と、2月に開業。「居酒屋時代から使っていた菅野さんのがしっくりきた」と、国産小麦配合の香り高い麺をオーダー。丸鶏やガラ、モミジ、貝類の出汁に、乾物の旨味を利かせた醤油ダレを合わせたスープによく絡む。ひと口すすれば、丸みのある味わいにほっこり人心地つく。
『中華そば やま福』店舗詳細
麺場Voyage
牛骨とホタテの風味をガツンと食らう
開店時からさまざまな鮮魚出汁のラーメンを作っていた店主の貝原光さん。「特にホタテ出汁が人気で、そのまま看板になりました」と、笑う。和牛とホタテらーめんは、牛骨とホタテの出汁に、昆布の根とシイタケ、4種の塩を合わせたタレからなるスープが力強い香りを醸し出す。「蒲田でやるなら菅野さん」と、製麺所まで足を運び選んだツルツルの麺が、スープの旨味を口へと運び、箸が止まらなくなる。
『麺場Voyage』店舗詳細
取材・文=高橋健太(teamまめ) 撮影=山出高士
『散歩の達人』2021年10月号より