中国の『論語』には、「四十にして惑わず」とある。不惑の40代。だが実際の40代は、迷いと焦燥の連続だ。日々の生活、人間関係、仕事の進め方、世界との関わり方——自分の進む道はどこなのか。暗中模索のなかで、本はどんな存在なのか、どんな支えになっているのか、3人の読書家と話した。

サンキュータツオさんの10冊

サンキュータツオ

1976年、東京生まれ。日本語学者、芸人。漫才師「米粒写経」として活躍する一方、一橋大学などで非常勤講師もつとめる。文学修士。著書に『これやこの サンキュータツオ随筆集』(角川書店)、『学校では教えてくれない!国語辞典の遊び方』(角川文庫)などがある。

『「文」とは何か 愉しい日本語文法のはなし』

橋本陽介 著  光文社新書/2020年
橋本陽介 著  光文社新書/2020年

文とは何か、にはじまり、助詞と助動詞、自動詞と他動詞など、日本語文法をエンターテインメントとしておもしろく解説していく。

『どこからが病気なの?』

市原真 著  ちくまプリマー新書/2020年
市原真 著  ちくまプリマー新書/2020年

病気と平気の線引きはどこか、病気とは何か。病理医ヤンデル先生が、中高生にもわかりやすく人体と病気の仕組みを解説する。

『ウェブスター辞書 あるいは英語をめぐる冒険』

コーリー・スタンバー 著  左右社/2020年
コーリー・スタンバー 著  左右社/2020年

アメリカの辞書出版社メリアム・ウェブスター社の辞書編纂(さん)者が、英語という言語と真摯に向き合い、辞書ができるまでの逸話を描く。

『メーター検針員 テゲテゲ日記』

川島徹 著  フォレスト出版/2020年
川島徹 著  フォレスト出版/2020年

電気メーターの検針員として10年間働き、クビになった。検針1件につき40円。天気や気温にかかわらず、働き続けた日々をつづる。

『まなざしが出会う場所へ 越境する写真家として生きる』

渋谷敦志 写真・著  新泉社/2019年
渋谷敦志 写真・著  新泉社/2019年

越境する写真家として、世界各地の紛争地帯や飢餓の現場を取材し、現代社会の問題を照らし出す。彼が見たものは自分たちの問題なのだ。

『どこにでもある どこかになる前に。』

藤井聡子 著  里山社/2019年
藤井聡子 著  里山社/2019年

故郷の富山は、再開発でどこにでもありそうな姿になっていた。Uターンしたライターは戸惑いとともに故郷と向き合い始める。

『かしこくて勇気ある子ども』

山本美希  リイド社/2020年
山本美希  リイド社/2020年

妊娠から出産間際までの心のうつろいを丁寧に描く。読み進めるうちに、賢くて勇気ある子供とはなにか、を考える。

『4522敗の記憶』

村瀬秀信 著  双葉社/2013年
村瀬秀信 著  双葉社/2013年

12球団最多4522敗。98年の奇跡から一転、黒く沈んだ沼の歴史が始まる。でも応援せざるをえない。横浜ファンによる渾身(こんしん)の1冊。

『大英自然史博物館 珍鳥標本盗難事件』

カーク・ウォレス・ジョンソン 著  化学同人/2019年
カーク・ウォレス・ジョンソン 著  化学同人/2019年

珍しい鳥の羽が盗まれたのはなぜか。そもそも珍しい鳥はなぜ集められたのか。実話からひもとくと近代の「人間」像が見えてくる衝撃の作品。

『古典は本当に必要なのか、否定論者と議論して本気で考えてみた。』

勝又基 編  文学通信/2019年
勝又基 編  文学通信/2019年

役に立つ立たないで論じられる学校教育。なかでも古典がやり玉に挙げられる。この本は学校教育の論点を、古典という切り口で整理した必読書。

牟田都子さんの10冊

牟田都子(むた・さとこ)

1977年、東京生まれ。校正者。出版社の校閲部に勤務後、独立。これまで関わった本は『悲しみの秘義』(若松英輔著)、『おやときどきこども』(鳥羽和久著)など多数。共著に『本を贈る』(三輪舎)、『あんぱん ジャムパン クリームパン 女三人モヤモヤ日記』(亜紀書房)。

『バウルを探して〈完全版〉』

川内有緒 著 中川彰 写真  三輪舎/2020年
川内有緒 著 中川彰 写真  三輪舎/2020年

インド・ベンガル地方で歌い継がれたバウルの歌。どこに行けば会えるのか。現地に渡り、その謎を写真家とともに追いかけた記録。

『季節の手帖』

幸田文 著  平凡社/2010年
幸田文 著  平凡社/2010年

「木も草も、雨も雲も、よく気をつけて眺めればもっとよくその美しさがわかる」。めぐる四季を言葉で写し取った随筆集。装幀も美しい。

『仕事本 わたしたちの緊急事態日記』

尾崎世界観、町田康ほか 著  左右社/2020年
尾崎世界観、町田康ほか 著  左右社/2020年

2020年4月、コロナ禍で働き続けた77人の日記。スーパー店員、タクシー運転手、ホストクラブ経営者……それぞれはどうやって生きていたのか。

『メイドの手帖 最低賃金でトイレを掃除し「書くこと」で自らを救ったシングルマザーの物語』

ステファニー・ランド 著 村井理子 訳  双葉社/2020年
ステファニー・ランド 著 村井理子 訳  双葉社/2020年

ひとりで子供を育てながら、富裕層の家を掃除するメイドの仕事に就いた著者。誰からも尊重されないなか、未来を変えていく希望を描く。

『モヤモヤの正体 迷惑とワガママの呪いを解く』

尹雄大 著  ミシマ社/2020年
尹雄大 著  ミシマ社/2020年

人のふるまいや言動が気になる、イラッとする、そんな自分がいやになる悪循環。現代人の陥りがちな「呪い」を明解な言葉で解除する。

『感動、』

齋藤陽道 写真   赤々舎/2019年
齋藤陽道 写真   赤々舎/2019年

同じ障害がある人を被写体にしながらも、ありがちなまなざしに抗い、写真と向き合う。その写真に、思わず引きつけられる。

『月と金のシャングリラ』

蔵西 著  イースト・プレス/2020年
蔵西 著  イースト・プレス/2020年

1950年代のチベットの僧院が舞台。作者のチベット愛が、書き込みの濃密さに表れる。巻末の参考文献リストも圧巻。全2巻。

『ブードゥーラウンジ』

鹿子裕文 著  ナナロク社/2020年
鹿子裕文 著  ナナロク社/2020年

福岡のライブハウス「ブードゥーラウンジ」に集まる「はみだし者」を描く群像劇。ライブハウスを知らない人にこそ読んでほしい。

『リボンの男』

山崎ナオコーラ 著  河出書房新社/2019年
山崎ナオコーラ 著  河出書房新社/2019年

山崎ナオコーラは、一作ごとに私たちを拘束する常識を解体してくれる。もっともリアルタイムで読みたい作家。

『ヤクザときどきピアノ』

鈴木智彦 著  CCCメディアハウス/2020年
鈴木智彦 著  CCCメディアハウス/2020年

ヤクザの潜入ルポで知られるライターが52歳にしてピアノを習い始める。「ダンシング・クイーン」を弾きたくて。学ぶ喜びに満ちた一冊。

小国貴司さんの10冊

小国貴司

1980年、山形県生まれ。『BOOKS青いカバ』店主。学生時代から古書店巡りを精力的に行い、現在に至る。『ブックオフ』には一家言あり。2004年リブロ入社。退社後、2017年1月に『BOOKS青いカバ』を開店。

『こびとが打ち上げた小さなボール』

チョ・セヒ 著  河出書房新社/2016年
チョ・セヒ 著  河出書房新社/2016年

軍事政権だったころの1970年代の韓国ソウルで、虐げられてきた人たちの物語。長く読み継がれてきた130万部のロングセラー。

『The Color Work』

ヴィヴィアン・マイヤー 写真  HARPER DESIGN/2018年
ヴィヴィアン・マイヤー 写真  HARPER DESIGN/2018年

アメリカでベビーシッターとして働きながら写真を撮り続け、死後に膨大なネガが発見された。カラーの写真を集めた1冊。

『伊豆漫玉ブルース』

桜玉吉 著  KADOKAWA/2019年
桜玉吉 著  KADOKAWA/2019年

伊豆の山中に家を買った漫画家。コンビニでさえ山道を車で下りないと行き着けない。押し寄せる虫と動物との闘いの日々を描く。

『なぜ人と人は支え合うのか 障害から考える』

渡辺一史 著  ちくまプリマ―新書/2018年
渡辺一史 著  ちくまプリマ―新書/2018年

2016年に相模原市で起きた障害者殺傷事件などを通して、障害者と健常者、人と人のあり方を見つめ直す。

『これは水です』

デヴィッド・フォスター・ウォレス 著  Little, Brown and Company/2009年
デヴィッド・フォスター・ウォレス 著  Little, Brown and Company/2009年

アメリカの小説家による、大学の卒業式でのスピーチ。決まりきった日常は、なぜ退屈なのか。広大な外の世界へ踏み出すためにやるべきこととは。

『ドン・カミロ大いに困る』

グアレスキ 著 文藝春秋/1955年
グアレスキ 著 文藝春秋/1955年

戦後すぐのイタリア。村長と神父が、主義と思想のにらみ合いを越えて繰り返される悲喜こもごもの物語。

『神様の住所』

九螺ささら 著 朝日出版社/2018年
九螺ささら 著 朝日出版社/2018年

九螺(くら)さんの短歌と散文は何度読んでも、言葉の新鮮さを感じさせる。その才能に編集者がほれ込んでできた一冊に魅入られること間違いなし。

『走る家族』

黒井千次 著  集英社文庫/1978年
黒井千次 著  集英社文庫/1978年

黒井千次は、若かりし頃「労働」と「生活」の関係について極めて前衛的な作品を書いていた。いま読み返しても発見の多い作品集。

『日本蒙昧前史』

 磯崎憲一郎 著  文藝春秋/2020年
磯崎憲一郎 著  文藝春秋/2020年

読んでいる最中、どこに連れていかれるのかわからない、けれど退屈とは思わない、生き物のようにうごめく稀有な小説。

『原因 一つの示唆』

トーマス・ベルンハルト 著  松籟社/2017年
トーマス・ベルンハルト 著  松籟社/2017年

一度読むとクセになるベルンハルトの「自伝的」五部作の一作目。自分の頭で感じ、考えることの生きづらさと大切さがわかる。

撮影=三浦孝明
『散歩の達人』2020年11月号より