一箱古本市+チェアリング? 一箱本棚ピクニックとは

好きな本を小箱に入れて持ち寄り、屋外で本を読んだり話したりする「一箱本棚ピクニック」。フリーマーケット型の古本市「一箱古本市」や、『散歩の達人』「さんたつ」でもたびたび紹介してきた“チェアリング”などの要素を組み合わせ、編集部で考案した遊びだ。

散歩に折りたためる椅子を持っていってみよう。気持ちのよいスポットを見つけて座ってみよう。それはキャンプともピクニックとも、ちょっぴり違う「チェアリング」。創始者のお二人にその魅力を語ってもらいました!

読書特集の『散歩の達人』2020年11月号の企画として、読書好きの制作陣4人で実践してみたところ、これが想像以上の楽しさだった。まずは、その遊び方から紹介しよう。

HOW TO 一箱本棚ピクニック

1.好きな本を選書して箱に入れる

家にある小箱に入る程度の冊数で各々が選書。正方形に近いダンボールや、クール便の荷物が入っていた発泡スチロール、百均の小型クーラーボックスなどが使いやすく運びやすい。今回は冊数の目安を10冊~20冊程度とし、選書のテーマは持ち寄る人に一任した。テーマを自分で決めて、箱に入る冊数を絞る作業がまず楽しい!

筆者の一箱本棚。好きな本をギッシリ詰め込むため、箱のサイズも考慮したうえで本を厳選。上の空きスペースには文庫、端っこには大きな絵本と、テトリスのように本を詰め込むのが楽しかった。

2.持ち寄った本を読みつつ話す

公園などのピクニックに適した場所に集まり、持ち寄った本棚や食べ物・飲み物などを並べる。持ち寄った本は各々が勝手に読んでよい。読みながら「どんなテーマで選んだの?」「この本、気になってたんですよ!」「この作家さんの小説ってどんな感じなんですか?」などなど話すと、自然と会話が弾む。

自分が持ってきた柴崎友香『千の扉』について話す筆者。なおピクニックをした公園は、『千の扉』の舞台となった都営住宅の一角にある。

3.気になった本は借りて帰る

一通り話したり食べたりしたら、最後に興味を持った本の貸し借りを。筆者は『津山三十人殺し』を借りて帰った。

詳しくは後述するが、なぜか事件の本の話で盛り上がる不穏なピクニックとなった。

「人の家の本棚」を屋外で眺める楽しさ!

実践してみてまず面白かったのは、「人の家の本棚を眺める感覚」を外で味わえたこと。お気に入りの本が凝縮された一箱本棚は、持ち主の人となりや人生が表れたものだからだ。

そして本を肴に会話をしていると、自然と話は深くなる。参加者の1人で、バルテュスの画集を持参したオカダカメラマンは、「絵画も好きなんですか?」と問われて「絵で挫折した暗黒の20代がありまして……」と知られざる過去を吐露。純文学の本が目立った編集・吉岡に「文学部だったんですか?」と聞くと、「学部は違いますけど、卒論が台湾映画で……」という何だか納得の話が聞けた。

ここで改めて4人の参加者と持参した一箱本棚を紹介しておこう。

『散歩の達人』編集長・土屋広道の一箱本棚

なぜピクニックに『津山三十人殺し』を?

土屋編集長は『被差別文学全集』(塩見鮮一郎/河出書房新社)、『関東大震災』(吉村昭/文藝春秋)など歴史関連の書籍が多めの選書。『津山三十人殺し』(筑波昭/新潮社)や『図説 現代殺人事件史』(福田 洋/河出書房新社)など殺人事件の本も多く、「なぜピクニックにこんな本を……?」と訝しがられたが、実はみな興味津津。話が盛り上がる本が多数あった。

なお当日はかなり疲れが溜まっていたようで、後日「何であんなに暗い本ばかりを持っていったんだろう……」と1人で後悔していた。

カメラマン・オカダタカオの本棚

好きな本は「旅、軍隊、スパイもの」

大好きな「旅、軍隊、スパイもの」の本を中心に、「自宅にあった本を好きなものから順番に選んできた」というオカダカメラマンの本棚。「ちょうどいいサイズの本棚があったから」と、箱ではなく本棚を持参しての参加となった。『極北に駆ける』(植村直己/文藝春秋)、『風に訊け』(開高健/集英社)など、旅好きカメラマンらしい書籍が並んでいる。

なお最近影響を受けた本は『歴史と名将―戦史に見るリーダーシップの条件』(山梨勝之進/毎日新聞出版)。「とても参考になる!」と熱弁していたが、どう影響を受け、何の参考になったのかは不明。

編集・吉岡 百合子の本棚

サードウェーブな独立系書店?

選書のテーマは「変わった本」。箱は会社にあったダンボールだそう。今村夏子、村田沙耶香、アントニオ・タブッキ、イタロ・カルヴィーノなど、国内外の純文学系作家の作品が目を引く。『虫と歌 市川春子作品集』(講談社)、『おむすびの転がる町』(panpanya/白泉社)といった漫画も含めて、「現実だけど、どこか不思議な世界」を描いた作品が多い。

「知り合いの書店員さんにオススメしてもらった本が多い」ということで、独立系の新刊書店のようなラインナップとなっている。

ライター・古澤誠一郎の本棚

「外で読んで楽しい本」を中心に

撮影場所が舞台の『千の扉』ほか、街歩き漫画の『ちづかマップ』(衿沢世衣子/講談社)や、「流しの写真屋」として活動した写真家の『新宿 1965-97』(渡辺克巳/新潮社)など、街を描いた本を中心に選書。そこに『東京都内乗合バス・ルートあんない』(JTBパブリッシング)、『東京通り名マップ』(昭文社)などの地図本を加え、空いたスペースには昔から好きな本、最近読んで面白かった本などもギュウギュウに詰め込んだ。

興味を覚えた本から会話は数珠つなぎに拡大

……と、このように一箱本棚を見ただけでも、その人の趣味趣向や人となりが何となく見えるのが面白い。なお、4人がこれだけの本を持ち寄っても、被った本が1冊もないのも意外だった。

オカダカメラマンの持参した本を眺める編集長・土屋。ともに歴史系の本が好きで、相通ずるところがあった模様。

そして各自が持ち寄った本棚は、小さいながらも店主の個性が表れた書店のようなもの。書店に来たときのように、気になった本をパラパラと読めるだけでなく、「この芥川賞を獲った『破局』ってどんな本なの?」と気軽に聞けたり、「『阿房列車』は面白いですよね~」と既読の本の感想を話し合ったりできるのも楽しかった。

絵本『ふたりはともだち』(アーノルド・ローベル/文化出版局)を「図書室にあった!」と懐かしがって読む編集・吉岡。むかし読んだ本との再開もまた楽しい。

また、ひとたび本の話が始まれば、話は数珠つなぎに広がっていく。筆者の持参した写真集『新宿 1965-97』を見たオカダカメラマンは、「新宿の写真集といえばコレですよ! あ、でも吉岡さんは中を見ないほうがいいかもしれない……」と荒木経惟が80年代の新宿歌舞伎町と東京の風俗を撮影した『東京ラッキーホール』(太田出版)を提示。それをみんなで話しながら読み終えると、今度は筆者が「街の人を写した写真集ならこれもいいですよ」と『喰寝』(金子山/自費出版)を勧め……とプレゼン合戦になった時間もあった。

絵本『よあけ』(ユリー・シュルヴィッツ/福音館書店)を広げ、「最後のこのページがいい!」と魅力を伝える筆者。

なお戦争モノが好きなオカダカメラマンは、土屋編集長の本棚に『剣豪全史』(牧 秀彦/光文社)という本を見つけ、「この分野は未着手だった……!」と新たな世界との出会いに興奮。筆者の場合は、編集・吉岡の棚に自宅で積ん読している本を複数発見して落ち込んだが、「市川春子の『虫と歌』は名作なんで読んでください!」と熱弁され、その魅力もしっかり教えてもらった。この一箱本棚ピクニックは、「気になっていたけど読めていない本」「積読中の本」を読むきっかけにもなるかもしれない。

ビジュアルで楽しめる本は話が盛り上がりやすかった!

ちなみに、この一箱本棚ピクニックで特に話が盛り上がったのは、写真集や画集、地図など、ビジュアルで楽しめるもの。オカダカメラマンが持参した映画『紅の豚』原作の『飛行艇時代』(宮崎駿/大日本絵画)などは誰もが話に参加でき、「やっぱりジブリは強いですね~」との声が出た。

漫画などビジュアルで楽しめる本は、外でパラパラ見るのに最適だった。

意外な人気だったのは事件本。土屋編集長の持参した『津山三十人殺し』や、オカダカメラマンが勧める『羆嵐』(吉村昭/新潮社)などはみなが興味津々に話を聞いていた。気持ちの良い青空のもとでのピクニックだったが、最後はみなが不穏な本を交換して帰ることになった。

編集・吉岡が持ち帰ったのは『新宿 1965-97』と『羆嵐』だった。事件の本の話で盛り上がる中、目の前にナイフがあったのも何だか不穏。

なお実践時の注意点は、感染症対策をしっかりすること(持ち寄り品は直箸や手で取らず、各自分を最初に取り分ける、話すときはマスク着用)、何かしら座るものを持参すること(地べたにシートを敷くだけだとお尻が痛くなる!)など。本格的に寒くなる前に、みなさんもぜひ屋外で実践をどうぞ~!

取材・文=古澤誠一郎 撮影=オカダタカオ