アジフライバーガーに厚焼たまごサンド。種類豊富な総菜パンが人気
北千住駅から歩いて6分ほど。サンロード商店街にある『ふらんすや』は多種多様な総菜パンが評判だ。中でもおすすめなのが、こだわりアジフライバーガー。肉厚なアジフライは身がほっくりしていて、タルタルソースが合わせられている。外側カリッと、生地はしっかりなパンと一緒にかぶりつけば、なんともぜいたくなうまさ。
サルサdeフランクは、極太のフランクと挟まれたハラペーニョがインパクト大だが、サルサソースを別容器でつけてくれるという芸の細かさ。豪快にかぶりつけば、肉、トマト、刺激的な辛さが一体となった味わいが口中に広がる。
厚焼たまごサンドも、見た目こそ派手だが、玉子焼きは甘さ控えめでしっとりとした焼き上がりで、上品なおいしさが楽しめる。
どれも間違いのないおいしさの総菜パンはほかにもいろいろとあって、全種コンプリートを目指したくなる。
この『ふらんすや』が始まったのは、2006年のこと。だが実は『ふらんすや』自体はそれ以前から営業していたのだ。
個性的な総菜パンが生まれた意外な理由
そもそも店主の三柴重夫さんがパンと出合ったのは、大学生のとき。アルバイトを探していて、たまたま求人が出ていたベーカリーで働き始めた。仕事は店での販売で、パンにはさほど興味がなかったが厨房の仕事を手伝うようになり、だんだんとパン作りの面白さに目覚めていった。
大学卒業後もその店で働くことになり、その後、厨房のチーフの紹介で、麹町のベーカリーで働くように。そこで出会った先輩が北千住でベーカリーを始めるというので、手伝い始めた。これが1989年のことで、その店が最初の『ふらんすや』だったのだ。
そしてその17年後、先輩は別の場所でベーカリーをやることになり、三柴さんが引き継ぐ形で新たな『ふらんすや』を始めた。これが現在につながるのである。
三柴さんの店となった『ふらんすや』。幅広いラインアップの「町のパン屋さん」というあり方自体は変えていないが、小麦粉の配合など、パン自体は自分の好みに変えたそうだ。
総菜パンを充実させたのも、三柴さんの趣味だったのかと思えば、実はそうではなかった。
当時の店はパンを焼けるのは三柴さんだけで、あとはパートのスタッフさん。ひとりで多種のパンを作るのは限界がある。そこで種類を増やすため、切って挟むだけの総菜パンを始めたのだという。つまり、業務上の理由だったのだ。
しかし、その総菜パンが評判となった。最初こそ仕方なく始めたことだったのだが、期待に応えているうちに種類は増えクオリティはあがり、すっかり店の看板となったのである。
パン職人のプライドより
予想外だった総菜パンのヒット。三柴さんは『ふらんすや』を引き継いでから、パン屋をやることの意識も変わったという。
「自分の店になって、好きなパンを作れると思っていたんですけど、そうではないというのはすごく感じました。こんなパンを作れるんだぜっていう職人のプライドみたいなものはなくなって、それよりもお客さまが喜んで買ってくれてまた店に来てくれることのほうが、よほどうれしく感じるようになりました」
プライドよりもお客さまファースト。だから『ふらんすや』の総菜パンは、こんなにもおいしいのだ。
ちなみに『ふらんすや』は総菜パンだけでなく、クロワッサンなどのリッチ系やスイーツ系もおすすめ。特にスイーツ系はパティシエのスタッフが入ったので、ラインアップもかなり増えている。
最後に、お客さん優先ではなく、自分が好きで自信のあるパンを聞いたところ「食パン」という答えが返ってきた。
「本当に作りたいのは食パン類なんです。食パンの売れる店は長く続けられる店だと思っているんで、ちゃんといいものを毎日、作れるように頑張っています」と三柴さん。
取材のあとに、三柴さんの好きな食パンから玄米食パン240円を買い求め、家でトーストして食べてみた。さっくりとした焼き面に、もっちりとした生地。小麦の甘みに玄米の香りとプチプチした食感が加わり、かみしめるほどにうまい。これなら『ふらんすや』は、ずっと長く続くはず。そう思えた。
取材・撮影・文=本橋隆司