大通りから外れた路地にあるインドカレーの名店
靖国通りと白山通りが交差する神保町交差点から少し入ったこの辺りは、所々に昭和の町並みが残っている。店舗はビルの地下1階にあることも相まって、まるで隠れ家を訪れるようだ。
階段を下りて店内に入ると、ガラス張りの厨房が目に入る。厨房を横目に奥へと進むと、広々とした空間になり、テーブル席が並んでいた。
打ちっぱなしのコンクリート壁が印象的。壁にはサリーを使ったアート作品が飾られた、おしゃれな意匠だ。
この店を運営するのは『西インド会社』。タイ料理の『メナムのほとり』などの飲食店を運営し、インドをはじめとする香辛料や衣料品などの輸入・販売も行っている。『インドレストラン マンダラ』は飲食店の1号店だという。
酸味と甘み、スパーシーさが混在するチキンバターマサラ
カレーは20種類以上のスパイスを、そば用の石臼を使って独自にブレンドしたガラムマサラを使用する。店長の瀧澤多美子さんによると「この割合は数人の関係者しか知らず、歴代の店長ですら見たことがないという秘密のレシピ」だという。
カレーとともにタンドールチキンなどが食べられる平日Aランチを注文した。
曜日替わりのカレーの中から1種類、またはハーフの2種類を選ぶことができる。カレーはチキンバターマサラを選び、ナンはおすすめだというガーリックチーズナン(+250円)に変更。
ちなみに辛さは5段階で選べるが、普通でもかなりの辛さがあるということなので、スタッフと話して辛さを決めよう。
チキンバターマサラは、某食品会社と共同開発をしてレトルトカレーとして販売されている人気ナンバー1カレー。たっぷりのトマトを使っているので、赤色を帯びたカレーに生クリームがかけられ、見た目にも美しい。
ひと口食べてみると、トマトのフレッシュな酸味と、バターが生み出すコク、ガラムマサラの香りと風味が一体となり、思わず笑みがこぼれる。
刺激的なナンや上品なタンドール料理も旨い
ガーリックチーズナンは、2種類のチーズが入り、ガーリックバターの香りが際立つ。ふっくらとしたナンにチーズの塩味とガーリックの風味が加わり、味の深みを感じられる。チキンバターマサラとの相性がいいのはもちろんだが、チーズとガーリックが効いているので、そのまま食べてもおいしい。
タンドールチキンは、スパイシーさを感じるものの突き刺さるような刺激ではなく、鶏肉の旨味が引き出され、上品さすら感じさせる。シークカバブはヒツジ肉を使う店舗が多いが、ここでは鶏の挽肉と豚肉を使用。鶏や豚のジューシーさと旨味が損なわれることがなく、スパイシーさとタンドールで焼いた香ばしさがある。
最後にフルーツ入りのヨーグルト・フルーツライタを食べる。口に含めばスパイスの刺激がリセットされ、口の中が爽やかになる。
ほかにも、おすすめ料理は目白押し
全17種類のカレーで、チキンバターマサラと並んで人気なのがサグチキン(ディナー1300円)。ホウレン草とチキンのカレーで、たっぷりのホウレン草を使用している。優しいホウレン草の甘みと後を引くスパイシーさがあり、千切りのショウガの爽やかさも楽しい。
タンドール料理だと、どうしてもタンドールチキンやシークカバブと思ってしまうが野菜も格別。ピーマンやパプリカ、玉ネギなど、タンドールで焼かれた野菜は甘みがあり、お酒もどんどん進みそうだ。
カレー専門店では珍しい、器はすべて信楽焼を使用
いろいろと食べているうちにちょっとした違和感を覚えた。そう、器がカレー店でよく見るような銀の皿でなかったのだ。瀧澤さんは「料理の器はすべて信楽焼を使っています。インドカレーは手で食べますし、日本人もお寿司やおにぎりなど手で食べる風習があります。焼き物ならばお客様になじみがありますし、温かみを感じられます。それとガチャガチャという音がしないのいいですね」。
最後に「インド料理はカレーやタンドール料理だけでなく、炊き込みご飯のビリヤニ、インド風の揚げ物などもあります。ぜひお試し下さい」と話してくれた。
カレーをはじめとした料理は本格的。温かみある信楽焼の器やおしゃれな店内など、プラスアルファを感じさせる名店だからこそ、多くの人から愛されているのだろう。
取材・文・撮影=速志 淳 構成=アド・グリーン