おでんと豆腐の相性は抜群
豆腐とおでんは相性がいい。おでんのルーツは田楽といわれているし、厚揚げ、がんもどき、巾着など豆腐のおでん種はいくつもある。
豆腐(大豆)を用いた練り製品も全国に存在する。たとえば秋田県大曲・仙北や長崎県雲仙・島原地方には「豆腐蒲鉾」、鳥取県には「豆腐ちくわ」がある。ふわふわな食感が人気の紀文食品の「魚河岸あげ」も豆腐を用いた揚げ蒲鉾だ。また、東京にも生大豆粉を用いた「東京揚げ」がある。
おでんと一緒に食べる茶飯に油揚げを加えてもいいし、日本橋のお多幸本店の「とうめし」のようにおでん汁で煮込んだ豆腐を茶飯の上に乗せても美味しい。
作り方などは「おでんの茶飯・とうめしの作り方」の記事を参考にしてほしい。
おでんはどのような食材も受け入れてくれる懐の深さがあるし、豆腐も非常にアレンジがきく食材なので合わないわけがない。美味しいだけでなく栄養も豊富なので、おでんにも積極的に取り入れたいところだ。
おすすめは町のお豆腐屋さん
豆腐は量販店でも手に入るが、おすすめしたいのが町のお豆腐屋さんだ。できたての豆腐を味わえるだけでなく、原料となる大豆や品揃えにこだわっていたりとお店によって個性の違いを楽しめる。また、製造者と顔を合わせることで安心感を得られるし、会話をすれば愛着も生まれ、人のぬくもりが感じられる。これらの理由はおでん種専門店とまったく同じだ。
町のお豆腐屋さんに訪れてほしい理由はもうひとつある。全国の豆腐店は昭和35年(1960)には約5万軒存在したが、最近では年間500軒ほど減少し続けており、令和2年(2020)には5319軒(東京都は417軒)になっている(参考:厚生労働省「令和2年度衛生行政報告例」)。後継者不足や店主の高齢化など理由はさまざまだが、これもおでん種専門店とまったく同じ傾向にある。町のお豆腐屋さんの魅力を多くの人々に知ってもらい、個性の異なるお店がいくつも残り続けてほしい。
豆腐を詳しく知るなら、豆腐マイスターのくどうしおりさんをフォローするといいだろう。お豆腐屋さんのある町を残すために、旅をしながら豆腐の食文化を研究・発信している。業界の将来を真摯に考えつつも、豆腐のようにふんわりとやさしい語り口で伝えている。
霜降銀座商店街「とうふのかさはら」で豆腐のおでん種を手に入れる
どのお豆腐屋さんに行くかは人それぞれ、興味にあわせて選ぶといい。ご近所のお店でもいいし、話題のお店まで遠出しても面白いだろう。もしくは「おでんに欠かせないお豆腐屋さん」の記事で紹介したように、おでん種専門店の近くにあるお店も便利だ。訪れてみることで新たな発見があると思う。
今回紹介するのは北区西ケ原の霜降銀座商店街(しもふり銀座)にある「とうふのかさはら」。昭和28年(1953)の創業から約70年、親子3代にわたって営業を続ける人気の豆腐店だ。
霜降銀座商店街は筆者お気に入りの商店街だ。狭い路地に多くの個人商店がひしめき、昔懐かしい雰囲気を醸し出している。東に続く染井銀座商店街や西ヶ原銀座商店街などと合わせて賑わいがあり、買い物をするのが楽しい通りとなっている。町のお豆腐屋さんに訪れると、地域の生活を肌で感じることができて面白い。
「とうふのかさはら」の商品はすべて豆腐用の高級大豆である「ふくゆたか」を使用している。大豆の甘みやうまみがしっかりと感じられるので、おでん用以外にも余分に購入するといいだろう。
商品の種類が豊富なところも魅力のひとつだ。絹ごしや木綿豆腐はもちろん、油揚げや生揚げ、枝豆豆腐、ごま豆腐、生湯葉などもある。季節や日によって希望の商品が並んでいない場合があるので、お店の人にいつ頃入手できるか質問してみよう。
未包装の通称「ハダカ」と呼ばれるちくわぶ、白黒2種類のこんにゃく、白滝、糸こんにゃくも揃っている。こんにゃく類が豊富なのはおでん好きには嬉しいところだ。
「とうふのかさはら」には人気商品がいくつかあるが、とくに揚げ出し豆腐をおすすめしたい。温めるとふわとろの食感を楽しめ、出汁のきいたたれが豆腐の美味しさを引き立てる。日本文学研究者のドナルド・キーンさんの好物としても知られ、生前は週に2、3回訪れては購入していたそうだ。このほか「よせとうふ」など手づくりの商品が充実しているので、訪れたらいろいろと試してほしい。
お豆腐屋さんの食材でおでんを作る
ここからは、町のお豆腐屋さんで購入できるおでん用の食材をひとつずつ紹介していこう。「とうふのかさはら」で購入したのは8種類。
左から油揚げ、特製がんも、おさしみ用生ゆば、がんもどき小、もめん豆腐、焼き豆腐、生揚げ(厚揚げ)、糸こんにゃく。また、おでん用以外に揚げ出し豆腐も手に入れた。
ほとんどはおでん種として煮るだけなので簡単に調理できる。油を使った食材は熱湯をかけて油抜きをし、こんにゃくは灰汁抜き、ちくわぶは下茹でした後に最初から鍋に加える。豆腐のおでん種は10分程度煮ればじゅうぶん美味しく仕上がる。生ゆばは豆乳とおでん汁が混ざり合い、まろやかな味わいになるのでおすすめだ。調理する際は煮込まずにさっと温めるだけでいい。
豆腐のおでん種だけでも美味しくできあがるが、野菜をたっぷり入れてさらにヘルシーなおでんにしてもいい。なお、揚げ蒲鉾などの練り物を加えると味に深みが増すので必ず入れるようにしよう。
お豆腐屋さんのおでん種:生揚げ(厚揚げ)
生揚げ(厚揚げ)は紀文食品の「よく入れる具(たね)ランキング」でもトップ10内に入る人気のおでん種だ。餅巾着に使用する油揚げとともに、おでんに欠かせない食材のひとつとなっている。
煮崩れる心配が少なく、油の美味しさと豆腐のうまみが味わえる。調理をする際はおでん鍋に加える前に熱湯をかけて油抜きをしておこう。煮る時間は弱火で10分くらいが目安だ。
「とうふのかさはら」の生揚げは表面がきつね色に美しく揚がっている。豆腐の密度も高く、大豆のうまみをしっかりと閉じ込めている。
お豆腐屋さんのおでん種:焼き豆腐
焼き豆腐はすき焼きのイメージが強いが、おでん種としてもよく用いられる。料理店やコンビニなどのおでんでもよく見かける。
製造の際に水切りがしっかりされているため味がよく染み込み、煮崩れしにくいのでおでんとの相性は抜群だ。焼き豆腐が手に入らない場合は木綿豆腐を軽く水切りし、油を敷いたフライパンで4、5分炒めるといいだろう。
余ったものは肉と一緒に炒めるなど別料理にもアレンジできる。おでん汁で煮た後に、ごはんや茶飯に乗せて食べても美味しい。
お豆腐屋さんのおでん種:木綿豆腐・絹ごし豆腐
あまり一般的ではないが、木綿や絹ごし豆腐をおでん種にすることもある。生揚げや焼き豆腐に比べて崩れやすいが、味は保証つきだ。
味がよく染み、煮込んでも崩れにくいことから鍋料理には木綿豆腐が向いているといわれている。とはいえ、つるりとした食感の絹ごし豆腐も捨てがたい。絹ごしを調理する場合はほどよく温める程度にするか、別鍋で丁寧に調理するといいだろう。
鶏挽肉に豆腐を混ぜて、ヘルシーなつくねを作ってもいい。団子にしてもいいし、巾着やロールキャベツに包んでも美味しくできあがる。
「とうふのかさはら」のもめん豆腐は大豆の甘みを存分に味わえ、ふわりとした食感も素晴らしい。おでん汁もよく染み込んで、非常に滑らかな味わいとなる。
お豆腐屋さんのおでん種:油揚げ(餅巾着)
油揚げは餅巾着に使用され、おでんでは必須の食材となっている。餅巾着は紀文食品の「よく入れる具(たね)ランキング」でも常連となっている。
おでん汁をたっぷり吸い込んだ油揚げ、とろりと柔らかくなったお餅は最高の組み合わせだ。生揚げと同様に、おでん鍋に入れる前に油抜きをしておこう。ちなみに、油揚げを焼いて食べるときは油抜きをする必要がない場合がある。どのような油で揚げているのかお店に聞いてみるといい。
餅巾着の作り方は「おでんのもち巾着の調理方法」を参考にしてもらいたい。袋状にする作業に少しコツがいるが、慣れれば簡単なのでぜひ自作してほしい。干瓢の戻し方については「かんぴょう(干瓢)の戻し方とおでんでの活用方法」という記事をご覧いただきたい。
餅以外にもうずら卵やつくね、チーズや野菜などを包んでもいい。また、豆腐マイスターのくどうしおりさんが考案した「豆腐巾着」も美味しそうだ。絹ごし豆腐に米粉と片栗粉を加えたもので、クックパッドに豆腐巾着のレシピが掲載されている。
おでん種専門店には「袋詰」と呼ばれるおでん種があり、油揚げの中身は白菜などの野菜や肉、うどんなどバラエティに富んでいる。「東京のおでん種やさんの袋詰」の記事を参考にして、オリジナリティあふれるものを作ってみると面白いだろう。
ふんわり厚めの油揚げも見かけるが「とうふのかさはら」のものは薄めで密着した作りとなっている。袋状にする際には皮を破かないように慎重に作業するといい。
お豆腐屋さんのおでん種:がんもどき(飛龍頭)
がんもどき(飛龍頭)も定番のおでん種だ。お店ごとに工夫を凝らしており、大きさや具材はさまざまで最も個性が出る豆腐製品といえるだろう。
混ぜ込む定番の具材は人参やひじき、刻み昆布、黒ごまなどだが、なにを加えても美味しいのが豆腐の素晴らしいところだ。「おでんのがんもどき(飛龍頭)の調理方法」という記事では百合根、レンコン、銀杏といった秋冬の具材から、アサリ、タケノコ、長ネギという春夏の具材を加えて調理してみたが、どれも非常に美味しくできた。
上の写真は葛飾区立石にある「木村屋豆腐店」の椎茸と銀杏のがんもどき。椎茸はだし汁にしっかり漬け込まれているので、おでんに入れずにそのまま食べても美味しい。「木村屋豆腐店」は慶応元年(1865)創業の老舗だが、地域の再開発によって2023年3月に閉業する予定だ。
「とうふのかさはら」の「特製がんも」は期間限定販売で、エビ、銀杏、人参、ゴマ、椎茸、ゴボウ、レンコンが入った豪華仕様だ。具材それぞれの味わいが楽しめるが、豆腐のうまみを邪魔せず、むしろ引き立てている。
がんもどきは大判が主流だが、ひと口サイズのものも多い。ボリュームが抑えられるのでたくさんの種類が入るおでんに向いている。三之助とうふ(もぎ豆腐店)の「京がんも」など量販店でも比較的手に入りやすい。
「とうふのかさはら」の「がんもどき小」は黒ゴマのみのシンプルなものなので、豆腐の美味しさを純粋に楽しめる。おでん汁をたっぷり吸い込むため、とてもジューシーな仕上がりとなる。
お豆腐屋さんのおでん種:生湯葉
湯葉はあまりおでんでは見かけないが、料理店では比較的使用されている。干し湯葉が多いが、生湯葉を入れても美味しい。
豆乳に浸したものは刺身として食べるのが一般的だが、おでんに入れると豆乳が加わることによって非常にマイルドな味わいとなる。生湯葉は熱を加えすぎると美味しさが半減してしまうので、さっと温める程度で調理したほうがいい。
「とうふのかさはら」の「おさしみ用生ゆば」はとろりとしていてコクがあり、濃厚な味わいを堪能できる。ポン酢ともみじおろしで食べても美味しいそうだ。
お豆腐屋さんのおでん種:糸こんにゃく
「とうふのかさはら」では糸こんにゃくも販売している。現在では白滝と同義になっているが、白滝は穴の空いた筒で押し出して作り、糸こんにゃくは細く刻んで作られていたという。
こちらの糸こんにゃくは1本が非常に太く、白滝とは形状が大きく異なる。白滝ほど汁を抱き込まないが、こんにゃく自身に味がよく染み込んでいる。食感も白滝とこんにゃくの中間といった感じで、小気味よい歯切れとうまみを感じるこんにゃくの厚みが両立していて非常に面白い。
複数の糸こんにゃくが結草(いわいそ)とよばれる紐で結ばれているので、適量に分けて干瓢で結ぶか止め結びにするといいだろう。おでん鍋に入れるタイミングはこんにゃくや白滝同様に最初から投入するとよく味が染みて美味しくなると思う。
お豆腐屋さんのおでん種:こんにゃく、白滝、ちくわぶ
今回は購入しなかったが、こんにゃく製品であるこんにゃく、白滝、ちくわぶも町のお豆腐屋さんで手に入る。
一般的にはこんにゃく専門店が製造したものを仕入れて販売している。パック詰めされた商品を扱うことも多いが、未包装で水に浸かった状態で売られていることも多い。保存期間は短いが、つまりは作りたての新鮮な状態のものが手に入るということだ。これらは「こんにゃく専門店」で工場直売をしていたり、おでん種専門店でも購入できるが、豆腐と一緒に買えるのはありがたい。
町のお豆腐屋さんで人のぬくもりを感じる
町のお豆腐屋さんを覗けば、奥で作業する職人さんの姿を見ることができる。冬場は水が冷たそうだが、かじかむ手をものともせず、早朝から豆腐を作り続けている。
豆腐を食卓に並べたときには彼らの一所懸命な姿が思い浮かび、感謝をしながら味わうことができる。店頭では揚げたてのものをすすめてくれたり、季節や天気について雑談したりと、人のぬくもりが直に感じられる。
日本をこよなく愛したドナルド・キーンさんも揚げ出し豆腐を食べながら、このぬくもりを感じていたに違いない。おでん種専門店と同様に、お豆腐屋さんも人々をやさしく繋ぐ架け橋としていつまでも残り続けてほしいと思う。今回の記事では「とうふのかさはら」を紹介したが、それぞれのお気に入りのお店で豆腐のおでんを楽しんでいただきたい。
とうふのかさはらの基本情報
とうふのかさはら(笠原豆腐店)
〒114-0024 東京都北区西ケ原1-63-9
03-3910-7364
定休日:不定
営業時間:10:30~19:15
取材・文・撮影=東京おでんだね