『東京スリバチ街歩き』
凸凹地形を歩き、谷に迷い込む冒険談
とある取材で、本書の著者・皆川さんと四谷を歩いたことがある。四谷といっても「新宿区四谷」ではなく、その地名の由来ではないかと言われている「四つの谷」のことだ。何度も坂を上ったり下ったりして地形をなぞるように歩き、脳内で凸凹地形の鳥瞰(ちょうかん)図がじわじわとできあがっていくあの感覚は忘れがたい。坂の上と下で街の様子が全く違い、ちょいと階段を下っただけ、距離にして数十mしか離れていないのに、閑静な高級住宅地から下町の路地裏に迷い込んでしまったりする。もはや別世界、異次元、パラレルワールド!
……あ、今「そんな大袈裟な」って思ったでしょ。それ、「スリバチ」のおもしろさをまだ知らない証拠ですよ。
「スリバチ」とは、川や湧水によってできたスリバチ状の谷間や窪地のことで、これがまた東京のそこかしこにある。高低差のある地形が土地利用の違いを生み、それが雰囲気の違いにもつながって、パラレルワールドに迷い込むような冒険ができるというわけ。本書は、その「スリバチ」をこよなく愛し研究を重ねる著者が、いくつかのメディアに寄稿した冒険談を編んだもの。地形や歴史の解説だけでなく街の情景描写も鮮やかで、くすっと笑えるオチもあり、東京スリバチ学会会長の“散歩の達人”としての姿勢が垣間見える。
勝手知ったる街が、まるで未踏の新大陸のように感じられる1冊。「また大袈裟な」と思ったそこのあなた、つべこべ言わずに読んでみて、身近な谷を探し、スリバチ散歩という名の冒険に出かけてみてはいかがですか。(中村)
『最強のウォーキング脳』
「散歩は健康にいい」ということを科学的に証明してくれたのが、本書の著者・加藤俊徳先生。本書では「アイデアが浮かぶポケットタスク・ウォーキング」など仕事力・健康力を高める16のアレンジウォーキングや、7つの脳番地強化トレーニングも提案。歩くことは体や心の悩みを解決する一つの方法だとわかるはず。(土屋)
『純喫茶コレクション』
10年前、取材で会った難波さんが「私の著書です」と差し出した本は、こげ茶と白の縞の表紙とビニールカバーが印象的。会社勤めの傍ら書き溜めたブログが基になったという。長らく幻の名著だったが、加筆修正された文庫が登場。「ダンテ」「エリカ」など閉めた店も多いが、純喫茶はブームを超えた。(武田)
『皆様、関係者の皆様』
能町みね子さんによる「週刊文春」の人気連載コラム「言葉尻とらえ隊」をまとめた文庫本。芸能人の結婚報告、政治家の謎発言や謝罪など、言葉そのもののみならず時には手書きFAXの筆跡から逡巡や葛藤を見抜いて分析&考察する。本誌連載「ほじくり」にも通底する、能町さんの鋭い観察眼にシビれっぱなし!(吉岡)
『散歩の達人』2022年3月号より