すべてはニューヨークで出合った喫茶店から
池袋駅東口から歩くこと3分。都心に広がるオアシス・南池袋公園のすぐそばに佇む雑居ビルの2階で、『梅舎茶館』は営業を行う。店内は、広々とした空間に12席のゆったりとした造り。1999年のオープン以来、店主のヨーダさん(愛称)はこの場所で、中国大陸と台湾で作られたお茶を提供している。
ヨーダさんが中国茶の店をオープンするきっかけとなったのが、三十数年前にアートを学ぶため滞在していたニューヨークで出合った店だった。それは、チャイナタウンで営まれていた喫茶店で、「店主もお客さんも白髪の男性ばかりで、みんな思い思いにお茶とおしゃべりを楽しんでいる姿が印象的だった」という。その店でお茶をすることが好きだったヨーダさんは、「自分もいつかこんな喫茶店を開きたい」と思ったそうだ。
その喫茶店のように、『梅舎茶館』を訪れる人が楽しく交流できるような場になればと、この店では中国茶の提供のほかにも、ペンデュラムを使った占い・鑑定やフラワーエッセンスのセレクト、風水などのサービスも行っている。お茶をいただきながら、ヨーダさんとの会話に花が咲いて、ついつい長居してしまいそうだ。
16種類の香りに分類されるお茶
この店で扱っているお茶は、中国大陸原産の青茶と緑茶、台湾原産の烏龍茶、そして季節のブレンド茶。ヨーダさんは、この店をオープンしてから20年、中国大陸と台湾のさまざまなお茶の産地をめぐり、知見を深めている。中には、インフラが整っていないために、中国の都心部からアクセスに8時間ほど掛かる辺境地にも赴いたことがあったそうだ。
そんな数多くのお茶を知るヨーダさんが、この店の定番の一つとして提供しているのが単叢(たんそう)である。単叢とは、広東省東部にある鳳凰山(ほうおうさん)周辺で育った茶の木から作られるお茶の総称。寒暖差が激しく霧が多い鳳凰山の環境は、良質な茶葉が育つのに最適だという。その単叢の美味しさは、南宋末期の皇帝がいたく感動したと言い伝えが残るほど。品種の数は180種ほどに上り、中でも樹齢200年以上で10m以上の高さがある木から収穫して作ったお茶は宋種単叢(そうしゅたんそう)と呼んで、特別に扱われている。山には、樹齢600年以上の茶の木も存在するようだ。
単叢は香りも特徴的で、花やフルーツのような香りを楽しむことができる。品種ごとに、クチナシの花のような香りを感じられる黄枝香型や、シナモンの香りを感じられる肉桂香型など、16種類の香りのグループ(型)に分けられており、この店では、その年ごとの美味しい茶葉を10種類ほどそろえている。
「その日の気分で香りから選んでもいいし、お客さんの顔色や雰囲気からおすすめのお茶を選ぶこともできます」。ヨーダさんと会話をしながら決めるのも楽しいだろう。
今回は、ヨーダさんに筆者の雰囲気から選んでいただいた老仙翁(ろうせんおう)という品種のお茶をいただいた。黄枝香型に分類されるこのお茶は、確かに花のような甘い香りと味わいが特徴的で、お茶を飲んだ後に喉の奥から戻ってくる甘い余韻(回甘:ふいがん)も楽しめる。ヒマワリの種やナツメヤシなどのドライフルーツ・ナッツ類と、ムラサキイモで作った甘いスープに餡入りの白玉団子を浸した湯圓(たんゆぇん)という中国でポピュラーなお茶請けもセットになっており、甘味をいただきながらゆっくりとお茶を味わうことができる。
ちなみに、メニューにある老仙翁の説明には「タロットカードの隠者を思わせるような印象」と書かれていた。会話する中でうかがい知れた、ヨーダさんの人柄を表すようなウィットに富んだ表現は、お茶の説明だけでなく、この店で販売しているオリジナルグッズの説明でも触れることができる。なぜ私に老仙翁をおすすめしてくれたのか、またそのメニューに書かれた説明の真意についての紹介は割愛するが、気になる方は店に足を運んで直接ヨーダさんに聞いてみてはいかがだろうか。
『梅舎茶館』店舗詳細
取材・文・撮影=柿崎真英